講演情報
[O12-P35]室戸の魅力を、いつでもどこでも誰にでも: だるま夕日再現実験と教材化への挑戦
*永尾 真尋1、*前田 桜萌1、畠中 星弥1、入川 蓮音1 (1. 高知県立室戸高等学校)
キーワード:
蜃気楼、屈折、再現実験、だるま夕日、教材開発、黒潮
1.背景
日本の太平洋沿岸(沖縄〜千葉)を中心に、冬季に下位蜃気楼の一種である「だるま朝日・夕日」が観測される(図1)。この現象は、乾燥した冷たい季節風で大気が冷却される一方、黒潮の影響で海面直上の空気が加温されることで、温かい空気(下位)と冷たい空気(上位)の層構造が形成されることに起因する。この温度差により空気の屈折率に鉛直勾配が生じ、太陽光が屈折することで、水平線近くで太陽の実像の下部に虚像が接続し、「だるま型の太陽」が観測される [1]。高知県室戸市は三方を海に囲まれており、東海岸ではだるま朝日が、西海岸ではだるま夕日が、南端の室戸岬では双方が観測可能である。そのため、だるま朝日・夕日の観測に好適な地域として知られ、観光資源として活用されている[2]。
2.研究目的
私たちは高校入学後に室戸市内の海岸でだるま夕日を観測する機会があり(図1)、その時の感動を子ども達や一般の人々にも広く伝えたいと考えた。そこで本研究では、だるま夕日を再現するため、簡単かつ高い再現性を持つ実験手法を確立することを目的とした。将来的には、本研究で確立した実験を教材や広報素材として活用することを目指す。
3.実験手法と結果
まず、水の層構造による光の屈折の再現を試みた。水槽の中に食塩水と真水を用いて密度差による層構造を形成し、側面からレーザーポインタをあてて光路の屈折を観察した。その結果、屈折は確認されたが(図2)、この方法では高屈折率の層(食塩水)が上部に安定して位置する構造を形成できず、実際の大気の構造(下層:低屈折率、上層:高屈折率)とは逆転した状態となった。また、寒天を用いた層構造の固定化も試みたが、透明性の問題により光路の観察は困難であった。
次に、空気の温度勾配による屈折に着目し、屋外で逃げ水現象を観測した。逃げ水が発生しているコンクリートの路面にカラーボールを置き、数m離れた地点から観測したところ、ボールの像の下半分が上下に引き延ばされているのが確認された(図3)。
さらに加熱した鉄板上に空気の温度勾配を形成する実験を行った。最初の実験では、光源にスマートフォンのライトを使用して「だるま型の像」が観察された(図4)。しかし同条件で鉄板を加熱しなかった場合でも同様の像が得られたことから、この「だるま型の像」はライトの光と、ライトの光が鉄板に反射した像が組み合わさったものと判断された。
そこで、光源を発光するカラーボールに変更し、さらに鉄板と光源の距離を約250 cm確保することで鉄板の反射の影響を排除した (図5)。この条件下で、加熱した鉄板(観察距離約60 cm)越しに観察したところ、ボールの像の下部が歪んだ「だるま型の像」が観測された(図6)。同条件下で鉄板を加熱しなかった場合にはこのような像は確認されなかった。このことから、この実験でだるま夕日の再現に成功したといえる。
4.考察
だるま夕日が再現できた実験で、加熱した鉄板から上方約10 cmまでの気温を測定し、Edlénの公式[3]に基づいて屈折率分布を算出した。その結果、高さとともに屈折率が連続的に増加するプロファイルが得られた(図7)。この屈折率勾配は光線を上方へと湾曲させる効果を持ち、光源の実像の下部に虚像を接続することで「だるま型の像」を形成する要因であると考えられる。すなわち、この実験は温度勾配に起因する屈折現象を通して、だるま夕日の基本的な光学過程を再現している。
5.まとめと研究成果の活用
本研究では、光源、熱源、観察者の適切な位置関係と、加熱した鉄板上にできる空気の屈折勾配によって、だるま夕日を再現する実験手法を確立した。この成果をもとに、私たちはだるま夕日再現実験をわかりやすく解説・紹介する動画を作成し、すでに研究発表の場で活用している。
今後は、再現実験の見せ方をさらに工夫し、教育や観光の現場でより多くの人々に室戸の自然の魅力を伝えていきたい。再現実験を通してだるま朝日・夕日に触れることは、室戸の気候・風土を深く理解し、親しむことにつながるだろう。
【引用文献】
[1] 中田 潔, 2021. 「だるま夕日」の発生と形状についての定量的解析. 日本物理学会講演概要集, 76.1 巻, 12aN1-5.
[2] 一般社団法人室戸市観光協会, 2020. だるま朝日・だるま夕日 https://www.muroto-kankou.com/search_spot/nature/s_7/ (2026年4月11日閲覧)
[3] Edlén, B., 1966. The Refractive Index of Air, Metrologia 2, (2), 71–80.
日本の太平洋沿岸(沖縄〜千葉)を中心に、冬季に下位蜃気楼の一種である「だるま朝日・夕日」が観測される(図1)。この現象は、乾燥した冷たい季節風で大気が冷却される一方、黒潮の影響で海面直上の空気が加温されることで、温かい空気(下位)と冷たい空気(上位)の層構造が形成されることに起因する。この温度差により空気の屈折率に鉛直勾配が生じ、太陽光が屈折することで、水平線近くで太陽の実像の下部に虚像が接続し、「だるま型の太陽」が観測される [1]。高知県室戸市は三方を海に囲まれており、東海岸ではだるま朝日が、西海岸ではだるま夕日が、南端の室戸岬では双方が観測可能である。そのため、だるま朝日・夕日の観測に好適な地域として知られ、観光資源として活用されている[2]。
2.研究目的
私たちは高校入学後に室戸市内の海岸でだるま夕日を観測する機会があり(図1)、その時の感動を子ども達や一般の人々にも広く伝えたいと考えた。そこで本研究では、だるま夕日を再現するため、簡単かつ高い再現性を持つ実験手法を確立することを目的とした。将来的には、本研究で確立した実験を教材や広報素材として活用することを目指す。
3.実験手法と結果
まず、水の層構造による光の屈折の再現を試みた。水槽の中に食塩水と真水を用いて密度差による層構造を形成し、側面からレーザーポインタをあてて光路の屈折を観察した。その結果、屈折は確認されたが(図2)、この方法では高屈折率の層(食塩水)が上部に安定して位置する構造を形成できず、実際の大気の構造(下層:低屈折率、上層:高屈折率)とは逆転した状態となった。また、寒天を用いた層構造の固定化も試みたが、透明性の問題により光路の観察は困難であった。
次に、空気の温度勾配による屈折に着目し、屋外で逃げ水現象を観測した。逃げ水が発生しているコンクリートの路面にカラーボールを置き、数m離れた地点から観測したところ、ボールの像の下半分が上下に引き延ばされているのが確認された(図3)。
さらに加熱した鉄板上に空気の温度勾配を形成する実験を行った。最初の実験では、光源にスマートフォンのライトを使用して「だるま型の像」が観察された(図4)。しかし同条件で鉄板を加熱しなかった場合でも同様の像が得られたことから、この「だるま型の像」はライトの光と、ライトの光が鉄板に反射した像が組み合わさったものと判断された。
そこで、光源を発光するカラーボールに変更し、さらに鉄板と光源の距離を約250 cm確保することで鉄板の反射の影響を排除した (図5)。この条件下で、加熱した鉄板(観察距離約60 cm)越しに観察したところ、ボールの像の下部が歪んだ「だるま型の像」が観測された(図6)。同条件下で鉄板を加熱しなかった場合にはこのような像は確認されなかった。このことから、この実験でだるま夕日の再現に成功したといえる。
4.考察
だるま夕日が再現できた実験で、加熱した鉄板から上方約10 cmまでの気温を測定し、Edlénの公式[3]に基づいて屈折率分布を算出した。その結果、高さとともに屈折率が連続的に増加するプロファイルが得られた(図7)。この屈折率勾配は光線を上方へと湾曲させる効果を持ち、光源の実像の下部に虚像を接続することで「だるま型の像」を形成する要因であると考えられる。すなわち、この実験は温度勾配に起因する屈折現象を通して、だるま夕日の基本的な光学過程を再現している。
5.まとめと研究成果の活用
本研究では、光源、熱源、観察者の適切な位置関係と、加熱した鉄板上にできる空気の屈折勾配によって、だるま夕日を再現する実験手法を確立した。この成果をもとに、私たちはだるま夕日再現実験をわかりやすく解説・紹介する動画を作成し、すでに研究発表の場で活用している。
今後は、再現実験の見せ方をさらに工夫し、教育や観光の現場でより多くの人々に室戸の自然の魅力を伝えていきたい。再現実験を通してだるま朝日・夕日に触れることは、室戸の気候・風土を深く理解し、親しむことにつながるだろう。
【引用文献】
[1] 中田 潔, 2021. 「だるま夕日」の発生と形状についての定量的解析. 日本物理学会講演概要集, 76.1 巻, 12aN1-5.
[2] 一般社団法人室戸市観光協会, 2020. だるま朝日・だるま夕日 https://www.muroto-kankou.com/search_spot/nature/s_7/ (2026年4月11日閲覧)
[3] Edlén, B., 1966. The Refractive Index of Air, Metrologia 2, (2), 71–80.
