講演情報

[O12-P31]人の踏圧による山道の崩壊〜SPLYZA Motionによる解析〜

*丁 美琳1 (1. 京都府立嵯峨野高等学校)

キーワード:

土壌侵食、歩行、力積、山道デザイン

序論
シカ(Cervus nippon)は下層植生を採食し、下層植生が乏しい場合にはリターを採食するとされる。その結果、地表面の被覆が少なくなり、土壌物理性が悪化し、土壌侵食を招くと考えられている(恩田・山本,1998)。日本の登山人口は多く、森林においての人の歩行は、裸地の拡大や表土の硬化など、森林の表面環境に悪影響を及ぼす(高槻,2015)。また、嵯峨野高校校有林においても長年にわたる研究活動によって道ができ、一部では土壌侵食の問題が顕著である(佐山,2020)。土壌侵食防止には、人の影響を抑えるために様々な対策が考えられる。研究活動の持続性を高めるために山道デザインを検討することが必要であると考えられる。
本研究では、人の歩行による土壌表面への負荷量を推定し、適切な歩行および山道デザインを検討することを目的とした。そこで、平地、階段、斜面の条件においての一歩あたりの力積と圧力の算出を試みた。

方法
 本研究では、室内での歩行による解析を進めた。歩行の解析には、SPLYZA Motion(株式会社SPLYZA)を用いた。まず、高校生男女各4人が校内の廊下(水平)を裸足、スリッパで往復した。安定な歩行区間をSPLYZA Motionで解析し、離地直後の重心速度(m/s)から接地直前の重心速度(m/s)を差し引いたもの(以下、DSとする)を算出した。そして、力積(N・s)を算出した(式1)。

力積(N・s)=質量(kg)×DS (式1)

次に、河川敷の階段(27°)、坂(18°及び28°)において同様に行った。
さらに、平地、階段、坂の一歩における地面への平均圧力を算出した(式2)。 

圧力(Pa)={力積(N・s)÷接地時間(s)+質量(kg)×重力加速度(m/s2)}÷接地面積(m2) (式2)

結果・考察
平地でのDSは、-0.01~0.183m/sであった。被験者間の個人差が大きく、歩き方に違いがあることが原因だと考えられる。階段・坂でのDSは0.107~0.208m/sであり、平地でのDSより大きかった。その原因は階段と坂では歩行中に一度止まる瞬間があるからだと考えられる。さらに、上りでのDSが下りより大きくなった。DSは、階段、坂(28°)、坂(18°)、平地の順に大きかった。上下方向の移動の差だと考えられる。しかし、重心の算出が不安定であり、撮影方法が将来の課題である。
次に算出した力積から、平均圧力を求めた。その結果、人の歩行は平地では約20~40kPa、階段・坂では約23kPaとなり、接地面積および体重に強く依存していた。G.G. Striker et. al. (2006)によると、成牛の蹄が地面に与える圧力は約300kPである。また、イネ科植物(P. dilatatum)では380kPa以上、双子葉類植物(L. glaber)では、260kPa以上で根が破壊するとされる。人の歩行による圧力は植物根の破壊圧より小さい値であり、人の歩行中の一歩の土壌、植物への影響は低いと考えられる。

結論
本研究により、SPLYZA Motionを用いて、歩行条件の違いに対応した力・圧力推定ができることがわかった。また、精度よく解析をするためには、撮影方法、撮影場所などの検討が求められる。
今後、侵食防止効果の高い山道デザインについて検討するために人の一歩が山道の土壌物理性にどのような影響をどの程度与えるかを明らかにする必要がある。また、人による踏圧は繰り返し行われるため、歩行回数などを考慮した評価も必要である。

参考文献
・恩田裕一,山本高也.1998.リターに被覆された土壌表面におけるクラスト形成プロセスの解明,日林誌.80.302-310.
・佐山葉,2020.森林研究活動に伴うヒューマンインパクトの把握とその回復,スーパーサイエンスラボ研究報告集2019,京都府立嵯峨野高等学校.39–41.
・高槻成紀,2015.シカ問題を考える、 バランスを崩した自然の行方,山と渓谷社.pp.215.
・渡辺悌二,2008.登山道の保全と管理,古今書院.pp.213.
・G.G.Striker,P. Insausti,A.A. Grimoldi and R.J.C. León.2006. Root strength and trampling tolerance in the grass Paspalum dilatatum and the dicot Lotus glaber in flooded soil,Functional Ecology.20(1).4-10.

謝辞
本研究は、文部科学省指定スーパーサイエンスハイスクール支援事業の助成金により遂行しました。この場をお借りして御礼申し上げます。