講演情報

[O12-P83]富士山の見え方と特徴的な雲の分析

*海野 俊太1、*宇佐美 瑛斗1、*星野 汐里1 (1. 東京都立立川高等学校)

キーワード:

機械学習、富士山、YOLOv9、雲、ウィンドプロファイラ

[背景と目的]  本校天文気象部では、約80年前より百葉箱による気象観測(1日2回、気温・気圧・視程・富士山観測等)を継続してきた。(図1)富士山の見え方の目視観測は1995年以降欠測が増えたが、田口(2019)による先行研究を契機に2018年に再開され現在まで続いている。その後、目視観測では欠測が多発したため自動化を検討した。2020年にはRaspberry Piで一眼レフカメラを制御する撮影装置を作成し(図2)、多数の撮影画像を蓄積してきた。また、本校で観測してきた富士山は独立峰であり、笠雲、吊るし雲、前掛け雲、旗雲などの特徴的な雲が発生することから、大気の状態を知る手掛かりとして古くから観天望気に用いられてきている。筑波大学の日下博幸氏らが2025年に客観的メソスケール解析データを用いて笠雲、吊るし雲、旗雲に関する発生時の上空の風と気温との関連を明らかにしたが、前掛け雲や気圧配置との関連、周辺の天気との関連は示されていなかった。そこで、約5年分20万枚の撮影画像から特徴的な雲の発生数を計上し、より手軽に入手可能なデータを用いて富士山周辺の様々な気象データと照合することで気象要素との関係を明らかにする。また、富士山の見え方の分析を行う際膨大な数の画像を目視で確認する必要があり負担が大きいため、機械学習による見え方の自動判別と継続記録を目指した。また、目視観測では見えると記録した中に曖昧な見え方のものも多かったため、「見える」「見えない」に加え「部分的に見える」を含む3段階で判別できるデータセットを作成した。
[手法]
①富士山にかかる雲と気象要素の分析
富士山にかかる特徴的な雲のうち笠雲、吊るし雲、前掛け雲、旗雲の4種類(図6)について先行研究で作成された自動観測装置で撮影された2020年10月~2024年12月の約20万枚の画像を目視で確認し、発生数を月別・時間帯別に集計。雲発生時の気圧配置(図7)、12時間前から1時間後までの山頂の飽和度、また高度別の風向風速の数値過去データを入手しウインドプロファイラの図を自作(図8)することで風向風速を各雲について調査。その上、雲発生後の河口湖アメダスにおける降水の有無を調査し、通常時の降水確率と比較することで周辺の天気との関連を探る。
②富士山の見え方の自動判別
先行研究で作成された自動観測装置において撮影された富士山方面の画像990枚を収集し、富士山の見え方に基づいて「見える」「部分的に見える」「見えない」の三段階に図3の基準に従って画像を分類してそれぞれアノテーションを施してデータセットを作成する。YOLOv9公式の事前学習モデル gelan-c.pt を使用し、作成したデータセットに対し転移学習を実施して機械学習モデルを作成する。
[結果と考察]
①富士山にかかる雲と気象要素の分析
発生件数を月別に調べると冬季に旗雲が多く(図10)、時間帯別に調べると朝(6-9時)に全体の件数が最多だった(図10)。また、西高東低の気圧配置の時に発生した雲全体の約8割が旗雲であった(図11・12)。4種の雲のうち笠雲と吊るし雲が発生時刻にかけて山頂の空気が飽和状態へ向かっており、笠雲のみが飽和している(図13)。これは笠雲が山頂付近にかかり、吊るし雲は未飽和のため高い位置で発生することによると考えられる。笠雲・吊るし雲発生時はともに西南西で吊るし雲の方がやや強く、旗雲発生時は強い西北西の風が吹いている傾向がみられた(図14)。降水確率は平均と比べて、吊るし雲発生時には降水確率が最も高くなり、旗雲発生時には最も低くなった。(図15)前掛け雲は雲のかかる位置の判定が難しいことから誤判定が多く発生した可能性が考えられる。
②富士山の見え方の自動判別
作成した機械学習モデルを用いて996枚の画像を判別した結果、F1スコアは0.93と高精度であった(表1)。また、本モデルを用い富士山の見え方の撮影・判別・記録を一括で自動化するシステムを構築して先行研究(2021 井上ほか)の観測システムに統合し、先行研究(2025 安原ほか)のwebデータベースに最新記録を表示できるようにした(図4)。加えて、2025年の全観測画像を自動判別し月別傾向を整理した(図5)結果、冬は見やすく夏は見えにくい傾向が確認された。一方、「部分的に見える △」は通年で約1〜6%と少なく、季節間で有意差は見られなかった。
[今後の展望]
300㎜の望遠レンズを取り付けた新たな自動観測装置を使い雲の判定制度の向上を図る。広範囲のアメダスのデータを利用し、降水確率や周辺の天気の予測に役立てる。「部分的に見える」の階級に50%~90%前後まで見えているものも含めた場合の季節ごとの傾向を探る。また、2025年の全観測画像の目視判別も行って今回作成した自動判別を用いた分析結果との比較を行い、自動判別の精度を別の観点からも評価を行う。