講演情報

[AOS25-P12]電気化学的手法を用いた高感度かつ迅速な海洋遺伝子観測技術の開発

*大木 拓1、上島 理乃1、才木 常正2、有馬 正和3、須本 祐史4、坂元 博昭1 (1.福井大学、2.福知山大学、3.大阪公立大学、4.鹿児島大学)

キーワード:

電気化学バイオセンサ、環境センシング、リアルタイムモニタリング、キートケロス属、プローブ、海洋遺伝子

1 緒言
近年、地球温暖化の要因であるCO2は増加傾向にある。これはIPPC第6次評価報告書(Intergovernmental Panel on Climate Change AR6)により報告されている。大気中のCO2の増加は海洋中に溶け込むCO2も増加しpHが低下することで海洋酸性化が引き起こされる。これにより多種多様な生物の住処であるサンゴや石灰を原料とする殻をもつ貝などの劣化が見られており、海洋生態系に大きな影響を与えている。そこで本研究では海洋生態環境の保護・改善の観点から解析・解明を行うことを目的とした。正確に海洋生態環境を把握するには高い精度を持ち迅速に分析を行う分析技術が重要である。しかし、海洋中の物理化学的な情報はリアルタイムで正確に分析可能であったが、生物学的な情報の収集はコストや時間、煩雑な操作においてボトルネックであった。そこで本研究は電気化学バイオセンサに注目した。
電気化学バイオセンサは、観測目的としている微生物遺伝子である標的DNAに対して相補的な配列を持つDNA(プローブ)を固定化電極表面の分子認識を構造変化による電流検知することができる。しかし、この手法はプローブと標的DNAの対の反応であるため、標的DNA濃度への感度依存が欠点であった。そこで酵素であるExonucleaseⅢ(ExoⅢ)のプローブに対する特異的な分解反応を利用して一度捕捉された標的DNAが複数のプローブに何度も繰り返し捕捉されるような電極表面設計を行った(Fig. 1)。このことにより本センサは従来のn~µ Mの検出感度からn~f Mレベルまでの検出感度を達成し、従来の分析方法より海洋遺伝子を簡便で迅速に検出できる手法を確立した。
本研究では標的DNAに植物プランクトンChaetoceros属の遺伝子を検出対象とした。この生物は海洋中に多く存在し、光合成・呼吸の観点からもCO2の影響を受けやすいと考えられるためである。

2 実験
2-1プローブ設計
今回用いたシグナルプローブ (SP)とアシスタントプローブ (AP)、標的DNAの配列はTable. 1の通りである。塩基数はSP 23 bp、AP 25 bp、生成方法はHPLC精製である。SPの3’末端をチオール化することによって、Au電極上でAu-S結合を介したプローブの固定化を可能にした。また、5’末端をアミノ化することでアミド結合を介したメディエーターの修飾を可能とした。標的DNAの塩基数は14 bpである。

2-2 SP-AP-MBプローブの作製
MBで5’末端を修飾された2 µM SP溶液 3 µL、2 µM AP溶液 3 µLを1×PBS (-) 54 µL中で混合し、85℃で10分間静置し、その後室温で1時間静置することでSP-MBとAPのdsDNAであるSP-AP-MBプローブを形成させた。プローブ間のジスルフィド結合を還元するため、10 mM TCEPを2 µL添加して1時間静置した。

2-3 方形波ボルタンメトリー(SWV)によるセンサ評価
2-2にて生成されたプローブ溶液15 µLをAu電極上に滴下し、電極表面へSP-AP-MBプローブを固定化させることで、プローブ修飾電極を得た。この電極を作用極とした3電極系により方形波ボルタンメトリー(SWV)により測定した。その後、100 nMの標的DNA溶液を電極に滴下し、SWVによる測定を行った。最後に、ExoⅢ 5 Uを含む溶液に電極表面を浸漬させた後、37℃で2時間インキュベートしSWVによって測定を行った。

3 SWVによるCheatceros属遺伝子の検出結果
センサ応用に向けてSWVで評価を行った。100 nM 標的DNAのExo Ⅲを用いた検出のSWV結果をFig. 2に示す。標的DNAのみ存在している場合、酸化ピーク電流値に大きな変化は確認されなかった。標的DNAとExo Ⅲの両方の存在下で酸化ピーク電流値が大きく増大した。これは、Exo ⅢがSP-AP-MBプローブと標的DNAの複合体に反応することでSP-AP-MBプローブがSP-MBの1本鎖になり、SPの構造が伸びた状態から折り畳まれた構造に変化したと考えられる。これによりメディエーターが電極表面にアクセスしやすくなり電子移動速度が増加したからであると考えられる。さらに、Exo Ⅲの酵素分解反応により放出された標的DNAがリユースされていることが示唆された。それによりリユースされた標的DNAは新たなSP-AP-MBプローブに結合することが繰り返し行われ、電極上にステムループ構造をもったSPが増加していると考えられる。

4 結論
本研究では、Chaetoceros属遺伝子の高感度検出を目的とし、ExoⅢによる酵素反応を利用した電気化学バイオセンサの構築と評価を行った。本センサは、酵素反応によってシグナル増幅機構により高い感度が得られ、海洋環境中における特定微生物遺伝子の迅速計測へ応用可能であることが示された。今後は実海水中での安定性評価やさらなる高感度検出に向けた電極表面設計により、海洋生態環境観測技術としての実用化を目指す。