講演情報
[O12-P86]機械学習を用いたスプライト自動観測システムの構築
*北村 隆樹1、*大石 雄稀1、*根本 美優1、*鈴木 英仁1、*平川 瑞彩1 (1. 東京都立立川高等学校)
キーワード:
スプライト、機械学習、雷
[はじめに]
スプライトとは、対流圏の雷放電が上空の大気に影響を与えて中間圏で生じる発光現象である (図1)。2004年に愛知県の高校が捉えて以来、複数の高校が研究を行っているが、発生頻度が低く発光時間が極めて短いため、発生要因については未知の部分が多い。
本校では、2023年に天文気象部の先輩が、5台の安価な防犯カメラを使って全天を撮影する流星観測装置(図2)を開発し、1年間で28件のスプライトが撮影されたことをきっかけとして研究を開始した。
本研究では、まず、アマチュアによるスプライトの発生報告フォーラム「Sonota.Coネットワーク」に蓄積されたスプライトのデータ情報を活用し、発生推定位置などを調査して分析した。
また、流星用のカメラは短時間発光の撮影に不向きであり、モノクロ撮影のため特徴的な赤色発光を捉えられないという課題があったことから、新たにスプライト観測用の機器を作成し、画像を機械学習によって自動判別するプログラムを開発した。より多く観測することで、発生領域と発生条件について分析することを目指した。
海外の先行研究では、スプライトと電離層の関連性が指摘されていたことから、本研究ではスプライトと電離層のスポラディックE層(約100km)に関連があるのではないかという仮説を立て、イオノグラムを用いてスプライト発生時の電離層の状態について解析を行った。
[研究方法]
➀流星用防犯カメラで観測された28件のうち、日時・方角・画像の全てのデータが参照できた8件について、降水・落雷・気圧配置の観点から分析を行った(図3)。
②アマチュアによるスプライトの発生報告フォーラム「Sonota.Coネットワーク」の情報を基に、スプライト発生推定位置を日本地図上にプロットした(図4)。
③新たな観測装置を開発するため、角度を変えられる2軸サーボモーター架台を作成し、超長波観測ネットワークのリアルタイムデータから雷活動域を特定し、その方向へ自動追従するシステムを構築した(図5–9)。スプライトが得られた動画データにフィルタリング処理を施した後、深層学習モデルによる発光領域の抽出とスプライトの自動判別を行った(図10)。このプログラムの誤検出の主要因は画角変化に伴う人工光の見かけの移動であった。そのため、この誤検出を除外するためのアルゴリズムを実装した。
④スプライト観測時の観測機器が向いていた方角や仰角、撮影画像内のスプライトが写っていた位置からスプライトの大まかな発生地点を求めた。スプライトと落雷の水平方向の距離は、両者の発生時刻差に比例するという先行研究の仮説に基づき、画像内のデータ位置関係を推定する近似式を作成した。この式と観測装置の指向角を用いて、スプライト発生位置の推定を試みた(図11)。
⑤④の推定結果よりスプライトの発生地点を概算した。その周辺の大気状況を分析するため、イオノグラムから得られるスプライト周辺の電離層の状態を比較し、両者の関係を検討した(図12)。
[結果と考察]
①確認した8事例の全てで、降水と落雷を伴っていることが分かった。また、6件が日本海側、残りの2件が太平洋側で発生しており、観測されたのはいずれも冬であった。
②冬の日本海側での発生率の高さは先行研究と一致していたが、太平洋側でも観測例があった。冬は日本海側の雷が多く、観測者の多い太平洋側が晴れるために観測しやすいことや、観測者により使用機器や観測する方角が異なることから、データを単純に比較できないという課題が残った。
③開発した観測システムによりスプライトを13件観測できた。検出精度の分析から、見逃し率が高いことが確認された。一方で、静止画データを用いた場合には高い検出精度が得られているため、検出性能の制約はソフトウェアではなく、カメラの感度やフレームレート、装置の耐環境性能といったハードウェアに起因すると考えられる(図13)。
④本校で観測できたスプライト43件のうち11件を分析し、5件について現象発生前に発生した落雷の中で、親雷と推測される落雷を一つに絞り込めた。残りの6件については親雷の候補が複数存在し、それ以上絞り込むことができなかった。本推定に用いた計算式は、先行研究に示された時間差と距離の単純な比例関係を前提としているため、スプライト発生過程の電場構造や大気条件を考慮できていない。また、時間差の算出には時刻精度やカメラの時間分解能が影響し、1/100秒オーダの誤差が避けられない。さらに、専門家から地球の曲率を計算に入れてないことや、観測点からの視線方向のずれについての誤差を指摘され、推定に関する課題が残った。
⑤④で分析を行った11件について、周辺域にある複数の電離層観測地点のデータを参照して、スプライト周辺の電離層の状態を調査した。「Sonota.coネットワーク」にて発生地点が特定されていた3件を加えて、計14件を分析した。そのうち11件において、イオノグラムからスプライト発生時、高度100 km付近で電離層が比較的活発な状態が見られた。観測数が限られているため、統計的な結論を導くには至っていない。
[今後の課題]
結果より、観測機材および解析手法において以下の課題が明らかとなった。
位置推定に関しては、地球の曲率や上空の電場構造を無視しているため、より高精度の推定には近似方法の改良が必要である。これに加え、多地点観測を導入した三角測量により、位置推定精度の向上が期待される。
また、観測機材については、高時間分解能のカメラ導入や耐環境性能の向上させることにより検出率の改善が見込まれる。機械学習による判別では、教師データの拡充およびノイズ耐性を高める前処理の開発が必要である。
さらに、電離層との関係については、観測事例の蓄積とともに先行研究との比較検討や高層大気の様子がわかる情報を調査し、研究を進めたい。
スプライトとは、対流圏の雷放電が上空の大気に影響を与えて中間圏で生じる発光現象である (図1)。2004年に愛知県の高校が捉えて以来、複数の高校が研究を行っているが、発生頻度が低く発光時間が極めて短いため、発生要因については未知の部分が多い。
本校では、2023年に天文気象部の先輩が、5台の安価な防犯カメラを使って全天を撮影する流星観測装置(図2)を開発し、1年間で28件のスプライトが撮影されたことをきっかけとして研究を開始した。
本研究では、まず、アマチュアによるスプライトの発生報告フォーラム「Sonota.Coネットワーク」に蓄積されたスプライトのデータ情報を活用し、発生推定位置などを調査して分析した。
また、流星用のカメラは短時間発光の撮影に不向きであり、モノクロ撮影のため特徴的な赤色発光を捉えられないという課題があったことから、新たにスプライト観測用の機器を作成し、画像を機械学習によって自動判別するプログラムを開発した。より多く観測することで、発生領域と発生条件について分析することを目指した。
海外の先行研究では、スプライトと電離層の関連性が指摘されていたことから、本研究ではスプライトと電離層のスポラディックE層(約100km)に関連があるのではないかという仮説を立て、イオノグラムを用いてスプライト発生時の電離層の状態について解析を行った。
[研究方法]
➀流星用防犯カメラで観測された28件のうち、日時・方角・画像の全てのデータが参照できた8件について、降水・落雷・気圧配置の観点から分析を行った(図3)。
②アマチュアによるスプライトの発生報告フォーラム「Sonota.Coネットワーク」の情報を基に、スプライト発生推定位置を日本地図上にプロットした(図4)。
③新たな観測装置を開発するため、角度を変えられる2軸サーボモーター架台を作成し、超長波観測ネットワークのリアルタイムデータから雷活動域を特定し、その方向へ自動追従するシステムを構築した(図5–9)。スプライトが得られた動画データにフィルタリング処理を施した後、深層学習モデルによる発光領域の抽出とスプライトの自動判別を行った(図10)。このプログラムの誤検出の主要因は画角変化に伴う人工光の見かけの移動であった。そのため、この誤検出を除外するためのアルゴリズムを実装した。
④スプライト観測時の観測機器が向いていた方角や仰角、撮影画像内のスプライトが写っていた位置からスプライトの大まかな発生地点を求めた。スプライトと落雷の水平方向の距離は、両者の発生時刻差に比例するという先行研究の仮説に基づき、画像内のデータ位置関係を推定する近似式を作成した。この式と観測装置の指向角を用いて、スプライト発生位置の推定を試みた(図11)。
⑤④の推定結果よりスプライトの発生地点を概算した。その周辺の大気状況を分析するため、イオノグラムから得られるスプライト周辺の電離層の状態を比較し、両者の関係を検討した(図12)。
[結果と考察]
①確認した8事例の全てで、降水と落雷を伴っていることが分かった。また、6件が日本海側、残りの2件が太平洋側で発生しており、観測されたのはいずれも冬であった。
②冬の日本海側での発生率の高さは先行研究と一致していたが、太平洋側でも観測例があった。冬は日本海側の雷が多く、観測者の多い太平洋側が晴れるために観測しやすいことや、観測者により使用機器や観測する方角が異なることから、データを単純に比較できないという課題が残った。
③開発した観測システムによりスプライトを13件観測できた。検出精度の分析から、見逃し率が高いことが確認された。一方で、静止画データを用いた場合には高い検出精度が得られているため、検出性能の制約はソフトウェアではなく、カメラの感度やフレームレート、装置の耐環境性能といったハードウェアに起因すると考えられる(図13)。
④本校で観測できたスプライト43件のうち11件を分析し、5件について現象発生前に発生した落雷の中で、親雷と推測される落雷を一つに絞り込めた。残りの6件については親雷の候補が複数存在し、それ以上絞り込むことができなかった。本推定に用いた計算式は、先行研究に示された時間差と距離の単純な比例関係を前提としているため、スプライト発生過程の電場構造や大気条件を考慮できていない。また、時間差の算出には時刻精度やカメラの時間分解能が影響し、1/100秒オーダの誤差が避けられない。さらに、専門家から地球の曲率を計算に入れてないことや、観測点からの視線方向のずれについての誤差を指摘され、推定に関する課題が残った。
⑤④で分析を行った11件について、周辺域にある複数の電離層観測地点のデータを参照して、スプライト周辺の電離層の状態を調査した。「Sonota.coネットワーク」にて発生地点が特定されていた3件を加えて、計14件を分析した。そのうち11件において、イオノグラムからスプライト発生時、高度100 km付近で電離層が比較的活発な状態が見られた。観測数が限られているため、統計的な結論を導くには至っていない。
[今後の課題]
結果より、観測機材および解析手法において以下の課題が明らかとなった。
位置推定に関しては、地球の曲率や上空の電場構造を無視しているため、より高精度の推定には近似方法の改良が必要である。これに加え、多地点観測を導入した三角測量により、位置推定精度の向上が期待される。
また、観測機材については、高時間分解能のカメラ導入や耐環境性能の向上させることにより検出率の改善が見込まれる。機械学習による判別では、教師データの拡充およびノイズ耐性を高める前処理の開発が必要である。
さらに、電離層との関係については、観測事例の蓄積とともに先行研究との比較検討や高層大気の様子がわかる情報を調査し、研究を進めたい。
