講演情報
[O05-P05]磐梯山の岩なだれに関わる伝承と伝承の地を巡るジオツアー★招待講演
*竹谷 陽二郎1、鈴木 太郎2、蓮岡 真1 (1.磐梯山ジオパーク協議会、2.アジア航測株式会社)
キーワード:
磐梯山、岩なだれ、伝承、ジオツアー
はじめに
奥羽山脈南部に位置する活火山である磐梯山には,山体崩壊による岩なだれ(岩屑なだれ)が特異な地形や奇岩を生み出しており,岩なだれに関連する昔話や伝説などが各地に残されている.それらの伝承は過去における火山活動についての情報を含んでいる可能性がある.伝承を紹介すると共に地質学的視点から読み解いてみた.
1.岩なだれに関わる伝承と地質学的背景
(1)翁島岩なだれ(約5万年前)
翁島 磐梯山の南側に位置する猪苗代湖唯一の島である翁島誕生について一つの昔話がある.「ある夏の日,通りがかりの僧侶が水を求めたのに対して多くの村人がこれを断る中,心優しい娘おきなだけが僧侶に水を与えた.その直後に磐梯山が噴火し,溢れてきた水で村は猪苗代湖の底に沈んでしまったが,おきなの家のまわりだけは水の上に残り島となった.」猪苗代湖が誕生したのは人々がこの地に住み始める以前の約5万年前である.磐梯山の噴火により生じた翁島岩なだれによって河川が堰き止められ猪苗代湖が誕生した.岩なだれは山麓に流れ山とよばれる小丘陵をたくさん形成した.翁島はこの時の流れ山の一つである.
源翁石 近世の交通路である二本松街道沿いに源翁石と呼ばれる巨石がある.「南北朝時代の僧侶である源翁が那須の殺生石を諫めた際,一喝で石の大半は砕け飛び散ったが,かけらの一つが会津の地に飛んできた.後難がないように源翁がさらに石を割った」と伝えられている.確かに伝説通り源翁石は大きく二つに割れている.この巨石は飛来したものではなく,前述の翁島岩なだれにより運ばれた岩塊と推定される.
(2)琵琶沢岩なだれ(約2500年前)
猫石 磐梯山の東麓を南方に流れる長瀬川の東岸に猫石と呼ばれる周囲から突出した巨大な岩があり,長瀬川を挟んで西側に少し小さな岩がある.「昔,磐梯山が噴火した時,夫婦の猫が難を逃れて山を下り長瀬川にさしかかり,雄猫は川を渡って逃げ延びたが,雌猫は遂に川を越せなかった.雌猫は猫石と化し,雄猫は妻の猫石の参拝を欠かさなかった.」という昔話がある.二つの猫石は,約2500年前の磐梯山噴火に伴い発生した琵琶沢岩なだれにより運ばれた火山角礫岩の巨岩である.昔話からは,人々が離れた場所にある二つの岩を磐梯山の同じ噴火に関連したものと認識していたことが窺える.
(3)岩なだれ(奈良~平安時代初期)?
恵日寺縁起 磐梯山の南西麓に存在した恵日寺の縁起には,「磐梯山はもとは病悩山といい魔物が住み常にたたりをなして農作業に害を与えていた.磐梯山は大同元年(806)に暴れて一大湖を成した.この災異が朝廷に知られ,大同2年空海が勅命を受けてこの地に来て秘法を修めたところ,魔物は別の峰の烏帽子岳まで去った.」という内容の記述がある.しかし恵日寺は空海ではなく徳一が開いた寺であり,東北地方には大同2年に空海が開いたという縁起をもつ神社仏閣が多々あり大同という年代にも疑問がある.ただ磐梯山東麓の礫層からは奈良時代~平安時代初期の年代を示す木片が得られており,この時期に磐梯山の部分的崩壊に伴う小規模な湖が誕生した可能性がある.
2.伝承の意味するもの
磐梯山周辺には磐梯山の噴火に関わる伝承が多く,住民は磐梯山が活火山であることを強く意識していたことが分かる.ただ,伝承を過去に起こった磐梯山の火山活動と結びつけるためには,合理的で納得できる説明が必要であり,慎重なアプローチが求められる.むしろ伝承を通して,長年に渡り火山と共存してきた人々の自然観,宗教観,道徳観を知ることが重要と考える.
3.ジオパークでの活用
2025年5月に磐梯山ジオパークで,地質の日ジオツアーとして磐梯山の岩なだれに関わる伝承の地を巡るツアーを実施し,その地質学的背景を解説した.同時に磐梯山周辺の赤色立体地図を使用し,火山地形とその成因を理解する上での効果を検証した. 伝承に焦点を合わせたジオパークの普及活動は,火山と人間との関係を再認識し,地域のアイデンティティを醸成することに貢献できると思われる.
奥羽山脈南部に位置する活火山である磐梯山には,山体崩壊による岩なだれ(岩屑なだれ)が特異な地形や奇岩を生み出しており,岩なだれに関連する昔話や伝説などが各地に残されている.それらの伝承は過去における火山活動についての情報を含んでいる可能性がある.伝承を紹介すると共に地質学的視点から読み解いてみた.
1.岩なだれに関わる伝承と地質学的背景
(1)翁島岩なだれ(約5万年前)
翁島 磐梯山の南側に位置する猪苗代湖唯一の島である翁島誕生について一つの昔話がある.「ある夏の日,通りがかりの僧侶が水を求めたのに対して多くの村人がこれを断る中,心優しい娘おきなだけが僧侶に水を与えた.その直後に磐梯山が噴火し,溢れてきた水で村は猪苗代湖の底に沈んでしまったが,おきなの家のまわりだけは水の上に残り島となった.」猪苗代湖が誕生したのは人々がこの地に住み始める以前の約5万年前である.磐梯山の噴火により生じた翁島岩なだれによって河川が堰き止められ猪苗代湖が誕生した.岩なだれは山麓に流れ山とよばれる小丘陵をたくさん形成した.翁島はこの時の流れ山の一つである.
源翁石 近世の交通路である二本松街道沿いに源翁石と呼ばれる巨石がある.「南北朝時代の僧侶である源翁が那須の殺生石を諫めた際,一喝で石の大半は砕け飛び散ったが,かけらの一つが会津の地に飛んできた.後難がないように源翁がさらに石を割った」と伝えられている.確かに伝説通り源翁石は大きく二つに割れている.この巨石は飛来したものではなく,前述の翁島岩なだれにより運ばれた岩塊と推定される.
(2)琵琶沢岩なだれ(約2500年前)
猫石 磐梯山の東麓を南方に流れる長瀬川の東岸に猫石と呼ばれる周囲から突出した巨大な岩があり,長瀬川を挟んで西側に少し小さな岩がある.「昔,磐梯山が噴火した時,夫婦の猫が難を逃れて山を下り長瀬川にさしかかり,雄猫は川を渡って逃げ延びたが,雌猫は遂に川を越せなかった.雌猫は猫石と化し,雄猫は妻の猫石の参拝を欠かさなかった.」という昔話がある.二つの猫石は,約2500年前の磐梯山噴火に伴い発生した琵琶沢岩なだれにより運ばれた火山角礫岩の巨岩である.昔話からは,人々が離れた場所にある二つの岩を磐梯山の同じ噴火に関連したものと認識していたことが窺える.
(3)岩なだれ(奈良~平安時代初期)?
恵日寺縁起 磐梯山の南西麓に存在した恵日寺の縁起には,「磐梯山はもとは病悩山といい魔物が住み常にたたりをなして農作業に害を与えていた.磐梯山は大同元年(806)に暴れて一大湖を成した.この災異が朝廷に知られ,大同2年空海が勅命を受けてこの地に来て秘法を修めたところ,魔物は別の峰の烏帽子岳まで去った.」という内容の記述がある.しかし恵日寺は空海ではなく徳一が開いた寺であり,東北地方には大同2年に空海が開いたという縁起をもつ神社仏閣が多々あり大同という年代にも疑問がある.ただ磐梯山東麓の礫層からは奈良時代~平安時代初期の年代を示す木片が得られており,この時期に磐梯山の部分的崩壊に伴う小規模な湖が誕生した可能性がある.
2.伝承の意味するもの
磐梯山周辺には磐梯山の噴火に関わる伝承が多く,住民は磐梯山が活火山であることを強く意識していたことが分かる.ただ,伝承を過去に起こった磐梯山の火山活動と結びつけるためには,合理的で納得できる説明が必要であり,慎重なアプローチが求められる.むしろ伝承を通して,長年に渡り火山と共存してきた人々の自然観,宗教観,道徳観を知ることが重要と考える.
3.ジオパークでの活用
2025年5月に磐梯山ジオパークで,地質の日ジオツアーとして磐梯山の岩なだれに関わる伝承の地を巡るツアーを実施し,その地質学的背景を解説した.同時に磐梯山周辺の赤色立体地図を使用し,火山地形とその成因を理解する上での効果を検証した. 伝承に焦点を合わせたジオパークの普及活動は,火山と人間との関係を再認識し,地域のアイデンティティを醸成することに貢献できると思われる.
