講演情報
[O09-01]スコリアから考えるパンの製法★招待講演
*寅丸 敦志1 (1.九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)
キーワード:
軽石、スコリア、パン、気泡核形成
スコリアとは、火山噴出物の一種であり、黒っぽい軽石のことをいう。この噴出物は、伊豆大島や富士山など、玄武岩質や玄武岩質安山岩の火山噴火によって生成する。もちろん、その他の化学組成の火山噴火でも軽石は噴出されるが、白っぽいものが多く、英語ではそれをパミスと言って区別している。重要な点は、スコリアにしろパミスにしろ軽石は、爆発的噴火によって生成されるということだ。軽石には、たくさんの気泡が含まれており、そのために軽石は他の岩石よりも「軽い」という特徴を持つ。実は、その気泡こそが火山爆発の原動力の証拠であり、目にすることのできない地下深部でのマグマの運動についての情報を我々に提供してくれる。一方、パンにもたくさんの気泡が含まれていることを我々はよく知っている。しかし、パンは爆発を伴って生成されるわけではないことも知っている。さらに、興味深い事には、実際に、軽石とパンの気泡の構造を観察してみると、驚くほど似た特徴を持つ。本発表では、この類似性に注目して、軽石の生成過程についての理解に基づいて、パンの製法の背後にある物理過程について考察する。
軽石中の気泡はマグマの上昇に伴う減圧で、地下深部でマグマに溶け込んでいた水などの揮発性成分が過飽和になり発泡することで生成する。気泡の生成は、核形成と成長・膨張という過程を経て生成される。さらに、変形や合体と言った不雑な過程を経験して地表で軽石中の気泡として観察される。一方、パンの中の気泡は、イースト菌の発酵によって、パン生地(ドウ)の中にCO2が過飽和になり、発泡することで生成する。マグマの減圧とイースト菌の発酵という現象は、まったく異なっているが、気泡生成の素過程に注目すると、揮発性成分の過飽和、核形成、成長、膨張、合体、変形など同じ物理過程をたどる。このようにまったく違う現象に類似性を見出し、考察することは、科学研究の醍醐味に一つでもある。それによって、思いもよらぬ発見や洞察が得られるからだ。また、同じ素過程を調べるために、より取り扱いやすい物質(アナログ物質)を使うことも可能になる。例えば、軽石を作るには、1000℃近くの高温状態と高圧状態からの減圧過程を再現する装置が必要だが、パンならキッチンでできる。
軽石とパンの類似性を念頭に置いて、パンについての実験を行った。それらの中で、気泡の核形成に関する実験を紹介する。1つは、パン中の気泡の数密度(発泡前のドウの単位体積当たりの気泡数)が何によって支配されているかという実験。もう1つは、気泡の核形成はいつ起こるかという問題に関する実験。
気泡数密度は、マグマでは、揮発性成分の過飽和度増加率(減圧速度)の3/2乗に比例して大きくなることが分かっている。パンの気泡数密度に関する我々の予想は、イースト菌の量ととも、CO2がより速い速度で生成し、CO2(過飽和度)の増加速度も大きくなり、気泡の数も大きくなるだろうと。しかし、実験結果は、まるで逆で、イースト菌の量が増えると気泡の数は減ることが分かった。我々は、この実験結果を、イースト菌は量が多くなれば、菌同士の競合(すなわち、栄養分である糖の取り合い)、発酵過程の活動度が減少すると解釈している。同じ発泡過程でも、生物界ならではの現象として興味深い。
核形成のタイミングは、マグマでは、気泡核形成に必要な過飽和度(減圧量)が決まっており、その過飽和度に到達するまでの時間によってタイミングは支配される。すなわち、マグマの上昇速度すなわち減圧速度が大きくなるほど短くなる。パンの場合、どのぐらいの時間になるか皆目見当がつかないので、発酵時間を変えて実験を行った。その結果、30℃では、約6分、40℃では、約3分に、核形成速度が最大になることが分かった。パンの発酵時間は、一般に、30分以上なので、実験で得られた核形成のタイミングの速さは意外であった。さらに、30℃で発酵させた後、40℃で発酵させた場合、それぞれの発酵時間によって、最終的な気泡のサイズ分布が変化することが分かった。30℃での発酵時間が短いほど、気泡の数が多いパンが形成した。このことをマグマに当てはめると、減圧前のマグマだまりでの既存気泡が少ないと、マグマの上昇に伴う気泡の数が多くなることを意味しており、天然の軽石の気泡組織を解釈するうえで重要な示唆を与える。
以上の実験結果から、同じ気泡核形成過程に関してでも、生物が関与する場合、その独特の仕組みについて謎が出現し、その仕組みを探求することは、生物界だけでなくマグマの世界の理解にも助けになることが分かる。パンの実験を行った小川裕江さん(金沢大:当時)と池田響子さん(九州大:当時)に感謝いたします。
軽石中の気泡はマグマの上昇に伴う減圧で、地下深部でマグマに溶け込んでいた水などの揮発性成分が過飽和になり発泡することで生成する。気泡の生成は、核形成と成長・膨張という過程を経て生成される。さらに、変形や合体と言った不雑な過程を経験して地表で軽石中の気泡として観察される。一方、パンの中の気泡は、イースト菌の発酵によって、パン生地(ドウ)の中にCO2が過飽和になり、発泡することで生成する。マグマの減圧とイースト菌の発酵という現象は、まったく異なっているが、気泡生成の素過程に注目すると、揮発性成分の過飽和、核形成、成長、膨張、合体、変形など同じ物理過程をたどる。このようにまったく違う現象に類似性を見出し、考察することは、科学研究の醍醐味に一つでもある。それによって、思いもよらぬ発見や洞察が得られるからだ。また、同じ素過程を調べるために、より取り扱いやすい物質(アナログ物質)を使うことも可能になる。例えば、軽石を作るには、1000℃近くの高温状態と高圧状態からの減圧過程を再現する装置が必要だが、パンならキッチンでできる。
軽石とパンの類似性を念頭に置いて、パンについての実験を行った。それらの中で、気泡の核形成に関する実験を紹介する。1つは、パン中の気泡の数密度(発泡前のドウの単位体積当たりの気泡数)が何によって支配されているかという実験。もう1つは、気泡の核形成はいつ起こるかという問題に関する実験。
気泡数密度は、マグマでは、揮発性成分の過飽和度増加率(減圧速度)の3/2乗に比例して大きくなることが分かっている。パンの気泡数密度に関する我々の予想は、イースト菌の量ととも、CO2がより速い速度で生成し、CO2(過飽和度)の増加速度も大きくなり、気泡の数も大きくなるだろうと。しかし、実験結果は、まるで逆で、イースト菌の量が増えると気泡の数は減ることが分かった。我々は、この実験結果を、イースト菌は量が多くなれば、菌同士の競合(すなわち、栄養分である糖の取り合い)、発酵過程の活動度が減少すると解釈している。同じ発泡過程でも、生物界ならではの現象として興味深い。
核形成のタイミングは、マグマでは、気泡核形成に必要な過飽和度(減圧量)が決まっており、その過飽和度に到達するまでの時間によってタイミングは支配される。すなわち、マグマの上昇速度すなわち減圧速度が大きくなるほど短くなる。パンの場合、どのぐらいの時間になるか皆目見当がつかないので、発酵時間を変えて実験を行った。その結果、30℃では、約6分、40℃では、約3分に、核形成速度が最大になることが分かった。パンの発酵時間は、一般に、30分以上なので、実験で得られた核形成のタイミングの速さは意外であった。さらに、30℃で発酵させた後、40℃で発酵させた場合、それぞれの発酵時間によって、最終的な気泡のサイズ分布が変化することが分かった。30℃での発酵時間が短いほど、気泡の数が多いパンが形成した。このことをマグマに当てはめると、減圧前のマグマだまりでの既存気泡が少ないと、マグマの上昇に伴う気泡の数が多くなることを意味しており、天然の軽石の気泡組織を解釈するうえで重要な示唆を与える。
以上の実験結果から、同じ気泡核形成過程に関してでも、生物が関与する場合、その独特の仕組みについて謎が出現し、その仕組みを探求することは、生物界だけでなくマグマの世界の理解にも助けになることが分かる。パンの実験を行った小川裕江さん(金沢大:当時)と池田響子さん(九州大:当時)に感謝いたします。
