講演情報
[HDS11-P02]水理解析モデルとGISを用いた洪水氾濫マッピングと浸水再現性の検証
~2015年鬼怒川水害の例を用いて~
*藤井 藍子1 (1.横浜国立大学都市科学部)
近年、地球温暖化の進行に伴い、集中豪雨や台風による極端降水の発生頻度が増加し、河川氾濫による洪水被害が深刻化している。特に都市域を含む流域では、人口や資産が集中しているため、洪水発生時の被害規模は大きい。
2015年9月の関東・東北豪雨では、茨城県常総市を流下する鬼怒川において溢水および堤防決壊が発生し、市域の約3分の1が浸水する甚大な被害をもたらした。本洪水は、堤防決壊を伴う突発的かつ非定常な現象であり、洪水氾濫解析の高度化の必要性を示す代表的事例である。
洪水氾濫解析は防災・減災計画の策定に不可欠であるが、解析結果と実際の浸水状況との乖離が課題として指摘されている。とりわけ、地表面粗度係数の設定は浸水域の再現性に大きな影響を与える重要な要因である。本研究では、2015年鬼怒川洪水を対象として、HEC-RASおよびArcGIS Proを用いた2次元洪水氾濫解析を行い、粗度係数の違いが浸水域および実浸水域との一致度に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。
解析には国土地理院提供の5mメッシュ数値標高モデル(DEM)およびJAXAの土地利用・土地被覆データを用いた。水理解析にはHEC-RASを使用し、河道部を一次元、氾濫原を二次元とする1D–2D結合解析を行った。上流境界条件には鬼怒川水海道観測所の1時間流量データを非定常流として入力し、下流境界条件には等流水深条件を設定した。堤防決壊および溢水については、実際の被災状況に基づき、破堤機能および越水判定を用いて再現した。氾濫原の地表面粗度係数は土地被覆区分ごとに設定し、既往研究を基準としたケースに加え、粗度係数を変化させた複数の解析ケースを実施した。
解析結果は浸水域として可視化し、国土地理院が公表する浸水実績図と比較することで検証を行った。評価指標として適合率、再現率および空振り率を用い、解析モデルの再現性を定量的に評価した。
解析の結果、若宮戸地先での溢水および左岸21k付近での堤防決壊に伴う氾濫過程を時系列的に再現することができた。溢水発生後には低平地へ向かって浸水域が拡大し、堤防決壊後には氾濫域が南北方向へ大きく広がる挙動が確認された。最大浸水域は主として河道左岸の低平地に分布し、周辺地形の影響を受けた空間分布を示した。
粗度係数を変化させた解析結果の比較から、粗度条件の違いにより浸水面積および実浸水域との一致度に差が生じることが明らかとなった。基準ケースでは適合率82.1%、再現率98.4%を示し、非定常洪水現象を概ね良好に再現できていることが確認された。
一方で、解析結果には過大評価が含まれており、その要因として、建築物や構造物を考慮していない地形モデル、土地利用区分に基づく粗度係数の一律設定、洪水時に実施された排水ポンプによる人為的排水を考慮していない点が挙げられる。これらにより、実際には浸水が抑制された区域においても解析上では浸水が生じた可能性がある。
以上より、本研究で得られた浸水域は実被害を完全に再現したものではないが、防災機能が十分に発揮されなかった場合に想定される潜在的な洪水リスクを示すものと位置付けられる。本研究の成果は、洪水氾濫解析における粗度係数設定の重要性を示すとともに、将来的な防災・減災対策および避難計画の高度化に資する基礎的知見を提供する。
2015年9月の関東・東北豪雨では、茨城県常総市を流下する鬼怒川において溢水および堤防決壊が発生し、市域の約3分の1が浸水する甚大な被害をもたらした。本洪水は、堤防決壊を伴う突発的かつ非定常な現象であり、洪水氾濫解析の高度化の必要性を示す代表的事例である。
洪水氾濫解析は防災・減災計画の策定に不可欠であるが、解析結果と実際の浸水状況との乖離が課題として指摘されている。とりわけ、地表面粗度係数の設定は浸水域の再現性に大きな影響を与える重要な要因である。本研究では、2015年鬼怒川洪水を対象として、HEC-RASおよびArcGIS Proを用いた2次元洪水氾濫解析を行い、粗度係数の違いが浸水域および実浸水域との一致度に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。
解析には国土地理院提供の5mメッシュ数値標高モデル(DEM)およびJAXAの土地利用・土地被覆データを用いた。水理解析にはHEC-RASを使用し、河道部を一次元、氾濫原を二次元とする1D–2D結合解析を行った。上流境界条件には鬼怒川水海道観測所の1時間流量データを非定常流として入力し、下流境界条件には等流水深条件を設定した。堤防決壊および溢水については、実際の被災状況に基づき、破堤機能および越水判定を用いて再現した。氾濫原の地表面粗度係数は土地被覆区分ごとに設定し、既往研究を基準としたケースに加え、粗度係数を変化させた複数の解析ケースを実施した。
解析結果は浸水域として可視化し、国土地理院が公表する浸水実績図と比較することで検証を行った。評価指標として適合率、再現率および空振り率を用い、解析モデルの再現性を定量的に評価した。
解析の結果、若宮戸地先での溢水および左岸21k付近での堤防決壊に伴う氾濫過程を時系列的に再現することができた。溢水発生後には低平地へ向かって浸水域が拡大し、堤防決壊後には氾濫域が南北方向へ大きく広がる挙動が確認された。最大浸水域は主として河道左岸の低平地に分布し、周辺地形の影響を受けた空間分布を示した。
粗度係数を変化させた解析結果の比較から、粗度条件の違いにより浸水面積および実浸水域との一致度に差が生じることが明らかとなった。基準ケースでは適合率82.1%、再現率98.4%を示し、非定常洪水現象を概ね良好に再現できていることが確認された。
一方で、解析結果には過大評価が含まれており、その要因として、建築物や構造物を考慮していない地形モデル、土地利用区分に基づく粗度係数の一律設定、洪水時に実施された排水ポンプによる人為的排水を考慮していない点が挙げられる。これらにより、実際には浸水が抑制された区域においても解析上では浸水が生じた可能性がある。
以上より、本研究で得られた浸水域は実被害を完全に再現したものではないが、防災機能が十分に発揮されなかった場合に想定される潜在的な洪水リスクを示すものと位置付けられる。本研究の成果は、洪水氾濫解析における粗度係数設定の重要性を示すとともに、将来的な防災・減災対策および避難計画の高度化に資する基礎的知見を提供する。
