講演情報

[O12-P13]新宿区立おとめ山公園における井戸への下水流入の時間動態の推定 – カルバマゼピン・井戸水変動観測を用いた検証

*原 航平1 (1. 海城中高地学部)

キーワード:

タンクモデル、地下水、インフラ

1.背景と目的
本研究では、東京都新宿区に位置し、都内では稀有な湧水のあるおとめ山公園を調査対象とした。地学部は15年間にわたり湧水量を定期観測してきた。部内の2024年度の研究では、医薬品カルバマゼピン(CBZ) (後述)が下水検出に有効であることを示し、年間を通じて湧水からCBZが検出されたことから、下水由来の水の混入が判明した。これは下水管破損の可能性を示し、近年道路陥没事故が相次いでいるように、各地で破損が放置されている状況を示唆している。そこで本研究では、地下水中の薬品濃度から下水の混入開始時期を推定すると共に、下水管の埋設時期と併せて耐用年数の妥当性を検証することを目的とする。また、2025年度に本稿の研究内容を行った際、本項に記載の結果までは到達したが、タンクモデル(後述)の構造を誤り、立式が正しくなかったため考察が誤っていた。今年度の研究ではモデル構造を再設定し、正しいパラメータを同定することにより考察を正しく解釈する。

2.方法
おとめ山公園にあるホタル舎の井戸において地下水位と、分解速度が遅く自然界に存在しない抗てんかん薬CBZの濃度を測定した。地下水位については、ONSET社の水位計HOBOを使用し、3/7~4/12まで30分おきに自動測定した。測定値の2回分の平均を1セットとし、1時間あたりの地下水位の観測値として計算した。また、CBZについては1/11~3/15まで19回採水を行い、LC/MS/MS法で濃度分析を行った。 

3.結果
地下水位の測定結果は添付のグラフ1に示す。地下水の帯水層をタンクに見立て、パラメータを用いて地下水位変動を推測できるモデルであるタンクモデルを作り、流出係数を測る。CBZの濃度の結果は、添付のグラフ2に示す。1/11から3/15に至るまで、濃度は降雨による希釈の影響を多少受けるがほぼ一定の値を取り、平均して2.75ng/Lであった。

4.考察
まず、前述のタンクモデルを構築した。構造は上1段(ローム層)と下1段(帯水層である武蔵野礫層)とし、下1段は崖線下部にある公園の面積分、上のタンクよりも大きくした。本研究では、ΔT=1hとして計算を行い、Excelのソルバー機能を用い、最大計算回数100000回としてパラメータの同定を行った。タンクモデルの構造と時間発展と同定結果については、添付の図に示す。次に、タンクモデルの精度を確認した。1に近いほどモデルの精度が高く、0.7以上で再現性が高いとされる、水理モデルの精度を示すNash係数(-∞2と浸透係数b2を降雨による加重をつけまとめた合成流出係数k、1.77×10-5/hという値が定まった。
この結果から、下水の混入開始時期を推定する。以下のA・Bの2つの状態を仮定し、それぞれの仮説をCBZの濃度と照らし合わせて正しさを検証した。A:薬品濃度が平衡濃度にむけて上昇中と仮定する場合、時定数1/k(水の入れ替わりに要する代表的な時間スケール)を計算すると、6.45年で水が大きく入れ替わる。実際には、3ヶ月間もの観測で濃度がほぼ変わっていない(回帰直線:y=-0.0009x+43.923)上、昨年度以前の観測で湧水口ではすでに現在と同じ濃度のCBZが検出されていたためAの仮定と結果は乖離が大きく、仮定Aは棄却できる。B:すでに濃度が平衡状態にあると仮定する場合、-ln(1-X)/kの式で下水の混入開始時期を求められる。Xを0.99(慣例的に用いられる値、大山1991)とおくと、29.7年以上前に下水混入が開始したことになる。この結果は、昨年度以前の観測で現在と同じ濃度のCBZが検出されていたことと整合的である。よって、Bの仮定が妥当であると判断する。ただし、長期(年単位)にわたる定量的な検証が必要である。
最後に、下水管の耐用年数について考察を行う。涵養域にある現役の下水管のうち、最も古いものは昭和8年に埋設であり (東京都下水道局資料より)、下水管が古いものから壊れると仮定して下水混入開始時期から計算すると、涵養域にある最も古い下水管の耐用年数は一番長く考えておよそ63.4年となる。これは国土交通省の「下水道施設の改築について」で推奨されている50年と整合的であり、下水管の耐用年数の値は妥当であることが示された。

5. 謝辞
村橋毅先生(日本薬科大学教授)には観測・分析のご協力とご助言を、浅見幹夫さん(下落合東町会町会長)には井戸の鍵をお貸しいただきました。東京都下水道局台帳閲覧室では涵養域の下水管埋設時期の調査をさせていただきました。
また、以下の方々にもご助言をいただきました。ここに感謝申し上げます。
・山田直樹先生(海城中学高等学校)
・岩出昌先生(海城中学高等学校)
・下河邊太智さん(マサチューセッツ工科大学)
・佐藤孝樹さん(東北大学)
・中捨克兜さん(信州大学)

6.参考文献
・気象庁「過去の気象データ検索」
・佐藤良介ら(2012)『新宿区おとめ山公園湧水の実態調査と浸透施設導入効果の検討(未公刊)』
・高野雄紀ら(2015)『新宿区おとめ山公園湧水の湧出量の経年変化とその要因の推定 地下水学会誌』
・下河邊太智(2022)『数値モデルを用いた湧水を取り巻く地下水の実態把握 〜新宿区立おとめ山公園周辺地域を例として〜(未公刊)』
・大山正雄(1991)『箱根姥子温泉の湧出量の変化』
・内田拓人(2024)『新宿区立おとめ山公園における湧水の大腸菌調査及び薬品測定による大腸菌の発生源の推定 -未刊行(JpGU2024高校生ポスターセッションにて発表)』
・筑波大学水文科学研究室(2009)『水文科学』共立出版
・Thomas Rodgers(2013)『Chemical Reaction Engineering』
・菅原(1972)『流出解析法』
・京都市立大学遺伝子情報データベース「カルバマゼピン