講演情報
[O12-P23]氷と塩からみえたエウロパの世界-カオス地形の形成メカニズム解明-
*伊藤 天伽1 (1. 宮城県仙台第三高等学校)
キーワード:
エウロパ、カオス地形、氷地殻
1. 研究背景と目的
木星の第2衛星エウロパは氷衛星であり、その表面にはNaClやMgSO₄等の塩類が確認されている¹⁾。地表の約40%はカオス地形と呼ばれる不規則な多角形状の氷塊からなる窪地に覆われ、その形成プロセスは大きな謎である。先行研究では内部プリュームによる氷地殻の融解²⁾や潮汐力の影響²⁾が論じられてきたが、塩類の存在という化学組成要因とカオス地形の物理構造形成を直接結びつけた研究は少ない。本研究ではカオス地形にNaClが確認されている点¹⁾に着目し、室内実験による氷の生成と画像解析を組み合わせ、カオス地形形成に塩が関与する可能性について検討し、氷衛星の表面構造の形成メカニズムを解明することを目的とした。
2. 研究方法
本研究では実験室内での氷生成実験と得られたデータの画像解析による検証を行った。実験1,2で作成した氷は共に同じ条件下として、-23℃の空間で約2日間冷却を行った。
2.1 溶質の違いによる表面形態および内部組織の比較
エウロパ表面を再現するために、地殻に含まれる成分であるNaCl水溶液、MgSO₄水溶液、および純水を用いた氷を作成した。溶質を含む場合は濃度を10%に設定した。
表面観察: 凍結後の表面模様を評価した。
組織観察: 作成した氷から薄片を作成し、偏光板を用いた観察により、氷の結晶構造を特定した。
2.2 塩分濃度が表面模様に与える影響
2.1でカオス地形と類似した構造が見られたNaCl氷に着目し、濃度を変化させて凍結実験を行った。濃度変化が表面の線状模様に対してどのような影響を与えるのか実験を行った。
2.3 フラクタル次元を用いた定量的評価
カオス地形と氷のスケール問題を解消するために自己相似性を定量化できるフラクタル解析を用いて評価を行った。2.2、2.3で得られた氷表面の画像と、NASAが公開しているカオス地形の探査機画像を比較した。Box-counting法を用いて画像から両対数グラフを作成し、その傾きからフラクタル次元を算出した(Fig.1)。実験で得られた氷表面の画像と探査機の画像とのフラクタル次元の差分を求める事により一致を判断した。
3. 研究結果
3.1 NaClによる特異な結晶成長
Fig.2に示す通り、氷表面に明瞭な線状模様が形成されたのはNaCl氷のみであった。組織観察の結果、純水氷およびMgSO₄氷は多結晶であったのに対し、表面に模様が生じたNaCl氷は、単結晶であることがわかった。
3.2 濃度による形態変化
NaClの濃度変化により、表面模様は以下の2つの形態に分類できることが判明した。低濃度域(3%,5%)のNaCl氷は氷表面に不規則な方向性を持つ線状模様が形成される。一方、高濃度域(10,15,20%)のNaCl氷は氷表面に一定の規則性を持った模様が形成される(Fig3)。また、全てのサンプルにおいて氷表面の濃度計測を行った結果、濃度10%付近で凍結することが分かった(Fig.4)。
3.3 画像解析結果
不規則型氷はカオス地形とのフラクタル次元の差が0.0298(95%信頼区間:0.0063)、規則型は0.0355であったことから、不規則型氷の方がよい一致を示す。また、不規則型氷、規則型氷共にH₂O地形よりカオス地形の方が約0.024よい一致を示した(95%信頼区間:0.0077)(Fig.5,6)。
4. 考察と結論
エウロパにおけるNaClの分布は主にカオス地形に集中している¹⁾。一方、カオス地形以外の地域はH₂Oを主成分としている。本研究では、NaClを含む氷は、表面に線状模様を形成することが分かった。この線状模様には2つの形態があり、10%以下のNaCl氷表面には不規則な線状模様が形成されることが分かった。多数のサンプル及びエウロパの画像を比較検討した結果、氷が低濃度域(5%)時に形成される不規則な線状模様の方がカオス地形の画像と類似した。これらの結果より、カオス地形は低濃度のNaClを含む地殻であることを示唆する。以上を踏まえて、エウロパの地形の形成過程は、NaClを含む地殻がカオス地形内部に見られるブロック状の構造となり、その後、造構作用を受けることで現在のカオス地形になったと考えられる。
参考文献
1) T. Doggett, R. Greeley, P. Figuerdo, K. Tanaka, in Europa (The University of Arizona Press, 2009), p. 137.
2) Sotin, C., Kalousova, K., & Tobie, G. (2025). Plume formation at the seafloor of Europa’s internal ocean: Implications for chaos terrain formation. Frontiers in Astronomy and Space Sciences, 12, 1694079.
木星の第2衛星エウロパは氷衛星であり、その表面にはNaClやMgSO₄等の塩類が確認されている¹⁾。地表の約40%はカオス地形と呼ばれる不規則な多角形状の氷塊からなる窪地に覆われ、その形成プロセスは大きな謎である。先行研究では内部プリュームによる氷地殻の融解²⁾や潮汐力の影響²⁾が論じられてきたが、塩類の存在という化学組成要因とカオス地形の物理構造形成を直接結びつけた研究は少ない。本研究ではカオス地形にNaClが確認されている点¹⁾に着目し、室内実験による氷の生成と画像解析を組み合わせ、カオス地形形成に塩が関与する可能性について検討し、氷衛星の表面構造の形成メカニズムを解明することを目的とした。
2. 研究方法
本研究では実験室内での氷生成実験と得られたデータの画像解析による検証を行った。実験1,2で作成した氷は共に同じ条件下として、-23℃の空間で約2日間冷却を行った。
2.1 溶質の違いによる表面形態および内部組織の比較
エウロパ表面を再現するために、地殻に含まれる成分であるNaCl水溶液、MgSO₄水溶液、および純水を用いた氷を作成した。溶質を含む場合は濃度を10%に設定した。
表面観察: 凍結後の表面模様を評価した。
組織観察: 作成した氷から薄片を作成し、偏光板を用いた観察により、氷の結晶構造を特定した。
2.2 塩分濃度が表面模様に与える影響
2.1でカオス地形と類似した構造が見られたNaCl氷に着目し、濃度を変化させて凍結実験を行った。濃度変化が表面の線状模様に対してどのような影響を与えるのか実験を行った。
2.3 フラクタル次元を用いた定量的評価
カオス地形と氷のスケール問題を解消するために自己相似性を定量化できるフラクタル解析を用いて評価を行った。2.2、2.3で得られた氷表面の画像と、NASAが公開しているカオス地形の探査機画像を比較した。Box-counting法を用いて画像から両対数グラフを作成し、その傾きからフラクタル次元を算出した(Fig.1)。実験で得られた氷表面の画像と探査機の画像とのフラクタル次元の差分を求める事により一致を判断した。
3. 研究結果
3.1 NaClによる特異な結晶成長
Fig.2に示す通り、氷表面に明瞭な線状模様が形成されたのはNaCl氷のみであった。組織観察の結果、純水氷およびMgSO₄氷は多結晶であったのに対し、表面に模様が生じたNaCl氷は、単結晶であることがわかった。
3.2 濃度による形態変化
NaClの濃度変化により、表面模様は以下の2つの形態に分類できることが判明した。低濃度域(3%,5%)のNaCl氷は氷表面に不規則な方向性を持つ線状模様が形成される。一方、高濃度域(10,15,20%)のNaCl氷は氷表面に一定の規則性を持った模様が形成される(Fig3)。また、全てのサンプルにおいて氷表面の濃度計測を行った結果、濃度10%付近で凍結することが分かった(Fig.4)。
3.3 画像解析結果
不規則型氷はカオス地形とのフラクタル次元の差が0.0298(95%信頼区間:0.0063)、規則型は0.0355であったことから、不規則型氷の方がよい一致を示す。また、不規則型氷、規則型氷共にH₂O地形よりカオス地形の方が約0.024よい一致を示した(95%信頼区間:0.0077)(Fig.5,6)。
4. 考察と結論
エウロパにおけるNaClの分布は主にカオス地形に集中している¹⁾。一方、カオス地形以外の地域はH₂Oを主成分としている。本研究では、NaClを含む氷は、表面に線状模様を形成することが分かった。この線状模様には2つの形態があり、10%以下のNaCl氷表面には不規則な線状模様が形成されることが分かった。多数のサンプル及びエウロパの画像を比較検討した結果、氷が低濃度域(5%)時に形成される不規則な線状模様の方がカオス地形の画像と類似した。これらの結果より、カオス地形は低濃度のNaClを含む地殻であることを示唆する。以上を踏まえて、エウロパの地形の形成過程は、NaClを含む地殻がカオス地形内部に見られるブロック状の構造となり、その後、造構作用を受けることで現在のカオス地形になったと考えられる。
参考文献
1) T. Doggett, R. Greeley, P. Figuerdo, K. Tanaka, in Europa (The University of Arizona Press, 2009), p. 137.
2) Sotin, C., Kalousova, K., & Tobie, G. (2025). Plume formation at the seafloor of Europa’s internal ocean: Implications for chaos terrain formation. Frontiers in Astronomy and Space Sciences, 12, 1694079.
