講演情報

[O12-P12]簡易的な計測装置を用いた雲の移動速度と3次元変位評価

*塚原 悠一郎1 (1. 海城中高地学部)

キーワード:

気象学、防災、低コストな装置

序論
近年の気象観測技術の進展に伴い、上空の風向・風速計測手段にはパイバルやウィンドプロファイラ、衛星によるものがある。しかし、パイバルは消耗品を伴うためコストが高く、またウィンドプロファイラは全国に33機が配備されているが、設置コストと地点数の限定性から、観測網に空白域が存在する。一方、衛星観測は広域把握に長けるものの、突発的な下層大気の変動をピンポイントで観測するのは困難である。
こうした背景から、既存の観測インフラの持つ経済的、ないしは地理的制約ぬきに安価で高密度な定点観測を可能とする手法の確立が切望されている。例えば、2024年7月24日に埼玉県内で発生した気流流入による突風被害は従来の観測網の空白域で発生する。これらの局地的かつ劇的な気象現象に対し、安価に導入可能なコストで、かつ即時性の高い観測手法の構築は、防災や減災において極めて重要な意義を持つ。
本研究では、地上3地点において、雲体の追跡による新規の上空風速計測システムを提案する。本システムでは、天球上全方位をカバーする新規の計算式を利用することで従来手法では困難だった全天における計測を可能とし、算出精度の向上を実現した。本稿では、開発した簡易観測系の概要を述べるとともに、実測データに基づく雲移動速度の社会的有用性について論じる。
2.手法
用いた機材は、市販されている3D(全天球)カメラ3台と十字線をつけた透明半球であり、それぞれ透明半球の中心に3Dカメラが来るようセットした。また、本稿においての観測とは3Dカメラによる撮影のことを指す(画像1)。
本研究では、対象雲体上の特徴的な形状をもつ一点をターゲット(O)と定義し、地上観測地点 (A,B,C)で観測したOに対する角度変化量を事後的に測定。また三角形ABCの対辺をa,b,cとし、それぞれ方位角変化は水平方向、仰角変化は鉛直方向の移動に対応する。また、時刻tnにおいてOnとし、その地表への投影点をHnとした(画像2)。
水平方向の変位を計測する「1式」において、変位xは以下のように表せる。
x = (1/SABC)*√[-Σ{a2*(SH1CA-SH2CA)*(SH1AB-SH2AB)}](Σはa→b→c,AB→BC→CAの巡回和)
一方「2式」では、x = (a*sin∠H1CB*sin∠H1BH2)/(sin∠H1H2B*sin∠CH1B)となる。本研究では、角度計測の精度限界を考慮し誤差を抑えるために要求する変数の少ない「2式」を手法として採用した。
また、雲底高度の算出には、一般社団法人日本気象予報士会を参考に構成した「3式」を用いた。
On Hn=(c*sin∠HnBA*tan∠OAHn)/sin(∠AHnB)を用い(1)、得られた高度の差分から鉛直方向の変位を算出した。
最後に水平、鉛直方向ともに導出された変位を時間除算し、対象雲体の速度を求めた。
3.実証実験および結果
3.1水平方向の実証実験
本手法の検証のため、篠崎駅付近に位置する3地点において実測実験を行った。観測継続秒数tは1500[s]。
2式より、x = H1H2 = (290*sin70°* sin60°)/(sin57°*sin13°)1251[m]
1251/1500=0.834[m/s]であり、測定を行った11:25~11:40の時間帯において、対象雲体の高層雲のある高度2000~7000m付近において、南東方向に風速約 0.834[m/s]の水平風が吹いていたと推定される。
3.2鉛直方向の実証実験
また、茨城県つくば市内の2地点で実測実験を行った。観測継続秒数tは180[s]。3式より、
O1H1=(1482*sin125°* tan5°)/sin8°=763.1[m]
O2H2=(1482*sin155°* tan25°)/sin23°=747.5[m]
よって、雲体の下降速度は(763.1-747.5)/1800.087[m/s]であり、観測を行った10:17~10:20には微弱な下降気流の存在が示唆された。
これらの実験により、地上からの簡易な角度計測のみで三次元的な大気動態を把握できることが実証された。
4.考察,展望
本研究では、地上3地点からの観測に基づく簡易的な上空風速推定手法を提案し、その実効性を実証した。本手法は、従来の高度かつ高価な観測インフラに依存することなく、大気流動の動態把握を可能にするものであり、以下の三点において極めて高い有用性があると言える。
第一に、観測空白域の補完であり、技術、コスト的な障壁の低さから、従来の広域観測網の空白域補完としての活用が期待できる。第二に、継続的なデータ収集の実現であり、消耗品を伴う従来手法と異なりコストの最小化を図れるため、恒常的な観測を可能とする。第三に、局地的気象災害予知への貢献であり、局地的な傾向を持つ気象データが集まるため、局地的かつ急激的な気象災害予知などに貢献し、それを用いた広域予知網の構築に資する蓋然性が高い。今後は、撮影から風速算出までの自動化プログラムを構築し、恒常的な三次元大気流動観測の確立を目指すと共に、今回できなかった正確性の検証なども共に進めたい。
5.参考文献
(1) https://www.yoho.jp/member/interfrex/cloudobs5.htm