講演情報
[O12-P33]層理面生態系解析に基づくSphenoceramus naumanni についての新知見
*田中 彩絵1 (1. 熊本県立天草高等学校)
キーワード:
スフェノセラムス ナウマニ、サントニアン期、古生態系、深海、コロニー、層理面
1.背景と目的
熊本県天草市御所浦に「スフェノセラムスの壁(図1)」と呼ばれる白亜紀サントニアン期の層理面(35m×18m)が露出している場所がある。壁にはSphenoceramus. sp. (合弁化石を含む)や生痕化石が多産し、当時の生態系が保存された露頭である。
本研究はSphenoceramus naumanni (図2)を対象とし、生物学、古生物学、統計学、古環境解析を融合させ、当時の生態系復元を目的とした。一部、生態系復元のための解析手法の開発を試みた。
2.データおよび解析方法
2-1 古環境の推測
現地調査で発見した生痕化石の同定を行った。また、壁の転石を採取し、薬品処理して微化石の同定を行った。
2-2 生態解明
現地ではS. naumanniの分布をコドラート法で調査し、貝の殻長、殻高、殻頂方向、肋形状も調査した。また、層理面上のコロニー判別の新手法を開発した。具体的には貝の分布を座標にプロットし、エルボー法とシルエットスコアで決定した最適なk(グループ数)を用いて、k-means++法でグループを分けた。次に各グループをカイ二乗検定で化石の向きの偏りを検定し、向きをレーダーチャートで確認してコロニーと判断した。この手法を用いて図3中のAとBのコロニーを判別した。
肋(図4)は松田・生形 (1999) で示された肋の成長段階(α、β、γ、δ)による違いを調査した。肋密度も算出し、松田・生形 (1999)と比較した。
3.結果
3-1 古環境の推測
生痕化石はCosmorhaphe, Spirorhaphe, Lorenzinia(図5)を発見し、転石から六放海綿の骨針(図6)と考えられるものを発見した。
3-2 生態解明
AとBで各7つのコロニーを判別した。現生の深海二枚貝でもコロニーを判別し(図7)、正しく判別できた。また、AとBの範囲のS. naumanniの殻長、殻高を比較すると、Aの個体が成長していた。
肋の成長段階では、β段階が極端に多かった(図8)。壁の個体は松田・生形(1999)と比べて、β段階が終わるまでの殻高が大きく、肋密度は小さい(図9)。生痕化石はS. naumanniの近くに多く分布していた(図10)。
4.考察
4-1 古環境の推測
Magdalena Lukowiak(2020)、小幡(1999)も参考にして当時の環境は水深1000m〜6000mの深海で低酸素環境だと推測した。
4-2 生態解明
細見(1984)や田上(2002)より幼貝が高い分散能力を持ち、その流入出が集団の持続に関わることがわかったため、コロニー衰退発展過程を次のように考察した。
①元々貝がいたAから多くの幼貝が浮遊し、Aの外側に着底
②着底した場所(B)に新しくコロニーが発展
③幼貝が流出したAのコロニーが空洞化し、衰退
松田・生形(1999) の個体は浅海域に生息していたと報告されている。本研究の個体は深海に生息し、β段階が多い。β肋は深海で生活する上で利点があったと考察した。
S. naumanniは浅海で発展し、深海域に進出したとされている。本研究から最初に肋を粗く(β肋を拡張)して深海に適応し、その後放射肋を発達させてS. nagaoiに進化したと考察した。
生痕化石とS. naumanniの分布が近いことから、生痕を残した生物はS. naumanniのβ肋が作る乱流によって海底に集積される有機物などを得るため、近くに分布したと考察した。
5.今後の展望
調査範囲の拡大、β肋の模型を用いた乱流実験、微化石を用いた水深の特定を行い、生態系の復元を進める。
謝辞
京都大学 生形貴男様、元高知大学教授 田代正之様、高知大学 奈良正和様、御所浦恐竜の島博物館の皆様、先輩方には大変お世話になりました。心より、感謝申し上げます。
参考文献
・細見(1984) ムラサキイガイの生態学的研究ーⅢ 親個体群中における新規定着群の 消長 貝雑VENUS、Vol.43、No.2、p.157-171
・松田・生形(1999) 白亜紀二枚貝Sphenoceramus(イノセラムス科)の殻彫刻の変異 静岡大学地球科学研究報告、26、p.1-15
・Magdalena Lukowiak (2020)Utilizing sponge spicules in taxonomic, ecological and environmental reconstructions, PeerJ ,Volume 8
・小幡(1999) 関東山地北東部のジュラ紀・白亜紀から発見された生痕化石 地球科 学、53巻、4号、p.307-313
・田上(2002) 北海道北西部産白亜紀イノセラミド二枚貝の幼生生態 日本古生物学会 年会講演予稿集、p.124
熊本県天草市御所浦に「スフェノセラムスの壁(図1)」と呼ばれる白亜紀サントニアン期の層理面(35m×18m)が露出している場所がある。壁にはSphenoceramus. sp. (合弁化石を含む)や生痕化石が多産し、当時の生態系が保存された露頭である。
本研究はSphenoceramus naumanni (図2)を対象とし、生物学、古生物学、統計学、古環境解析を融合させ、当時の生態系復元を目的とした。一部、生態系復元のための解析手法の開発を試みた。
2.データおよび解析方法
2-1 古環境の推測
現地調査で発見した生痕化石の同定を行った。また、壁の転石を採取し、薬品処理して微化石の同定を行った。
2-2 生態解明
現地ではS. naumanniの分布をコドラート法で調査し、貝の殻長、殻高、殻頂方向、肋形状も調査した。また、層理面上のコロニー判別の新手法を開発した。具体的には貝の分布を座標にプロットし、エルボー法とシルエットスコアで決定した最適なk(グループ数)を用いて、k-means++法でグループを分けた。次に各グループをカイ二乗検定で化石の向きの偏りを検定し、向きをレーダーチャートで確認してコロニーと判断した。この手法を用いて図3中のAとBのコロニーを判別した。
肋(図4)は松田・生形 (1999) で示された肋の成長段階(α、β、γ、δ)による違いを調査した。肋密度も算出し、松田・生形 (1999)と比較した。
3.結果
3-1 古環境の推測
生痕化石はCosmorhaphe, Spirorhaphe, Lorenzinia(図5)を発見し、転石から六放海綿の骨針(図6)と考えられるものを発見した。
3-2 生態解明
AとBで各7つのコロニーを判別した。現生の深海二枚貝でもコロニーを判別し(図7)、正しく判別できた。また、AとBの範囲のS. naumanniの殻長、殻高を比較すると、Aの個体が成長していた。
肋の成長段階では、β段階が極端に多かった(図8)。壁の個体は松田・生形(1999)と比べて、β段階が終わるまでの殻高が大きく、肋密度は小さい(図9)。生痕化石はS. naumanniの近くに多く分布していた(図10)。
4.考察
4-1 古環境の推測
Magdalena Lukowiak(2020)、小幡(1999)も参考にして当時の環境は水深1000m〜6000mの深海で低酸素環境だと推測した。
4-2 生態解明
細見(1984)や田上(2002)より幼貝が高い分散能力を持ち、その流入出が集団の持続に関わることがわかったため、コロニー衰退発展過程を次のように考察した。
①元々貝がいたAから多くの幼貝が浮遊し、Aの外側に着底
②着底した場所(B)に新しくコロニーが発展
③幼貝が流出したAのコロニーが空洞化し、衰退
松田・生形(1999) の個体は浅海域に生息していたと報告されている。本研究の個体は深海に生息し、β段階が多い。β肋は深海で生活する上で利点があったと考察した。
S. naumanniは浅海で発展し、深海域に進出したとされている。本研究から最初に肋を粗く(β肋を拡張)して深海に適応し、その後放射肋を発達させてS. nagaoiに進化したと考察した。
生痕化石とS. naumanniの分布が近いことから、生痕を残した生物はS. naumanniのβ肋が作る乱流によって海底に集積される有機物などを得るため、近くに分布したと考察した。
5.今後の展望
調査範囲の拡大、β肋の模型を用いた乱流実験、微化石を用いた水深の特定を行い、生態系の復元を進める。
謝辞
京都大学 生形貴男様、元高知大学教授 田代正之様、高知大学 奈良正和様、御所浦恐竜の島博物館の皆様、先輩方には大変お世話になりました。心より、感謝申し上げます。
参考文献
・細見(1984) ムラサキイガイの生態学的研究ーⅢ 親個体群中における新規定着群の 消長 貝雑VENUS、Vol.43、No.2、p.157-171
・松田・生形(1999) 白亜紀二枚貝Sphenoceramus(イノセラムス科)の殻彫刻の変異 静岡大学地球科学研究報告、26、p.1-15
・Magdalena Lukowiak (2020)Utilizing sponge spicules in taxonomic, ecological and environmental reconstructions, PeerJ ,Volume 8
・小幡(1999) 関東山地北東部のジュラ紀・白亜紀から発見された生痕化石 地球科 学、53巻、4号、p.307-313
・田上(2002) 北海道北西部産白亜紀イノセラミド二枚貝の幼生生態 日本古生物学会 年会講演予稿集、p.124
