講演情報

[O05-02]地質学によって神話や伝説を説明する地球神話の活用に向けて★招待講演

*野村 律夫1 (1.島根半島・宍道湖中海ジオパーク)

キーワード:

地球神話、神話・伝説・伝承、聖性地形、地質学的イベント、ジオパーク

はじめに
地域社会には洋の東西を問わず,語り継がれた歴史が残っていることが多い。いわゆる神話や伝説と呼ばれるものであるが,この言葉を巡って文系分野に限ることなく,地質学の分野において科学的に見てみようとする地球神話が注目されている。人々の地域自然への関心が神話や伝説を使うことによっていっそう高まることが背景にあり,ジオパーク活動においてもその有効性が理解されつつある。国内でも昨年「大地と人の物語り(創元社)」が刊行された。

伝承と地質学的視点の接点とは
古くから人々と大地との関係を論じた著作は多くあるが,民俗学では景観のなかには神を感じさせ,神聖感を抱かせる地形要素があり,それを「聖性地形」と呼んでいることに留意したい。そして,古代から「神々の風景」や「神々の座」として守り続けられてきたと説明する。岬や湖,洞窟,巨石(磐座),滝などの多様な大地の造形がその地形要素となる。地質や地形が人間と無関係にあるのではなく,その環境に暮らす人々の生活の中にこそ生きているという先達への理解を示す。その認識の程度や接し方は人の精神性に依存するとも指摘する。
民俗学研究者の指摘する「景観のなかに神を感じさせ,神聖感を抱かせる自然の造形」とは少し漠然とした表現だが,聖性地形は地質学的イベントと密接な関係にある。他にも,地震や洪水,火山による災害は,人々に恐怖心を抱かせる地質現象である。地域社会を一瞬にして壊滅させた火山噴火や地震・津波を取り上げている神話伝説は多い。
 
伝承で使われている言葉
私たちが使っている神話(myth, mythology)という言葉は,「話」を意味する古代ギリシア語のmythos(ミュートス)を語源とする。物事を論理的に説明する言葉のロゴス(logos)に対して,確証のない「話・物語」も含まれているため,それに由来する神話の定義も多様な解釈がなされるようになった。そのため,神話について投げかけられる「うその話」や「つくり話」といった疑問も多い。この点については,神話を集団や社会が自然景観をどのように見ていたか,その背景にある現象を自然科学で考察することを優先すべきであろう。
 伝説(legend)も神話とよく似ているが,伝説は神話のように古代に限らない過去に起こった歴史的事実を物語る。伝承(folklore)はある集団のなかで古くからある慣習や風俗、信仰、伝説、技術や知識などを受け継いで後世に伝えていくことと理解されている。

地球神話の普及に向けて
今まで述べてきたように,神話伝説などの口承伝承は,文字を持たない古代の人々にとって日常的表現であり,伝えることと聞くことのコミュニケーション手段としては最も効率的表現であったと理解すべきである。重要なことは,地形や地質学的な造形物に関わる伝承(神話伝説)の中に古代の人々も現在に通じる科学的現象を見て感じていたことに注目すべきであろう。したがって,地球神話には,古代人の自然観にかわって現在の自然観で説明することに意義が求められる。
そんな先人たちの知恵を現代の科学を身につけた私たちが再解釈して今の社会へ生かそうとする地球神話は,科学に基づいた地域理解を広く市民に普及させる重要な手段といえる。