講演情報
[O12-P57]高校生のネットワークによる、環境DNAを用いた石川県の河川の魚類相調査
*久田 唯心1、谷口 豪紀1、和田 浩輝1、駒井 結翔1、林 真衣1、干場 真歩1、田口 一生1、酒本 一輝1、干場 智貴1、関軒 康太郎1、中村 陸人1 (1. 石川県立七尾高等学校SSC)
キーワード:
環境DNA、魚類相、高校生ネットワーク、能登半島地震、トキ、生物多様性
[動機と目的]
石川県の河川における魚類相については、1996年に行われた大規模な捕獲調査以降、全県規模での網羅的なデータ更新が行われていない。しかし、この約30年の間に、河川改修による生息環境の変化、オオクチバス(ブラックバス)等の外来種の侵入、さらには地球規模の気候変動に伴う水温上昇など、魚類相を変化させる複合的な要因が数多く発生している。
本研究は、従来の捕獲調査に代わる効率的な手法として注目されている「環境DNA技術」を導入し、石川県内の高校生が連携するネットワークを通じて、現在の魚類相を科学的に再調査することを目的とした。また、本研究は単なる学術調査に留まらず、令和6年能登半島地震および令和6年9月能登半島豪雨という甚大な自然災害に見舞われた地域において、災害後の河川生態系の変遷を長期的かつ継続的にモニタリングする役割も担っている。さらに、令和8年に石川県内で放鳥が計画されているトキ(国際保護鳥)の野生復帰を支えるため、トキの重要な餌資源となるドジョウ等の生息状況を把握し、持続可能な里山環境の基礎情報を収集することも重要な目的の一つである。
[方法(データおよび解析方法)]
石川県立七尾高等学校は令和5年度より、能登地域の河川の魚類相を解明すべく環境DNAを用いた調査を開始した。この活動を全県的な取り組みへと広げるため、他校との連携を強化し、令和7年度には県下10校の高校が参加する「いしかわ高校環境DNAラボネット」を設立した。このネットワークは能登、金沢、加賀の各地区を網羅しており、広域かつ多地点での同時並行的な調査体制を実現している。
具体的な調査手法は、環境省生物多様性センターや環境DNA学会が策定した標準的なプロトコルに準拠して実施した。各地点で採水し、この試料から抽出したDNAを用いて解析を行った。解析においては、トキの餌として生態学的に重要なドジョウ類や、地域の漁業資源として価値の高いアユに焦点を当てた「種特異的PCR解析」を実施した。また、株式会社環境公害研究センターとの共同研究として、魚類全般を網羅的に検出できる「MiFishメタバーコーディング法」による次世代シーケンス解析を行い、検出されたDNA配列をデータベースと照合することで、生息種全種の解明を試みた。調査地点数は、2023年度に中能登地区50地点、2024年度に奥能登地区34地点(震災・豪雨の影響により当初予定より縮小)、2025年度には石川県全域に拡大した168地点で実施した。
[結果]
2023年度から2024年度にかけての調査結果を統合・分析した結果、以下の知見が得られた。
まず種特異的解析においては、トキの有力な餌資源であるドジョウの生息が、既存のデータにはなかった新たな31地点で確認された。これにより、能登半島の広範囲においてトキの野生復帰を支える豊かな餌場環境が維持されている可能性が示唆された。
網羅的解析(メタバーコーディング)の結果では、2023年度に66種、2024年度に40種の魚類が検出された。1996年の捕獲調査結果と比較すると、新たに19種の存在が確認されており、環境DNA技術の高い検出感度が実証された。特筆すべき点として、スナヤツメ、キタノメダカ、ヤリタナゴ、キタドジョウ、ニホンウナギといった環境省レッドデータブック(RDB)に掲載されている希少野生動植物種が多くの地点で確認され、石川県の河川が依然として高い生物多様性を保持していることが明らかになった。
その一方で、オオクチバス、ブルーギル、カラドジョウといった外来種や国内外からの移入種も広範囲で検出されており、これらが在来の魚類相を圧迫している実態も浮き彫りとなった。
[結論(考察と今後の課題)]
本研究を通じて、高校生が最先端のバイオテクノロジーである環境DNA分析技術を習得し、自らの手で地域の自然環境を可視化・理解することは、科学的探究能力の向上に大きく寄与している。本活動で得られた膨大なデータ群は、能登半島地震や豪雨災害という大規模な攪乱を経験した河川生態系が、今後どのように回復・遷移していくかを評価するための極めて重要な「ベースラインデータ(基礎情報)」となる。
今後は、石川県全域にわたる広域調査の結果を精査し、気象データや地理情報システム(GIS)と組み合わせることで、より詳細な生物多様性評価を行う予定である。また、これらの知見を基に、行政や地域住民に対して里山の持続的な管理や環境保全に関する政策提言を行いたいと考えている。高校生のネットワークによる継続的なモニタリング体制を盤石なものとし、調査活動を通じて郷土への理解を深めた若者たちが、将来的に石川県の復興と発展を支えるリーダーとなることを期待する。
石川県の河川における魚類相については、1996年に行われた大規模な捕獲調査以降、全県規模での網羅的なデータ更新が行われていない。しかし、この約30年の間に、河川改修による生息環境の変化、オオクチバス(ブラックバス)等の外来種の侵入、さらには地球規模の気候変動に伴う水温上昇など、魚類相を変化させる複合的な要因が数多く発生している。
本研究は、従来の捕獲調査に代わる効率的な手法として注目されている「環境DNA技術」を導入し、石川県内の高校生が連携するネットワークを通じて、現在の魚類相を科学的に再調査することを目的とした。また、本研究は単なる学術調査に留まらず、令和6年能登半島地震および令和6年9月能登半島豪雨という甚大な自然災害に見舞われた地域において、災害後の河川生態系の変遷を長期的かつ継続的にモニタリングする役割も担っている。さらに、令和8年に石川県内で放鳥が計画されているトキ(国際保護鳥)の野生復帰を支えるため、トキの重要な餌資源となるドジョウ等の生息状況を把握し、持続可能な里山環境の基礎情報を収集することも重要な目的の一つである。
[方法(データおよび解析方法)]
石川県立七尾高等学校は令和5年度より、能登地域の河川の魚類相を解明すべく環境DNAを用いた調査を開始した。この活動を全県的な取り組みへと広げるため、他校との連携を強化し、令和7年度には県下10校の高校が参加する「いしかわ高校環境DNAラボネット」を設立した。このネットワークは能登、金沢、加賀の各地区を網羅しており、広域かつ多地点での同時並行的な調査体制を実現している。
具体的な調査手法は、環境省生物多様性センターや環境DNA学会が策定した標準的なプロトコルに準拠して実施した。各地点で採水し、この試料から抽出したDNAを用いて解析を行った。解析においては、トキの餌として生態学的に重要なドジョウ類や、地域の漁業資源として価値の高いアユに焦点を当てた「種特異的PCR解析」を実施した。また、株式会社環境公害研究センターとの共同研究として、魚類全般を網羅的に検出できる「MiFishメタバーコーディング法」による次世代シーケンス解析を行い、検出されたDNA配列をデータベースと照合することで、生息種全種の解明を試みた。調査地点数は、2023年度に中能登地区50地点、2024年度に奥能登地区34地点(震災・豪雨の影響により当初予定より縮小)、2025年度には石川県全域に拡大した168地点で実施した。
[結果]
2023年度から2024年度にかけての調査結果を統合・分析した結果、以下の知見が得られた。
まず種特異的解析においては、トキの有力な餌資源であるドジョウの生息が、既存のデータにはなかった新たな31地点で確認された。これにより、能登半島の広範囲においてトキの野生復帰を支える豊かな餌場環境が維持されている可能性が示唆された。
網羅的解析(メタバーコーディング)の結果では、2023年度に66種、2024年度に40種の魚類が検出された。1996年の捕獲調査結果と比較すると、新たに19種の存在が確認されており、環境DNA技術の高い検出感度が実証された。特筆すべき点として、スナヤツメ、キタノメダカ、ヤリタナゴ、キタドジョウ、ニホンウナギといった環境省レッドデータブック(RDB)に掲載されている希少野生動植物種が多くの地点で確認され、石川県の河川が依然として高い生物多様性を保持していることが明らかになった。
その一方で、オオクチバス、ブルーギル、カラドジョウといった外来種や国内外からの移入種も広範囲で検出されており、これらが在来の魚類相を圧迫している実態も浮き彫りとなった。
[結論(考察と今後の課題)]
本研究を通じて、高校生が最先端のバイオテクノロジーである環境DNA分析技術を習得し、自らの手で地域の自然環境を可視化・理解することは、科学的探究能力の向上に大きく寄与している。本活動で得られた膨大なデータ群は、能登半島地震や豪雨災害という大規模な攪乱を経験した河川生態系が、今後どのように回復・遷移していくかを評価するための極めて重要な「ベースラインデータ(基礎情報)」となる。
今後は、石川県全域にわたる広域調査の結果を精査し、気象データや地理情報システム(GIS)と組み合わせることで、より詳細な生物多様性評価を行う予定である。また、これらの知見を基に、行政や地域住民に対して里山の持続的な管理や環境保全に関する政策提言を行いたいと考えている。高校生のネットワークによる継続的なモニタリング体制を盤石なものとし、調査活動を通じて郷土への理解を深めた若者たちが、将来的に石川県の復興と発展を支えるリーダーとなることを期待する。
