講演情報

[O11-02]火山活動の変化は海洋島生態系の初期過程を多様にするか:西之島の噴火と生物相の変化

*森 英章1、川上 和人2、川口 允孝3 (1.自然環境研究センター、2.森林総合研究所、3.東京大学地震研究所)

キーワード:

生態系一次遷移、海鳥駆動型生態系、浸食

小笠原諸島西之島では2013年の40年ぶりの噴火以降、10年に亘り噴火が繰り返された。噴火により現れた新島は溶岩の流出により元の島の陸地を完全に覆い尽くした。2019年から2020年の第4期噴火活動後期には火砕物を噴出するバイオレントストロンボリ式噴火が発生し、溶岩が全域で露出していた状態から、火砕物に厚く覆われた地表面へと変容した。西之島の生物相はこれらの火山活動の影響を大きく受け、生態系を構成していた多くの生物は死滅し、島内の生態系はほぼリセットされた状態となった。
ガラパゴス諸島、ハワイ諸島、小笠原諸島など、大陸から遠く離れた海底の火山活動により現れた海洋島では、到達した生物種の偏りやその後の進化を経て、独特の生物相が構成されている。島嶼の誕生後、数万年以上をかけて固有の特徴を成熟させてきた生態系は、その初期過程において、どのような生物の侵入と絶滅、種間関係の変化があり、生態系が豊かになってゆくのか。西之島は、周囲の陸地から離れた洋上の孤島において生態系の遷移過程をゼロから記録して検証することができる、現在の地球上において唯一の海洋島である。これまで、2019、2021、2022、2025年の上陸を伴う調査、2021、2023、2024年の遠隔調査機器を活用した調査により、わずか5年の間にも、陸上の生物相に様々な変化が生じていることがわかってきた。
2019年までは島内のほぼ全域が溶岩に覆われていたため、保水力の乏しい新しい溶岩表面には植物の定着が難しい状態であった。しかし、海鳥の営巣地では死骸や排泄物を利用するハサミムシ等の分解者、海鳥に寄生するダニ等が高密度に生息していた。海鳥や海鳥が洋上から運び込む有機物の陸上生態系への貢献は大きく、第4期噴火後も海鳥の営巣地ごとに有機物の分解を進める節足動物が見られた。海洋島の生態系の初期では一般的な遷移とは異なり、捕食者である海鳥がパイオニアとして進出し、分解者が土壌を作り出し、やがて植物、植食者の順に定着する過程が進行する可能性がある。
一方、2025年の上陸調査では、第4期噴火で全ての維管束植物が消失した後として初めて、火砕堆積物層が深く浸食されたガリーにおいてコケ植物とシダ植物の侵入を確認した。崖下の水たまり跡では藻類6種を確認した。2021年には1地点1種であったのに対して確実に増加しており、多くのパッチが散在していた。火山灰が堆積した後に降雨で浸食された地形により高湿度の環境が維持されやすくなったため、植物が侵入して、植食者、捕食者の順で成立する一般的なボトムアップ型の生態系遷移も成立する可能性が明らかとなった。
幼虫の食餌植物が存在しない中でガの成虫の飛来、変態直後のカニの幼体の内陸移動など、現時点の生態系セットでは定着が難しい生物の存在も度々記録されている。これらの生物は繁殖できない環境では死滅するのみであるが、侵入と絶滅が繰り返される中で、環境条件の変化によっては生態系の構成種が変化する可能性が常に存在することを示している。2020年の第4期噴火では元の陸域が完全に消滅、2023年の火山ガスの増加時は海鳥類の多くが島外へ移出して急減した。2015年までの第1期噴火のみでなく、噴火の度に火山活動の変化は生息する生物に大きな影響を与えている。移入と絶滅の繰り返しながら生態系が成熟していくにあたり、地質の安定性や特徴は重要な基盤となると考えられる。
火山活動の変化や浸食の多様性により、残存した環境、新たに現れた環境に応じて、生態系遷移の初期過程は多様な形でスタートする可能性がある。火山活動によって生じる大地の多様な特性を理解することは、生態系の始まりを理解する上で重要な鍵になる。