講演情報
[AOS26-P09]マンガンの価数差が海産端脚類の毒性応答を規定する:急性毒性とトランスクリプトーム解析による検証
*森田 椋人1、戸田 美沙2、依藤 実樹子1、儀武 滉大1、岡村 哲郎2、西島 美由紀1、鈴木 淳1、井口 亮1、山岡 香子1 (1.産業技術総合研究所 地質情報研究部門、2.いであ株式会社)
キーワード:
海洋端脚類、マンガン、価数、RNA-seq
人為起源の化学物質負荷は地域的・地球的規模で増大しており,Planetary Boundariesの枠組みにおいても複数項目で境界を超過している.微量金属は生体にとって必須であるが,自然界への過剰な排出は,生態系に重大な影響を及ぼす.マンガン(Mn)は,多様な酸化状態で存在し得るが,+2, +7の状態が人為利用の観点では重要である.例えば,Mn (II)の必須微量元素としての性質を利用するためMnCl2として農業用肥料などに用いられる.一方で,Mn (VII)は,KMnO4として魚病の治療や藻類駆除を目的とした酸化剤に利用される.しかし,Mnの酸化状態(価数)の違いにより毒性および生理応答が変化することが知られているものの,特に同一種・同一試験条件下での検証は十分になされていない.日本の沿岸域で見られる海産端脚類であるPtilohyale barbicornis(和名:フサゲモクズ)は沿岸域から深海まで幅広く分布しており,毒性試験に有用な生物種である.
本研究では,フサゲモクズを対象として,MnCl2およびKMnO4の曝露試験を行い,(1) 96 h LC50の推定,(2) 体内蓄積量の評価,(3) RNA-seqによる発現遺伝子を網羅的に解析することで,Mnの価数の違いによる詳細な生理応答を把握し,RNA-seqによる感度の高い生態影響評価手法を確立することを目的とした.
室内実験による急性毒性評価においては,96 hでのLC50を推定したあとに,その値の1/5, 1/10, 1/20の濃度におけるMnCl2およびKMnO4の曝露試験を行い,RNA-seq解析用の生体試料として採取した(MnCl2: 5.5, 11, 22 mg Mn/L, KMnO4: 0.065, 0.13, 0.26 mg Mn/L).
RNA-seq解析では,cutadaptを用いて,アダプタートリミングを行ったあとに,Trinityを用いてde novoアセンブリを行い,TransDecoder でアミノ酸配列を予測し,CD-HITを用いて冗長配列を除去した.アミノ酸配列に対して,BLASTp(E-value < 1e-5)を用いてSwissProtタンパク質データベースに対して,検索およびアノテーションを行った.さらに,kallistoを用いて,Transcripts Per Kilobase Million(TPM)を算出した後に,edgeRにより差次的発現遺伝子(differentially expressed genes: DEGs)を同定した.解析結果はPCA, ヒートマップ,デンドログラムを用いて可視化し,生体内で起きている金属ストレス応答機構を解明するためにg:Profilerのg:GOSt プログラムを用いて,近縁種であるHyalella aztecaのアノテーション情報をもとにGene Ontology (GO)解析を行った.
フサゲモクズの96 h LC50の値よりMn (VII)はMn (II)の約1/100の濃度で同程度の急性毒性を示した.さらに,MnCl2およびKMnO4のMnの蓄積量の最大値は同程度であったが,曝露濃度当たりのMnの蓄積量は,KMnO4の方が圧倒的に高い結果が得られた.
差次的発現遺伝子数(DEGs)をもとにしたPCA,ヒートマップ, デンドログラムでは,Control群とMnCl2処理群の間で明確なクラスターは示されなかった.一方で,KMnO4処理群では,ヒートマップおよびデンドログラムでは,Control群のクラスターが形成されたもののPCAでは,Control群だけの明確なクラスターは形成されなかった.GO解析の結果,両処理群の低~中濃度では,金属イオン結合をはじめとするbindingに関するGO termやATPを使うエネルギー代謝関連に関するGO termが多く検出された.また,高濃度処理群では,primary metabolic processおよびcellular response to stimulusのBiological ProcessのGO termが有意に発現していた.つまり,曝露濃度が上昇していくにつれて,これまでの金属結合や転写調節を中心とした応答プロセスから生命活動を維持するために細胞や代謝などを維持・調節する段階に移行していることが示唆された.MnCl2とKMnO4の間には,96 h LC50に基づく急性致死毒性の強さに明確な差が認められた.しかし,96 h LC50の最大1/5までの範囲では,ストレス応答機構に一定の共通性が認められた.ただし,MnCl2では,Cellular Component において mitochondrion(GO:0005739)が有意であったことから,Mn (II)曝露はミトコンドリアに関連する代謝機能に影響を及ぼす可能性が示唆された.一方で,KMnO4処理区では,体表の着色が著しかった.これらの違いは,Mnの価数の違いに伴う化学的特性の差に起因する可能性がある.
本研究では,海産端脚類であるフサゲモクズを対象に,化学形態の異なるマンガンを用いて,曝露試験を行った結果,KMnO4の方が非常に高い毒性を有していることが示された.さらに,RNA-seq解析を組み合わせることで,分子レベルの生物応答を明らかにできることが示された.
本研究では,フサゲモクズを対象として,MnCl2およびKMnO4の曝露試験を行い,(1) 96 h LC50の推定,(2) 体内蓄積量の評価,(3) RNA-seqによる発現遺伝子を網羅的に解析することで,Mnの価数の違いによる詳細な生理応答を把握し,RNA-seqによる感度の高い生態影響評価手法を確立することを目的とした.
室内実験による急性毒性評価においては,96 hでのLC50を推定したあとに,その値の1/5, 1/10, 1/20の濃度におけるMnCl2およびKMnO4の曝露試験を行い,RNA-seq解析用の生体試料として採取した(MnCl2: 5.5, 11, 22 mg Mn/L, KMnO4: 0.065, 0.13, 0.26 mg Mn/L).
RNA-seq解析では,cutadaptを用いて,アダプタートリミングを行ったあとに,Trinityを用いてde novoアセンブリを行い,TransDecoder でアミノ酸配列を予測し,CD-HITを用いて冗長配列を除去した.アミノ酸配列に対して,BLASTp(E-value < 1e-5)を用いてSwissProtタンパク質データベースに対して,検索およびアノテーションを行った.さらに,kallistoを用いて,Transcripts Per Kilobase Million(TPM)を算出した後に,edgeRにより差次的発現遺伝子(differentially expressed genes: DEGs)を同定した.解析結果はPCA, ヒートマップ,デンドログラムを用いて可視化し,生体内で起きている金属ストレス応答機構を解明するためにg:Profilerのg:GOSt プログラムを用いて,近縁種であるHyalella aztecaのアノテーション情報をもとにGene Ontology (GO)解析を行った.
フサゲモクズの96 h LC50の値よりMn (VII)はMn (II)の約1/100の濃度で同程度の急性毒性を示した.さらに,MnCl2およびKMnO4のMnの蓄積量の最大値は同程度であったが,曝露濃度当たりのMnの蓄積量は,KMnO4の方が圧倒的に高い結果が得られた.
差次的発現遺伝子数(DEGs)をもとにしたPCA,ヒートマップ, デンドログラムでは,Control群とMnCl2処理群の間で明確なクラスターは示されなかった.一方で,KMnO4処理群では,ヒートマップおよびデンドログラムでは,Control群のクラスターが形成されたもののPCAでは,Control群だけの明確なクラスターは形成されなかった.GO解析の結果,両処理群の低~中濃度では,金属イオン結合をはじめとするbindingに関するGO termやATPを使うエネルギー代謝関連に関するGO termが多く検出された.また,高濃度処理群では,primary metabolic processおよびcellular response to stimulusのBiological ProcessのGO termが有意に発現していた.つまり,曝露濃度が上昇していくにつれて,これまでの金属結合や転写調節を中心とした応答プロセスから生命活動を維持するために細胞や代謝などを維持・調節する段階に移行していることが示唆された.MnCl2とKMnO4の間には,96 h LC50に基づく急性致死毒性の強さに明確な差が認められた.しかし,96 h LC50の最大1/5までの範囲では,ストレス応答機構に一定の共通性が認められた.ただし,MnCl2では,Cellular Component において mitochondrion(GO:0005739)が有意であったことから,Mn (II)曝露はミトコンドリアに関連する代謝機能に影響を及ぼす可能性が示唆された.一方で,KMnO4処理区では,体表の着色が著しかった.これらの違いは,Mnの価数の違いに伴う化学的特性の差に起因する可能性がある.
本研究では,海産端脚類であるフサゲモクズを対象に,化学形態の異なるマンガンを用いて,曝露試験を行った結果,KMnO4の方が非常に高い毒性を有していることが示された.さらに,RNA-seq解析を組み合わせることで,分子レベルの生物応答を明らかにできることが示された.
