講演情報
[O12-P40]月食時の月の明るさの謎を追う
*川原 陽飛1、有村 拓真1、高松 陽南子1、大竹野 弘夢1、川崎 翔大1、横山 涼世1、山口 晴加1、稲留 彩希1、坂元 伶衣1 (1. 鹿児島県立国分高等学校)
キーワード:
皆既月食、ダンジョンスケール、成層圏エアロゾル、レォトビ火山
私達は先輩達の研究を引き継ぎ,2025年9月8日と2026年3月3日に起こった皆既月食の観測を行った。皆既食時の月の明るさには違いがあり,その原因について調べたいと思い,研究を始めた。2025年9月8日と2026年3月3日の皆既月食を観測し,その結果を考察する。観測に使用した機材鏡筒はタカハシ16cm反射望遠鏡,赤道儀で電動追尾を行った。撮影したカメラはCanon EOS 60D(無改造,直焦点撮影)で,撮影枚数は9月8日が546枚,3月3日が582枚である。観測場所は2回とも霧島市城山公園で行い,両日とも桜島や霧島新燃岳の降灰の影響はなかった。観測時の天気は,9月8日は概ね晴れで,3月3日は終始快晴だった。月食時の月の明るさについては国立天文台版「ダンジョンスケール」を用い,皆既食最大の時刻で月の明るさを肉眼で判定した。観測した2回の月食では,Instagramを使って事前に皆既月食時の月の明るさを肉眼で計測するキャンペーンを実施した。9月8日は海外を含めて日本全国から26人の報告があった。その多くがL=2を報告し,この月食がやや暗めだったことが分かった。一方,3月3日も同様にInstagramを用いて観測協力をお願いし,国内のみで52人の報告があった。観測結果はL=3でやや明るい月食の報告が多かった。2回の月食の月の明るさが異なる原因を探るため,過去にL=0~2が観測された暗い月食を調べた。過去に暗い月食が観測された際に原因があるとされる火山の大噴火についてまとめた。L=0~1の明らかに暗い月食に影響した火山の大噴火は,いずれもVEI=5以上であることが分かった。これらの火山噴火以外も含め,改めてVEI=5以上の火山噴火を調べたところ,全部で9回の火山噴火がVEI=5以上だった。その中でアグン山・エルチチョン山・ピナツボ山の噴火では,噴火後1~2年以内に起こった月食が暗くなっている。文献を調べるうちに,月食に影響する火山噴火については,火山噴火によって放出された硫酸エアロゾルの成層圏での存在量が月食時の月の明るさに影響する。成層圏にはブリュワードブソン循環という大気の大循環があり,この循環によってエアロゾルの分布に偏りが出たと考えた。そこで,九州大学応用力学研究所がWebで大気汚染データを公表しているSPRINTARSを用い,2025年9月8日の硫酸エアロゾルのデータを調べた。南九州地区で月食を観測する際には,経度でそれぞれ西側と東側に約90度離れた地点の大気の層を太陽光が通過する。それらの地点の1つである日本の東側の太平洋にある地域では,硫酸エアロゾルの濃度は中程度であった。一方,日本の西側のヨーロッパにある地域はその濃度は高かった。従って,9月8日の月食が暗めであったと観測された原因は,このヨーロッパ付近の硫酸エアロゾル濃度が高いことであると考えた。一方,3月3日のSPRINTARSのデータからは,月食の明るさに影響する日本から約90度離れた2つの地域の硫酸エアロゾルの値に高いものは無かった。従って,9月8日と3月3日の皆既月食時の月の明るさの違いは,成層圏に分布する硫酸エアロゾルの濃度によるもので,それらは火山の大噴火起源であることから,9月8日月食の約1ヶ月前に大噴火したインドネシアのレォトビ火山に原因があると我々は考えた。
