講演情報

[O10-01]石灰化環境の可視化:環境指標研究からpHイメージングへ★招待講演

*豊福 高志1 (1.海洋研究開発機構 X-star)

キーワード:

サイエンスxアート、バイオミネラリゼーション、可視化

石灰質有孔虫や二枚貝殻に記録されるMg/Ca比や酸素同位体比(δ18O)は、古環境復元の主要な指標として広く利用されている。発表者はこれらのキャリブレーション研究を進める中で、殻に記録された数値と、石灰化時の実際の微小環境との対応関係を直接検証したいと考えるようになった。環境指標が取り込まれる瞬間に、カルシウムイオンや炭酸種がどのような濃度・状態で存在しているのかを理解することが不可欠であると考えたためである。
石灰化ではカルシウムイオンと炭酸イオンが取り込まれ、固体の炭酸カルシウムが沈殿する。この過程で微量元素や同位体も同時に固定される。しかし、石灰化場におけるイオン動態や炭酸系の状態は直接観察できない。殻は結果として残るが、その形成過程の物理化学条件は見えない。
ポスドク着任時に顕微鏡導入を検討する過程で、蛍光指示薬による細胞のカルシウムウェーブの可視化研究に触れたことが転機となった。これを応用すれば、石灰化時のカルシウム動態を映像として捉えられるのではないかと考えた。2年後、研究員として就職してからライブイメージングを用いた観察を開始した。
さらに、堆積物中のpH分布を平面的に可視化する取り組みに触発され、炭酸系を規定するpH分布の可視化へと展開した。海水中では二酸化炭素の存在形態がpHに強く依存する。そのため、pH分布を測定することは、すなわち炭酸イオンと重炭酸イオンの空間的な分布を推定することにつながる。このアプローチを積み重ねることにより、2017年には石灰質有孔虫が石灰化時に水素イオンを能動的に海水中へ放出していることを示した。これはイメージングによって初めて明確に捉えられた現象である。
現在も研究は継続しており、生物による石灰化機構が一様ではなく、種や条件によって異なる制御様式をとることが明らかになりつつある。同時に、pHイメージング手法の精度向上や解析手法の高度化を仲間とともに進めており、そちらでは無機材料の溶解・沈殿過程への応用にも展開していることが今日のセッションでも紹介されている。可視化は生物石灰化に限らず、広く溶液–固体相互作用の理解に寄与する手法となりつつある。
蛍光強度からpH値を算出し、画像として提示する過程には、キャリブレーション、演算処理、表示スケールの設定など複数の操作が含まれる。本発表では、環境指標研究から環境可視化へと至った研究の経緯を整理し、石灰化という直接観察できない現象をどのように測定し、どのような手順で可視化しているのかを具体的に示す。あわせて、可視化された画像がどのように現象理解に貢献しているのかを議論する。