講演情報

[ACG68-P02]グリーンランドGNSS観測を用いたGIA由来地殻変動の推定

*波多 俊太郎1、奥野 淳一1,2,3、菅沼 悠介1,2 (1.国立極地研究所、2.総合研究大学院大学、3.データサイエンス共同利用基盤施設)

キーワード:

氷河性地殻均衡、相対海水準、GNSS

北極圏の急速な温暖化傾向の結果、グリーンランド氷床は過去20年間にわたり質量損失が進行・加速しており、現在の全球海水準上昇の主要な要因の一つとなっている。同時にグリーンランドでは、氷河氷床の質量損失に対する固体地球の応答である氷河性地殻均衡(glacial isostatic adjustment; GIA)に由来する地殻変動が確認されている。たとえばグリーンランド沿岸部の露岩に設置されたGNSS ネットワーク(GNET)観測によると、最大 17.5 mm a–1の隆起傾向が報告されている。基盤上のGNSS観測で測定される変形量は、現在の地表面荷重に即時的に反応する弾性変形と、過去の表層加重変化に応じた比較的長い時間スケールを伴う粘弾性変形の和である。将来の相対海水準変動を正確に予測するためには、場所ごとに異なるこれらの成分を正確に分離する必要がある。しかしながら、モデリング手法に基づく先行研究の推定値間では粘弾性成分に不整合が指摘されている。したがって、地域的な相対海水準変化を正確に予測するには、この地域的な特徴およびその原因を正確に理解することが不可欠である。本研究では、2024年までの更新されたGNET時系列解析を通じて、現在の弾性隆起速度とGIAに由来する隆起速度を分離して推定することを目的とする。

本研究では、グリーンランド全域の55観測点におけるGNET観測データを解析した。GNSSのアンテナ座標はCSRS-PPP(Canadian spatial reference system precise point positioning)サービスを用いて推定した。また、元のRINEXデータが入手できない観測点については、ネバダ大学が配布する日毎の座標(Blewitt et al., 2018)を使用した。各アンテナ座標の時系列から、最小二乗法を用いて年次傾向と季節変動を推定した。解析対象のGNET観測点のうち、53地点(96%)で2008–2024年に明瞭な基盤岩の隆起が確認された(1.2–17.6 mm a–1)。最も大きな基盤岩隆起速度は、グリーンランド南東部のKangerlussuaq氷河付近に位置するKUAQ観測点で観測された。また、GNET観測点からの季節変動には5–7月にピークとなる沈降の傾向があることが確認された。

GNET観測点の季節変動を、再解析データ(CARRA1:Copernicus Arctic Regional Reanalysis)から推定した大気圧変化と、衛星重量測定システムGravity Recovery and Climate Experiment (GRACE) およびGRACE Follow-onが観測した地表面質量変化を比較した。月ごとの地表質量変化とGNSS相対高度の間には線形関係が認められ、観測点周辺の質量損失に対する弾性隆起の概算値を得た。研究期間内においてGRACEから観測された年間質量損失速度から弾性変形成分を換算し、観測された鉛直変位から差し引くことで、各観測点における粘弾性成分を推定した。推定されたGIAに由来する隆起速度はグリーンランド全域で不均一であった。いずれの地域においても推定値は先行研究と同程度の規模であったが、他研究と一致しない観測点が複数認められた。本研究で採用した手法は非常に簡潔なものであるものの、得られた結果は先行研究から大きく逸脱しておらず、本手法の有用性を示唆している。ただし、GIAに由来する隆起速度を正確に推定するには、観測点ごとの詳細解析が必要である。