講演情報

[O12-P43]大気圏内型イオンエンジンモデルの作成及び高度別大気圏での推力検証

*十亀 将1、*田村 凛人1 (1. 芝浦工業大学柏中学高等学校)

キーワード:

イオンエンジン、大気圏、推力、火星探査、グリッド最適化

1. はじめに
1.1 研究背景
イオンエンジンは、従来の化学ロケットエンジンと比較して高い比推力(低燃費)と長寿命性を有しており、深宇宙探査における主力推進機として定着している。しかし、その最大の欠点は推力の小ささにある。現在、宇宙開発の加速に伴い、火星をはじめとする大気を持つ惑星探査の需要が高まっている。限られたリソースで探査を行うには、現地の大気を推進剤として利用する「大気吸込み型イオンエンジン」の活用が極めて有効な手段となる。 先行研究においては、高度200km程度の超低高度軌道(VLEO)を対象とした研究が主であり、西山(2014)らによる研究でも高度60kmから200kmを対象としている。しかし、高度60km以下の低・中高度大気圏内における推力特性については、未だ十分な知見が得られていない。

1.2 研究の目的と意義
本研究の目的は、1.0気圧〜0.1気圧相当を想定した環境下で、大気媒介型イオンエンジンの推力測定を行い、気圧変化に応じたグリッド間距離の最適性を明らかにすることである。

2. 実験装置および手法
2.1 実験装置の構成
実験に使用したイオンエンジンは、半径1.5cm、長さ2cmのアルミ筒を電極(グリッド)として作製した。電源系は高圧変換器を用い、入力電圧を約1000〜1250倍に昇圧して供給した。真空容器を要する実験においては、Askul製単3アルカリ乾電池を使用し、回路の干渉を最小限に抑えた。

2.2 実験プロセス
本研究では、以下の5段階の実験を通じて推力特性を評価した。
[1] 予備実験: 高圧変換器の入出力特性の確認、および1気圧下での作動確認。
[2] 真空管内風力測定: 1.0気圧から0.2気圧の範囲で、風速計を用いたイオン風の測定。風速計は電極から5cm離して固定した。
[3] エアーレールによる推力測定: 摩擦を排除した環境での加速度測定を試行。
[4] ばねを用いた推力測定: 真空管内にイオンエンジンとばね(ばね定数 0.0350 N/cm)を吊り下げ、気圧とグリッド間距離(1cm, 1.5cm, 2cm)を変化させて変位を測定。

3. 結果と考察
3.1 電源特性とイオン風の発生(実験1・2)
高圧変換器の出力は入力に対して高い線形性を示し、約1000倍以上の昇圧を確認した。実験[2]において、風速計による測定では0.75気圧以下で記録が0ktとなったが、ティッシュを用いた定性観察では微小なイオン風の継続が確認された。これにより、低気圧下でも推力が発生していることが実証された。

3.2 推進特性の定量的評価(実験3・4)
実験[3]のエアーレールを用いた測定では、ケーブルの張力や干渉、およびイオンエンジンの発生推力が極めて微小であったことから、有意な加速度の差を検出するには至らなかった。
実験[4]では、機体が重量バランスにより鉛直方向から34°傾斜した状態で測定された。そのため、測定された見かけの推力(ばねの復元力)を Fmeas とすると、真の推力 F は以下の式で補正した。
F = Fmeas/cos 34° ≃ Fmeas/0.829
測定の結果、グリッド間距離1.5cmの条件では、他の距離(1cm, 2cm)と比較して推力が著しく低下する傾向が見られた。

3.3 気圧別最適グリッド間距離の発見
本研究における最大の知見は、気圧変化に応じた最適グリッド間距離の遷移である。
1.0気圧時: グリッド間距離1cmにおいて最大推力を記録。
0.9気圧以下: 最適距離が1cmから2cmへと移行。
これは、気圧の低下に伴い空気分子の数密度が減少することで、イオンの平均自由工程が変化し、加速効率を最大化するための電界強度と加速空間のバランス(グリッド間距離)が変化したためと考えられる。

4. 結論
本研究により、高度約1km以上に相当する0.9気圧以下の環境において、大気媒介型イオンエンジンの推力効率を最大化するためのグリッド間距離が、地上付近とは異なることが明らかになった。具体的には、低高度(1気圧)では1cm、中高度(0.9気圧以下)では2cmが最適であることを示した。 また、実験過程においてアーク放電の発生が推力の低下を招くことも確認され、安定した推力を得るためには放電抑制と気圧に応じたパラメータ制御が不可欠であることが示唆された。