講演情報
[O12-P67]簡易な装置によるラマン散乱光測定手法の提案と評価
*笹生 雅樹パトリック1、*鴫谷 歩1、*小松原 蒼太1 (1. 中央大学附属高等学校)
キーワード:
ラマン分光法、共鳴ラマン散乱、ラマンスペクトル、活性炭、炭素結合
1 研究背景・目的
ラマン分光法は,ラマン散乱光を用いて物質中の化学結合に関する情報を得る手法である.ラマン散乱光は非常に微弱なため,数百万円~数千万円に及ぶ装置が必要とされ,高校での実験や探究活動への導入は困難である.藤原[1]によるラマン分光装置の自作例もあるが,この先行研究は光電子増倍管など高価な光学部品を用いてあり,安価な装置製作ではない.本研究では,市販のスペクトルメーターおよび一般的な光学部品のみを用いた安価かつ簡易なラマン分光測定法手法を提案する.さらに化学的に安定かつ特性が既知の活性炭を試料としてラマンスペクトルを測定し,提案手法の有用性を評価する.
2実験方法
手法1:波長624 nmのHe-Neレーザー光とスペクトルメーターを用いた測定(図1).鏡の上に活性炭を薄く撒いたものにレーザー光を照射し,反射光を検出した.
手法2:S/N比の改善を目的とした新たな測定手法を提案.散乱光を効率よく検出するため2枚の凹面鏡から成る集光系を導入した(図2).また,通常のラマン散乱光の104 ~106倍の強度を持つ共鳴ラマン散乱光に着目してラマン散乱光の強度上昇を狙った.励起光波長180~280nmの光を炭素材料に当てると共鳴ラマン散乱光が散乱することがYasin Orooji,et al.[2]によって知られている.そこで,波長254 nmの紫外線光源を凸レンズで絞り活性炭を封入したセルに照射し,セル内の活性炭から散乱した共鳴ラマン散乱光をより多く集めた.その後,光ファイバーを通してスペクトルメーターに導入した.これらの工夫により散乱光強度の増大およびS/N比の改善を期待した.
3実験結果
手法1において,得られたラマンスペクトルにはピークが確認され,その波数は片桐[2]が報告した炭素材料に特有なラマン散乱光の波数1580cm −1 と一致した(図3).
手法2において,得られたスペクトルには,波数19800 cm-1(波長510nm)付近にピークが観測されたが,この波数は炭素材料に特有な波数とは一致しなかった(図4).
4考察
手法1で得られたラマンスペクトルにはピークが確認され,その波数は片桐[3]が報告した炭素材料に特有なラマン散乱光の波数1580cm −1 と一致したことは,活性炭中の炭素結合に由来するラマン散乱光を観測できた可能性を示す.一方,スペクトル中にはノイズ成分も多く,ピークがノイズに埋もれている可能性を否定できない.散乱光とノイズの分離が主たる課題であることが再確認されたといえる.
手法2で得られたスペクトルには,波数19800 cm-1(波長510nm)付近にピークが観測されたが,この波数は炭素材料に特有な波数とは一致しない.この原因は紫外線光源を炭素材料に照射したことによる蛍光現象だと考えられる.一方で,スペクトル全体においてノイズ成分は相対的に低減しており,S/N比が改善されたことは確認された.本実験ではレーザー光源を用いることができず紫外線ランプを光源として使用したため,共鳴ラマン散乱の寄与を定量的に評価するには至らなかった.今後は,光源・試料条件および分光器の選定を含めた測定系の再検討が必要である.
5結論および今後の展望
提案手法1ではラマン散乱を測定できた可能性が示したが,ノイズが目立ち,S/N比の改善が課題となった.そこで共鳴ラマン散乱光と集光系に注目した提案手法2を用いた測定ではS/N比の改善が確認できた.本研究では,市販の分光器および光学部品のみを用いた簡易なラマン散乱光測定手法を提案した.特に,集光系の導入により測定系のS/N比を改善できる可能性を示した点は,高校教育におけるラマン分光法の実践に向けた基礎的知見である.
6参考文献
[1]藤山常毅,田隅三生.レーザーラマン分光装置の製作.分光研究.20.1.p28-39.(1971)
[2] Yasin Orooji,Hamed Ghanbari Gol,Babak Jaleh,Babak Jaleh,Mohammad Reza Rashidian Vaziri, Mahtab Eslamipanah,:Large Optical Nonlinearity of Activated Carbon Nanoparticles Prepared by Laser Ablation. Nanomaterials. 11(3),737. (2021)
[3]片桐元:炭素材料のラマンスペクトルおよび新しい応用.炭素175 ,p304-313.(1996)
7謝辞
本研究では紺野優以先生・三輪貴信先生・田島丈年先生(中央大学附属高等学校)に終始多大なご指導を賜った.ここに深謝する.
ラマン分光法は,ラマン散乱光を用いて物質中の化学結合に関する情報を得る手法である.ラマン散乱光は非常に微弱なため,数百万円~数千万円に及ぶ装置が必要とされ,高校での実験や探究活動への導入は困難である.藤原[1]によるラマン分光装置の自作例もあるが,この先行研究は光電子増倍管など高価な光学部品を用いてあり,安価な装置製作ではない.本研究では,市販のスペクトルメーターおよび一般的な光学部品のみを用いた安価かつ簡易なラマン分光測定法手法を提案する.さらに化学的に安定かつ特性が既知の活性炭を試料としてラマンスペクトルを測定し,提案手法の有用性を評価する.
2実験方法
手法1:波長624 nmのHe-Neレーザー光とスペクトルメーターを用いた測定(図1).鏡の上に活性炭を薄く撒いたものにレーザー光を照射し,反射光を検出した.
手法2:S/N比の改善を目的とした新たな測定手法を提案.散乱光を効率よく検出するため2枚の凹面鏡から成る集光系を導入した(図2).また,通常のラマン散乱光の104 ~106倍の強度を持つ共鳴ラマン散乱光に着目してラマン散乱光の強度上昇を狙った.励起光波長180~280nmの光を炭素材料に当てると共鳴ラマン散乱光が散乱することがYasin Orooji,et al.[2]によって知られている.そこで,波長254 nmの紫外線光源を凸レンズで絞り活性炭を封入したセルに照射し,セル内の活性炭から散乱した共鳴ラマン散乱光をより多く集めた.その後,光ファイバーを通してスペクトルメーターに導入した.これらの工夫により散乱光強度の増大およびS/N比の改善を期待した.
3実験結果
手法1において,得られたラマンスペクトルにはピークが確認され,その波数は片桐[2]が報告した炭素材料に特有なラマン散乱光の波数1580cm −1 と一致した(図3).
手法2において,得られたスペクトルには,波数19800 cm-1(波長510nm)付近にピークが観測されたが,この波数は炭素材料に特有な波数とは一致しなかった(図4).
4考察
手法1で得られたラマンスペクトルにはピークが確認され,その波数は片桐[3]が報告した炭素材料に特有なラマン散乱光の波数1580cm −1 と一致したことは,活性炭中の炭素結合に由来するラマン散乱光を観測できた可能性を示す.一方,スペクトル中にはノイズ成分も多く,ピークがノイズに埋もれている可能性を否定できない.散乱光とノイズの分離が主たる課題であることが再確認されたといえる.
手法2で得られたスペクトルには,波数19800 cm-1(波長510nm)付近にピークが観測されたが,この波数は炭素材料に特有な波数とは一致しない.この原因は紫外線光源を炭素材料に照射したことによる蛍光現象だと考えられる.一方で,スペクトル全体においてノイズ成分は相対的に低減しており,S/N比が改善されたことは確認された.本実験ではレーザー光源を用いることができず紫外線ランプを光源として使用したため,共鳴ラマン散乱の寄与を定量的に評価するには至らなかった.今後は,光源・試料条件および分光器の選定を含めた測定系の再検討が必要である.
5結論および今後の展望
提案手法1ではラマン散乱を測定できた可能性が示したが,ノイズが目立ち,S/N比の改善が課題となった.そこで共鳴ラマン散乱光と集光系に注目した提案手法2を用いた測定ではS/N比の改善が確認できた.本研究では,市販の分光器および光学部品のみを用いた簡易なラマン散乱光測定手法を提案した.特に,集光系の導入により測定系のS/N比を改善できる可能性を示した点は,高校教育におけるラマン分光法の実践に向けた基礎的知見である.
6参考文献
[1]藤山常毅,田隅三生.レーザーラマン分光装置の製作.分光研究.20.1.p28-39.(1971)
[2] Yasin Orooji,Hamed Ghanbari Gol,Babak Jaleh,Babak Jaleh,Mohammad Reza Rashidian Vaziri, Mahtab Eslamipanah,:Large Optical Nonlinearity of Activated Carbon Nanoparticles Prepared by Laser Ablation. Nanomaterials. 11(3),737. (2021)
[3]片桐元:炭素材料のラマンスペクトルおよび新しい応用.炭素175 ,p304-313.(1996)
7謝辞
本研究では紺野優以先生・三輪貴信先生・田島丈年先生(中央大学附属高等学校)に終始多大なご指導を賜った.ここに深謝する.
