講演情報

[ACG68-P07]北海道サロマ湖の融氷期における春季植物プランクトンブルームへの海氷藻類の貢献

*川延 京子1、松ヶ崎 光悦2、阪口 耕一2、西條 光河3、鈴木 祥弘3 (1.神奈川大学大学院 理学研究科、2.サロマ湖養殖漁業協同組合、3.神奈川大学 理学部 理学科)

キーワード:

海氷藻類、一年氷、融氷、微細藻類ブルーム、サロマ湖

諸 言
温暖化に伴い北極圏では多年氷が減少し,夏季に融解する一年氷への移行が進んでいる.この変化は,海氷内部や直下の微細藻類群集(一次生産者)に甚大な影響を及ぼし,極域生態系の食物網構造を改変させる可能性がある.季節海氷域の南限に位置する北海道サロマ湖は,温暖化の影響を鋭敏に受ける「一年氷海域」のモデルとして最適である.サロマ湖では,冬季に形成される薄い一年氷を透過して十分な日射が氷下面まで到達し,海氷藻類が全層にわたって増殖する.結氷期の海氷藻類増殖から融氷後の春季ブルームに至る過程は,サロマ湖生態系を駆動する一次生産の基盤を担っている.本研究では,融氷後の大規模ブルームに対する海氷藻類の供給源(シード)としての貢献を定量的に評価し,一次生産における寄与を検討した.

方 法
2024年3月27日から4月22日にかけて,北見市常呂町栄浦漁港において週2回採取を実施した.CTDにより水温,塩分濃度,Chl a,DOを測定し,Chl a 極大層から栄養塩分析および藻類試料を得た.ブルーム盛期の4月15日には湖内5測点で3層採水を行った.海氷試料は2月20日に栄浦沖約1 kmの地点において, 10 cmごとの層別に削氷を採集し(海氷厚は約40 cm),氷下海水は1 m層ごとに採集した.また,1月初めから4月下旬まで栄浦沖約10 kmでセジメントトラップを設置した.藻類試料は低濃度パラホルムアルデヒド-グルタルアルデヒド混合液で固定し,Utermöhl法により種の同定・細胞計数を行った.群集間の類似度や重回帰分析により,種組成の変化と環境要因の関係を解析した.

結果と考察
2024年春季のサロマ湖では,3月下旬に融解が開始した.表層水温は約–0.3から11 ℃へ上昇し,塩分濃度は1.6から30 ‰へ増加した.Chl a 極大層のChl a 濃度は2.7から 25 µg L-1まで増加した一方,栄養塩濃度はNO3 が51から0.9 µmol L-1 ,PO43-は7.8 µmol L-1 から検出限界未満へと低下した.同層の総細胞数は,融氷初期の600からブルーム盛期の11.5×103 cells mL–1まで約20倍に増殖した.
融氷初期は海氷藻類(Detonula confervacea など) が42-83 %を占めたが,融解進行とともに減少し(8 %以下),ブルーム盛期にはプランクトン藻類のChaetoceros 属の4種が56-96 %と圧倒的に優占した(Figure 1).ブルーム早期には冷水性プランクトン種(Thalassiosira nordenskioeldiiなど)が優占し,短期間ながら微小な鞭毛藻類が優占する現象が確認された.
群集間の類似度解析に基づくと,藻類群集は「ブルーム前の海氷藻類」「早期の冷水性プランクトン藻類」「ブルーム形成種」「遷移期の鞭毛藻類」の4グループに大別された.海氷藻類(珪藻群集)と環境要因の重回帰分析を行った結果,水温および塩分濃度が独立変数として有意な相関(p< 0.01)を示し,これらが群集遷移の制御因子であることが示された.
また,測点間の比較では,ブルーム盛期の湖内5測点すべてにおいて,プランクトン藻類が総細胞数の90 %以上を占めた.冬季には,結氷が早期に進む東岸付近では海氷および氷下海水ともに各層での海氷藻類は66-94 %と優占したが,結氷の遅い湖心部のセジメント試料では結氷期の海氷藻類は6-11 %と僅かだった.
以上の結果より,融氷期のサロマ湖では,海氷藻類の減少は水温および塩分濃度によって制御され,春季ブルームは主にプランクトン藻類によって形成されることが明らかとなった.結氷期に卓越して優占する海氷藻類は,ブルームのシード(供給源)としての寄与は限定的ではあるが,底生生物への早期の食物源としての貢献が予想される.特に海氷が発達し,海氷藻類が豊富に存在するサロマ湖東部は,サロマ湖生態系の早春の一次生産を支える重要な拠点であることが示唆された.

図の説明
図1. 融氷期ブルームにおけるChl a 極大層の藻類生物量と群集構造の変化.上図は各藻類群の細胞密度,積算Chl a 量,Pielouの均等度指数(J')を示す.下図は主要種の細胞密度の変化.破線は海氷藻類,実線は冷水性プランクトン藻類,点線はブルーム形成種を示す.