講演情報

[AOS27-P05]赤土流出影響評価に向けた沖縄沿岸SPSS推定モデルの検証:汎化性能とパラメータの地点依存性

*中野 裕太1、河野 海1、徳永 大典1、河田 博昭1 (1.NTT株式会社)
沖縄県は、サンゴ礁が広がる豊かな沿岸海域を有し、水産業・観光業を含む県民生活にとって重要な資産となっている。一方、陸域からの大量の赤土等流出が沿岸環境へ深刻な影響を与えてきた。1994年の赤土等流出防止条例施行以降、開発事業に起因した赤土流出は減少傾向にあるものの、依然として農地由来が全体の約8割を占め主要な流出源として残存している[4]。

赤土影響の把握には、底質中懸濁物質含量(SPSS)が代表的指標として用いられる。SPSSは単位体積あたりの底質に含まれるシルトより小さい土粒子の質量(kg/m³)として定義され[1]、行政によるモニタリングでもSPSSに基づき海域ごとの堆積状況を9段階のランクで評価し、対策優先度や流出削減目標の設定に活用されている[4]。しかしSPSSの計測は底質の採泥および室内分析を要しコストが高い、そのため沖縄県が報告するSPSS観測値も年2回程度に留まる[1]。

一方、赤土流出プロセスは降雨イベントの開始から堆積・拡散・回復まで1日〜1週間程度で推移する。大見謝[1]が示すように、SPSSは一般に梅雨直後にピークを示し、台風や季節風による強い波浪が発生する海域では堆積泥の巻き上げによりSPSSが減少するなど、明瞭な季節変動を伴う。年2回の底質観測ではこうした動態を十分に解像できず、より高解像度に状態を推定する手法が求められる。

この課題に対する一つのアプローチが物理モデルに基づく予測である。酒井・仲村渠[2]は、陸域から海域に流入した赤土等の堆積をプラス要因、波浪巻き上げと潮汐による外洋放出をマイナス要因とする土砂収支によりSPSSを表現し、降雨・波浪・潮汐等の外力で逐次更新する簡潔なモデルを提示した。物理モデルの利点は河川流入・沈降・波浪巻き上げ等の個々の過程を分解して解釈可能な形で扱え、対策効果評価にも活用しやすい点にある。他方、観測が疎な状況ではモデル未表現の過程やデータの制約、さらに地点間の環境差が推定誤差として現れてしまうことが課題となる。

本研究では、[2]のモデルを、沖縄県が報告する令和4年度赤土等流出防止対策検証事業[3]のSPSS観測地点の測定結果データおよび気象庁の気象観測データに適用した。各観測地点には最寄りの気象観測所を対応付けて気象外力の入力とした。

ベースラインモデル(BL1: Persistentモデル、BL2: 線形回帰モデル)と提案モデル(A1)を比較した結果、単純なRMSEではBL2が最良であったが、対数スケールの精度指標Log-RMSEではA1が最良となった。SPSSの値域が広く対数正規分布に従うことを踏まえると、Log-RMSEでの優位性は低値域から高値域まで相対的に均質な精度で推定できることを示唆する。

次に、[2]で全地点共通とされていたパラメータについて地点ごとに個別に設定した場合の性能を検証した。河川からの土砂流入係数Aについては、地点ごとに個別最適化することで精度が向上した一方、波浪巻き上げ係数Mについては、全地点共通の値でも精度がほとんど変化しなかった。これは赤土流入量が流域面積・土地利用・河川形状等の地理的要因に強く依存し地点間差が大きいのに対し、波浪巻き上げは懸濁物質の特性や波浪応答の基本的な力学に支配されており、比較的均質であることを反映している。すなわち、SPSS推定においては各地点固有の河川流入特性の把握が鍵となることが示された。

以上の結果は、物理モデルによるSPSS推定において地点ごとの河川流入パラメータの適切な設定が精度向上に直結すること、また少数のパラメータ調整で広域適用が可能であることを示している。今後の課題として、流入係数を地理情報(流域面積、土地利用、土壌特性等)から事前推定する手法の開発や、衛星リモートセンシングとの組み合わせによる広域・高頻度推定への展開が挙げられる。

参考文献

[1] 大見謝辰男 (2004): SPSS簡易測定法とその解説. 沖縄県衛生環境研究所報告書.

[2] 酒井一人・仲村渠将 (2017): 沖縄県の沿岸域におけるSuspended Particles in Sea Sediment (SPSS) 予測モデルの構築. H29 農業農村工学会大会講演会講演要旨集.

[3] 沖縄県 (2024): 令和4年度赤土等流出防止対策検証事業調査結果.

[4] 沖縄県 (2022): 沖縄県赤土等流出防止対策基本計画 最終評価.