講演情報
[MIS19-03]鉱山廃水を利用したCO2削減:接触角測定による界面張力の推定
*長嶋 剣1、大友 陽子2、佐藤 久夫3 (1.北海道大学低温科学研究所、2.北海道大学大学院工学研究院、3.日本原燃株式会社埋設事業部)
キーワード:
接触角、界面張力、方解石、PHREEQC、鉱山廃水、岩石風化促進
2050年カーボンニュートラルに向け、海洋アルカリ化促進(OAE)による大気CO2ガス削減が注目されている。本研究では、酸性鉱山廃水への岩石投与によって中和とOAEを同時に達成する岩石風化促進技術に着目し、北海道精進川鉱山の酸性廃水(pH2-3)[1]をモデルケースとして検討を行っている。地球化学コードPHREEQCによって中和過程を計算すると30種以上の鉱物が過飽和になるが、現場の実証試験ではわずかな鉱物しか沈殿しておらず[1]、沈殿した鉱物種も過飽和度の大きさに依存していない。よって、鉱物形成プロセスが、熱力学的な駆動力(過飽和度)よりもむしろ固液界面張力(γSL)というカイネティックな因子に強く支配されていることを示唆している。OAEの効率や持続性を評価するためには、多成分溶液における様々な鉱物種のγSLを正しく理解する必要がある。
Nielsen & Söhnel (1971) やKashchiev & van Rosmalen (2003)らは、γSLと鉱物の溶解度積 (Ksp) の対数の間に強い負の相関(γSL∝-lnKsp)があることを理論・実験の両面から示してきた[2-3]。これは難溶性の鉱物ほど結晶構造が安定であり、γSLも高くなるという物理的直感ともよく一致するが、このモデルは物質固有の定数であるKspに基づいているため、γSLは溶液条件によらず一定値となる。しかし、多くの鉱物は中和過程(pH上昇)により溶解度が桁のオーダーで小さくなるため、このような溶液環境変化においてもγSLが一定値として良いかは不明である。そこで本研究では、calcite(CaCO3)劈開面を用いた接触角測定により、γSLのpH依存性を検証した。
Calcite(10-14)劈開面を基板とし、pH5-8の条件下で液滴法による接触角測定を行った。測定にあたっては、結晶表面の不均質性に起因する接触角ヒステリシス(ピン止め効果)の影響を排除するため、液滴体積を連続的に変化させてエネルギー的に安定な真の接触角を推定する手法を開発した。測定の結果、calciteの接触角はpHに対して顕著な依存性を示し、pH5(高溶解度条件)では約90°と大きく、pH8(低溶解度条件)に向かうにつれて約79°まで低下した。この接触角変化はおよそ10%の界面張力減少に相当し(γSL=170 mJ/m2[4] を基準に推定)、同過飽和条件においてpH8での核形成頻度はpH5に比べて10桁以上増加するという界面張力変化を及ぼすことが明らかとなった。
観測されたγSLの変動は、古典的な水和モデルのみでは説明できず、溶液中のイオンが界面へ吸着・相互作用する影響が示唆される。そこで、以下の3つの観点から吸着メカニズムを検討した。
(1) 静電的吸着(結晶側の吸着能): ゼータ電位(表面電荷)由来の吸着を考えた場合、等電点(~pH9近傍)から遠いpH5ほど強い静電相互作用により界面が安定化し、γSLが低下すると予測されるが逆傾向であった。
(2) 溶解度(イオン総数)の影響: 溶解している溶存無機炭素(DIC)やCa2+を含む全イオンの総数が界面を水和・安定化させると仮定すれば、溶解度が高いpH5ほどγSLは低下するはずであるが逆傾向であった。
(3) 特定イオン種の特異吸着: 溶液pHの上昇に伴い、総イオン数は減少するものの、CO32-のアクティビティは指数関数的に増大する。この挙動は、高pH側でのγSLの低下と極めて良い相関を示す。これは、CO32-が2価イオンとして強い吸着能を持ち、かつ表面に露出したCa2+サイトと構造的に整合しやすいため、主要種であるHCO3-よりも効果的に界面エネルギーを安定化させていると考えられる。
以上の結果は、鉱山廃水の中和過程において、pH上昇が「過飽和度の増大(熱力学的駆動力)」と「界面張力の低下(カイネティック障壁の減少)」という二重の促進効果をもたらすことを意味している。特に後者の影響は極めて大きく、単純な過飽和度の制御以上に重要な役割を果たす。本研究は、OAEのような多成分系における元素挙動予測において、γSLを定数としてではなく、構成イオン種の吸着平衡に基づく動的なパラメータとして扱う必要性を提示するものである。
[1] Chikanda F, Iwaki H, San HH, Kikuchi R, Ohtomo Y, Otake T, Sato T (2025), Research Square (Preprint). doi:10.21203/rs.3.rs-8066399/v1
[2] Nielsen AE and Söhnel O (1971), J. Cryst. Growth. 11, 233.
[3] Kashchiev D, van Rosmalen GM (2003): Cryst. Res. Technol. 38, 555.
[4] Liu XY, Tsukamoto K, Sorai M (2000) Langmuir. 16, 5499.
本解析結果を用いた生物起源炭酸塩の形成メカニズムについては「M-GI35:炭酸塩生物学(5/24)」セッションで、多成分系におけるCO2鉱物化予測については「H-SC07:地球温暖化防止(5/26)」セッションにて、それぞれ異なる視点からポスター発表を行う予定である。
Nielsen & Söhnel (1971) やKashchiev & van Rosmalen (2003)らは、γSLと鉱物の溶解度積 (Ksp) の対数の間に強い負の相関(γSL∝-lnKsp)があることを理論・実験の両面から示してきた[2-3]。これは難溶性の鉱物ほど結晶構造が安定であり、γSLも高くなるという物理的直感ともよく一致するが、このモデルは物質固有の定数であるKspに基づいているため、γSLは溶液条件によらず一定値となる。しかし、多くの鉱物は中和過程(pH上昇)により溶解度が桁のオーダーで小さくなるため、このような溶液環境変化においてもγSLが一定値として良いかは不明である。そこで本研究では、calcite(CaCO3)劈開面を用いた接触角測定により、γSLのpH依存性を検証した。
Calcite(10-14)劈開面を基板とし、pH5-8の条件下で液滴法による接触角測定を行った。測定にあたっては、結晶表面の不均質性に起因する接触角ヒステリシス(ピン止め効果)の影響を排除するため、液滴体積を連続的に変化させてエネルギー的に安定な真の接触角を推定する手法を開発した。測定の結果、calciteの接触角はpHに対して顕著な依存性を示し、pH5(高溶解度条件)では約90°と大きく、pH8(低溶解度条件)に向かうにつれて約79°まで低下した。この接触角変化はおよそ10%の界面張力減少に相当し(γSL=170 mJ/m2[4] を基準に推定)、同過飽和条件においてpH8での核形成頻度はpH5に比べて10桁以上増加するという界面張力変化を及ぼすことが明らかとなった。
観測されたγSLの変動は、古典的な水和モデルのみでは説明できず、溶液中のイオンが界面へ吸着・相互作用する影響が示唆される。そこで、以下の3つの観点から吸着メカニズムを検討した。
(1) 静電的吸着(結晶側の吸着能): ゼータ電位(表面電荷)由来の吸着を考えた場合、等電点(~pH9近傍)から遠いpH5ほど強い静電相互作用により界面が安定化し、γSLが低下すると予測されるが逆傾向であった。
(2) 溶解度(イオン総数)の影響: 溶解している溶存無機炭素(DIC)やCa2+を含む全イオンの総数が界面を水和・安定化させると仮定すれば、溶解度が高いpH5ほどγSLは低下するはずであるが逆傾向であった。
(3) 特定イオン種の特異吸着: 溶液pHの上昇に伴い、総イオン数は減少するものの、CO32-のアクティビティは指数関数的に増大する。この挙動は、高pH側でのγSLの低下と極めて良い相関を示す。これは、CO32-が2価イオンとして強い吸着能を持ち、かつ表面に露出したCa2+サイトと構造的に整合しやすいため、主要種であるHCO3-よりも効果的に界面エネルギーを安定化させていると考えられる。
以上の結果は、鉱山廃水の中和過程において、pH上昇が「過飽和度の増大(熱力学的駆動力)」と「界面張力の低下(カイネティック障壁の減少)」という二重の促進効果をもたらすことを意味している。特に後者の影響は極めて大きく、単純な過飽和度の制御以上に重要な役割を果たす。本研究は、OAEのような多成分系における元素挙動予測において、γSLを定数としてではなく、構成イオン種の吸着平衡に基づく動的なパラメータとして扱う必要性を提示するものである。
[1] Chikanda F, Iwaki H, San HH, Kikuchi R, Ohtomo Y, Otake T, Sato T (2025), Research Square (Preprint). doi:10.21203/rs.3.rs-8066399/v1
[2] Nielsen AE and Söhnel O (1971), J. Cryst. Growth. 11, 233.
[3] Kashchiev D, van Rosmalen GM (2003): Cryst. Res. Technol. 38, 555.
[4] Liu XY, Tsukamoto K, Sorai M (2000) Langmuir. 16, 5499.
本解析結果を用いた生物起源炭酸塩の形成メカニズムについては「M-GI35:炭酸塩生物学(5/24)」セッションで、多成分系におけるCO2鉱物化予測については「H-SC07:地球温暖化防止(5/26)」セッションにて、それぞれ異なる視点からポスター発表を行う予定である。
