講演情報

[HDS11-P08]地域伝承に基づく平時の認知バイアス低減のための中小河川水位観測網の提案

*利根川 悠弥1、菊地 輝行1、佐々木 恭助2 (1.公立諏訪東京理科大学、2.株式会社アンバーロジックス)

キーワード:

地域防災、土砂災害、地域伝承

1. はじめに
 水害・土砂災害をもたらす大雨や短時間強雨は頻発化している.2021年9月に起きた長野県茅野市高部地区下馬沢川の土砂災害では,最大時間雨量76mmを記録し,家屋被害64棟に及ぶ大きな災害となったが,事前避難によって死者は発生しなかった1.事前避難のきっかけとなったのは,「川がゴロゴロ鳴る」,「川からにおいがする」場合には避難が必要であるという地域伝承である.また,「山津波の前に川の水位が下がる」という地域伝承に基づく水位変動が実際に起こっていたことも,後の下馬沢川の水位データにより明らかになっている2
 事前避難は人的被害を最小化するために重要な方法である.しかし,事前避難を行うための判断材料が少ないことや,住民が災害への意識を常日頃から持ち続けることの難しさが課題として挙げられる.そこで本研究では,「山津波の前に川の水位が下がる」という地域伝承を定量化するために水位計を設置した.諏訪地域に水位計14箇所,雨量計1箇所を設置し,LPWA通信機器を用いて長期間の水位・雨量観測を実施した.
2. 河川水位の活用
 本観測では,河川水位と地下水位の関係性に着目した.土砂災害(崩壊)発生のメカニズムとして,豪雨によって地下水位が上昇している状態で,線状降水帯などの更なる豪雨があることで地下水位が更に上昇し,崩壊に至ることが考えられる.しかし,地下水位の上昇の把握には直接観測が必要であるがコストの面で困難である.そのため,河川の水位変化量とその収束時間(雨が止んだ後に水位が戻るまでの時間)を用いることで,地下水位の上昇状態を疑似的に推定することを目指した.
3. 結果
 長期間の計測データを解析した結果,降雨の回数と水位の収束日数には明確な差が見られた.降雨が1回のみの場合,水位の平均収束日数は1.9日であった.これに対し,降雨が複数回連続した場合(降雨前の水位に収束する前に,次の降雨によって水位が再上昇した場合)の平均収束日数は23.9日となり,単発の降雨に比べて収束までに極めて長い時間を要することが明らかになった.
 具体的な事例として,野明沢において時間雨量10mmの雨に対し,水位上昇が1回の場合(図1)と14回の場合(図2)の比較を行った.水位上昇が1回の場合,収束日数は4日であった.一方で,水位上昇が14回繰り返された場合には,水位が下がりきる4日より前の段階で次の降雨による再上昇が起こり,水位が収束しない状態が続いていることが確認された.その後も断続的に雨が降り続き,収束までに39日を要した.また,収束日数と水位上昇回数の関係を調べた結果,決定係数R2=0.861という高い相関が認められた.この結果は,水位の収束が長期化する現象が偶然ではなく,降雨の回数と累積的な影響を強く受けていることを裏付けている.
4. まとめ
 雨が止んでも水位が下がらない状態が続いている場合,それは地下水位が高止まりしている危険な状態であることを数値として認識できる.本研究により,水位・雨量観測による水位の収束挙動を通じて,地下水位の上昇状態を疑似的に判断可能であることが示された.これにより,水位モニタリングは避難判断のための定量的な材料になり得ると考えられる.水位変動を住民自身が日常的に確認することは,危険な状態が続いていることを認識してもらうための有効な手段の一つとなると考えられる.

参考文献 令和3年9月に長野県茅野市下馬沢川で発生した土砂災害.砂防学会誌,75(1),pp.25-34. 坂井ほか(2022) 2021年9月茅野市下馬沢川流域における土砂・洪水氾濫発生に関する小考察 菊地輝行,小林誠司(2023)