講演情報

[O11-04]海岸に届く伊豆・小笠原諸島の火山活動の痕跡

*平峰 玲緒奈1 (1.大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 国立歴史民俗博物館)

キーワード:

漂着軽石、黒潮、火山ガラス、福徳岡ノ場、硫黄島

海岸を歩いていると,近くに火山がないにもかかわらず,軽石が打ち上げられていることがある.2021年の福徳岡ノ場(FOB)噴火では,大量の軽石が海域を漂流し,南西諸島を中心に各地の海岸に漂着したことで大きな注目を集めた.これらの2021年FOB軽石は,噴火から約1年で,北海道を含む日本各地へ到達したことが報告されている(Yoshida et al., 2022; Ishimura and Hiramine, 2025).また,軽石漂着の様子は地域住民や観光客によってFacebookやTwitter(現X)などのSNSを通じて写真付きで共有され,1,000 km以上離れた遠い海域火山の活動を身近な海岸で実感できる地学イベントとなった.

さらに,2023年10月以降,南西諸島を中心にFOB軽石とは異なる黒色の軽石の漂着が増加し,これらの軽石は,含まれる火山ガラスの主成分化学組成から,伊豆・小笠原弧の硫黄島における噴火に由来することがわかった(Hiramine et al., 2025).硫黄島南東部の翁浜沖では,2022年7月以降,過去約100年間で初めてマグマの噴出を伴う火山噴火が確認され,周辺海域では噴火に伴い発生したと考えられる岩塊の浮遊や,内部温度が120度を超える軽石の漂着が確認されていた(気象庁,2022).

このような漂着軽石は,今後,どのくらい,そしてどのように残っていくのだろうか.2021年FOB噴火以前に黒潮流路沿いの5つの海岸で採取した603試料の漂着軽石を分析したところ,約8割の給源火山を推定することができ,そのうち全体の約2割は過去約100年間に発生した海域火山噴火に由来することがわかった(Hiramine, submitted).この結果は,一度に大量に海域へ供給された軽石は,噴火後少なくとも100年間は海岸に存在し続ける可能性を示唆している.

漂着軽石は海岸だけでなく,堆積物中からも見つかる.青森県むつ市関根浜では,約6000年前に噴出した鬱陵島のU-2テフラと十和田火山のTo-Cuテフラ由来の漂着軽石が確認されている(平峰ほか,2023).このような堆積物中の漂着軽石は年代指標となるだけでなく,当時の沿岸環境など,古環境復元にも役立つことが期待される.

漂着軽石は遠く離れた火山噴火の情報を有しているため,陸域に残された軽石の漂着記録は,記録の乏しい過去の海域火山噴火の噴火履歴を考える上で重要な手がかりとなり得る.本発表では,近年の海域火山噴火イベントの漂着軽石を主に紹介し,身近にある海岸や堆積物中に存在する漂着軽石の紹介と今後の展望を述べる.