講演情報

[O12-P64]針葉樹林及び広葉樹林における土壌構造が斜面の安定性に与える影響と斜面崩壊プロセスの解明

*阪本 公樹1 (1. 筑波大学附属高等学校)

キーワード:

斜面崩壊、表層崩壊、土壌構造、針葉樹林

[動機と目的]
 自宅近くの里山において、針葉樹林を中心に土砂災害が発生している現状を目の当たりにし、同一山地内であっても崩壊が発生しやすい場所とそうでない場所が存在する点に疑問を持った。現地で観察した際に、針葉樹林と広葉樹林の土壌の質の差異を感じた。そこで針葉樹林と広葉樹林を比較することで、土砂災害を誘発させる要素を解明できる可能性があると考え、その要因を明らかにするための調査を行った。 要因を究明するポイントは土壌の構造にあると考え、森林の種類と土壌特性の関係性に注目した調査を行った。本研究では主に物理的観点から土壌の分析を進め、針葉樹林と広葉樹林の土壌構造の違いが災害発生のメカニズムにどのように関与しているのかを明らかにすることを目指す。なお、本研究における土砂災害とは、主に降雨時に発生する斜面崩壊および表層崩壊を指す。
[方法]
 針葉樹林と広葉樹林の土壌の相違点を調べ、どのような点が土砂災害を誘発しているのかを調査する。本研究では針葉樹林と広葉樹林、さらにその地点の土砂崩れの有無のポイントで分類し、それぞれ複数の土壌サンプルをそれぞれ採取する。採取した土壌について、通気性、保水性、排水性、含水比および pH を測定し、水を加えた際の土壌の吸水の様子を記録する。得られた各測定結果を地点ごとの土砂災害発生の有無と対応させることで、森林タイプおよび土壌特性の違いと災害発生との関連性を分析する。 本研究では、広葉樹林と針葉樹林の土壌サンプルを用いて、物理的特性、含水比、水への反応、及び化学的特性を多角的に分析した。なお、採取場所は栃木県栃木市都賀町大柿地区である。採取日時は10月8日である。具体的な実験方法は以下の通りである。
1. 通気性、保水性及び排水性の測定
 土壌の水の通りやすさと空気の保持能力を測定するために、以下の手順で試験を行う。 まず、土壌200gを容器に入れ、乾燥時の重量を測定した。 次に土壌を2分間満水の状態にして水分を含ませた後、2分間排水させ、その際の排水量を計測する。 これらの測定値から、通気性、保水性及び排水性を算出した。
2. 含水比の測定
 それぞれのサンプルの含水比と、土壌が時間の経過とともにどのように水分を蒸発させるかを調査した。10gの土壌サンプルを使い、電子レンジ(300W)で加熱をし、0分から40分後まで5分刻みで重量の変化を計測した。 計測データに基づき、土壌1gあたりおよび乾燥土壌1gあたりの含水率を算出した。
3. pH値の測定
 土壌の水素イオン指数を測定する。 各サンプルについてpH値を測定し、樹林の種類や土砂崩れの有無との相関を分析した。
4. 土壌表面の水への反応観察
 乾燥した土壌に水を落とした際の浸透の様子を視覚的に観察する。 観察は、水を落とした直後と10分後の2回行った。 反応の状態を直後を「直ちに浸透」と「水滴になる」、10分後の様子を「浸透」と「浸透せず」といった観察内容を体系的に記録し、土壌の撥水性を評価した。
[結果]
 広葉樹林の通気性は平均15.044cm³/100g、保水性は平均30.933g/100g、排水性は平均0.250g/1秒であるのに対し、針葉樹林は通気性3.703cm³/100g、保水性11.109g/100g、排水性は平均0.062g/1秒と、広葉樹林は、針葉樹林に比べ、通気性は約5倍、保水性は3倍、排水性は約4倍など顕著な差が認められた。特に、広葉樹林のサンプルは水を加えた直後に浸透したが、針葉樹林のサンプルはすべて土壌の表面上で水滴になり、10分後も浸透しないという結果を示した。
[結論]
 広葉樹林の土壌は高い通気性と保水性を持つ団粒構造を形成しており、基本的には優れた「緑のダム」の機能を果たしている。しかし、土砂崩れ地点では通気性と排水性が全サンプル中で最大値を記録しており、過剰な透過性が豪雨時の急激な間隙水圧上昇を招くという、広葉樹林特有の崩壊リスクが示唆された。針葉樹林は粒子が細かく強い撥水性を示すため、通気性や排水性が極めて低い物理的閉塞状態にある。その一方で、崩壊が発生したサンプルの中で含水比が大きく異なるものが確認でき、撥水層と飽和層の境界における滑り面の形成が崩壊の一因である可能性があると結論付けられる。本研究の意義は、土壌の単なる含水量の大小ではなく、通気性や排水性といった土壌の構造の偏りこそが、斜面の安定性を左右する本質的な因子であることを論理的に示した点にある。