講演情報

[AOS26-P01]Karenia mikimotoi 赤潮発生時に対応可能な基礎生産量推定モデルの構築と養殖海域における窒素動態の定量化

*小森田 智大1、杉本 亮2、北辻 さほ3、矢野 諒子3、阿部 和雄3、尾崎 竜也1、本田 陸斗1、東矢 有加1、林 莉紗1、田中 智己1、中村 双葉1、一宮 睦雄1、山田 勝雅5、吉野 健児4、杉松 宏一3 (1.熊本県立大学環境共生学部、2.福井県立大学海洋生物資源学部、3.水産研究・教育機構 水産技術研究所、4.国立水俣病総合研究センター、5.熊本大学)

キーワード:

赤潮、八代海、経験式、基礎生産

はじめに:有害赤潮を引き起こす渦鞭毛藻 Karenia mikimotoi は、世界各地の沿岸域で頻繁に赤潮を形成し、漁業被害の一因となっている。本種は遊泳性を有し、日周鉛直移動を行うことから、ボトル培養法などの従来法ではその基礎生産量の評価が困難である。また、赤潮の移流や拡大時にも増殖していることは容易に想定されることから、簡易かつ空間的に広く対応可能な基礎生産量の推定手法の確立が必要不可欠である。本研究では、赤潮が発生した八代海の観測データを用いて、環境要因(水温、塩分、光合成有効放射[PAR]、クロロフィルa濃度[Chl-a])に基づく基礎生産量の推定モデルを構築することを目的とした。さらに、本研究では、この推定モデルを連続観測に適用し、海域の窒素のマスバランス解析を行うことで、赤潮の持続性を評価する。
材料と方法:2021年3月から2022年7月に水俣湾、2024年8月に八代海全域において調査を実施した。また、八代海の楠浦湾において2024年8月5日から7日にかけて48時間の連続観測を行った。観測では、AAQを用いて水温、塩分、Chl-a、PARを1~3時間間隔で取得した。基礎生産量は、水俣湾では13C法(n=569)、八代海の全域ではパルス変調型蛍光法(PAM蛍光法)による基礎生産量を13C法で補正した(n=3605)。連続観測では、CTD採水により栄養塩(NH₄-N, NOₓ-N, PO₄-P, SiO₂)濃度および K. mikimotoi 細胞数を測定した。さらに、NH₄-NおよびNOₓ-Nの水中および堆積物からの再生産・消費フラックスを実験的に測定し、現存量と組み合わせて日単位のマスバランスを評価した。基礎生産量の推定には、ランダムフォレスト回帰(rangerパッケージ、R ver.4.2.3)を用い、説明変数にChl-a、PAR、水温、塩分、応答変数に基礎生産量(µgC/L/h)を設定した。
結果と考察:PAM蛍光法と13C法の基礎生産量は良好な相関を示し(n=12, r²=0.853)、PAM蛍光法で得られた基礎生産量を補正することができた。ランダムフォレストモデルは、赤潮時・非赤潮時ともに高い精度を示し(r² > 0.9)、Chl-aとPARが最も重要な変数として抽出された。連続観測において、Chl-aと K. mikimotoi 細胞数の間には有意な正の相関関係が検出され(r=0.573, p<0.0001)、本研究期間においてはChl-aがK. mikimotoi 細胞数の指標になることが示された。Nのマスバランス解析では、溶存無機態窒素の総現存量(NOₓ-N + NH₄-N)は8.25 mmolN/m²、窒素ベースの基礎生産量は3.83 mmolN/m²/dであった。DIN現存量を基礎生産量で除すと、約2.7日後には赤潮の成長が窒素で制限される可能性があることが示された。本研究では、赤潮発生時の基礎生産量を定量的に推定可能とする予測モデルを構築し、栄養塩のマスバランスから赤潮の持続性を評価できた。今後は、本研究で構築した基礎生産量推定モデルを、移流過程を模した粒子追跡実験に組み込み、赤潮の増殖過程の再現に応用することを目指す。