講演情報

[AOS26-P04]栄養塩の成長律速環境における海洋植物プランクトンのクロロフィル蛍光の応答に関する研究

*山本 慧1、吉田 和広2、片野 俊也3、梅澤 有1 (1.東京農工大学、2.佐賀大学、3.東京海洋大学)

キーワード:

植物プランクトン、クロロフィル蛍光、パルス増幅変調法、栄養塩

はじめに
内湾域における栄養塩供給は河川や地下水,堆積物からの拡散など複数の起源を持ち,それぞれ異なるフラックス・栄養塩構成比・時空間分布を持っている.栄養塩による植物プランクトンの成長律速の検証は栄養塩添加による培養実験を通して行われるのが通例だが,数日間の実験を要することや,実験操作が多く限られた測点の試料でしか行うことができないため空間的な把握が難しい点が課題である.本研究では,栄養塩律速処理を行った植物プランクトンにおける光合成パラメーターの変化を測定すると同時に,欠乏栄養塩の再供給によってクロロフィルの蛍光に短時間の変化が生じる現象であるNutrient-Induced Fluorescence Transient(NIFT)の実験を行い,海洋中の植物プラクトンの光合成活性が栄養塩によって制限されている状況や,成長律速を引き起こす栄養塩種を,現地で簡便に評価する手法を開発することを目的とした.
試料と方法
東京湾における代表的な植物プランクトンとして,珪藻のThalassiosira alleniiSkeletonema ardens,渦鞭毛藻のProrocentrum triestinumの3種の単離培養株を用いた.まず,これらの培養株を窒素,リン,ケイ素のいずれかを欠乏させたSWM-III培地に植え継いだ.次に,Water-PAM-IIを用いてこれらの培養株に対して光合成パラメーターの測定を行い,栄養塩律速状態を検出すると同時に,プランクトン種ごとの栄養塩欠乏への応答性を比較した.評価は,Fv/Fmの変化を基本とし,補助的にETR,Y[II],qP,NPQ,Fv’/Fm’について光曲線を作成して行った.さらに,NIFT実験では,栄養塩律速状態と判断された試料に対して欠乏栄養塩の再供給を行った.まず蛍光のベースラインを取得したうえで,低濃度・高濃度の二段階で栄養塩を添加して蛍光の変化を記録した.
結果と考察
栄養塩律速処理の結果,すべての実験区でコントロール区と比較してFv/Fm,ETR,Y[II],Fv’/Fm’が低下傾向だった.例えば,T.alleniiのP欠乏処理区におけるY[II]やETRの低下は,P枯渇によるATP合成低下やRuBisCO の活性低下による電子需要の減少と関連すると考えられる.一方,qPやNPQの応答には種間差が確認された.例えば,珪藻種におけるSi律速条件のみqPの低下が生じなかった.また,全体的には低下したFv/FmやY[II]についても,P.triestinumのN律速区では一度低下した後数日間回復し,その後再び低下するなどの特徴が見られた.
NIFT実験では,いずれのプランクトンについても,N・P添加で明瞭な蛍光の応答を示さなかった.そこで,添加前後の3測点(1分程度)に絞って蛍光のグラフの傾きを調べ,対照区における実験と比較した結果,添加によって傾きが変化したものが見られた.これらは,栄養塩濃度の変化に対する生理的な応答を示している可能性がある.