講演情報

[O12-P87]噴出孔から噴出される粒子の堆積範囲 ~周囲の液体の粘度・密度との関係について~

*千羽 大暉1、伊藤 理壱1、田村 律人1 (1. 兵庫県立長田高等学校)

キーワード:

熱水噴出孔、エンケラドス(エンセラダス)、液体、粘度、堆積

1.研究背景
 地球の海底には熱水噴出孔という構造があり、熱水だけでなく微粒子も噴出している。この熱水噴出孔は地球の生命の起源である可能性が高く、生命の誕生に適した環境であると考えられている。そして、地球の熱水噴出孔と同じ構造が土星の衛星であるエンケラドスの地下海の底にも存在する可能性が指摘されている。この2つの理由から、地球外生命探査の候補地としてエンケラドスの熱水噴出孔が挙げられるのではないかと考え、また、生命にとって周囲の環境、特に地形は大きく影響を受ける要素になると考えたため、この研究を始めた。

2.研究目的・意義
 噴出孔を取り巻く液体の条件(今回は粘度と密度に着目した)を変化させることによって、噴出孔から噴出される粒子の堆積範囲はどう変化するのかを調べる。本研究によって、地球の海底よりも一般的な環境での噴出孔の地形造成作用についての理解が深まることで、地学的な知識を押し広げることに繋がるほか、地球外の熱水噴出孔付近の生命の存在可能性についての議論が前進することも期待できる。

3.研究方法
 噴出孔のモデルとして(図1A,B)のような実験器具を作成し、噴出実験を行った。
【実験手順】
①実験器具の容器、カテーテル、シリンジ内を粘度・密度を調整した液体(液体A)で満たす。(安価かつ大量に入手できることなどの条件から、粘度の調整にはPVA水溶液を、密度の調整には塩化ナトリウム水溶液を用いた。)
②シリンジ内に一定量の着色したガラスビーズを入れる。(ガラスビーズは本来透明であるが、後の解析のために黒く着色する必要があったため、黒色ラッカースプレーを用いて着色した。)
③一定時間内(1秒間)に一定量(10ml)の液体Aとガラスビーズの混合液をシリンジから人力で押し出し、ガラス管から噴出させる。
④ガラスビーズの堆積を確認したのち、容器の真上に設置したCMOSカメラで容器の底を撮影する。
①~④の一連の操作を液体Aの粘度・密度を変化させながら、各粘度・密度ごとに20回ずつ行った。
【解析手順(図2)】
①まず撮影した画像を白黒反転、二値化処理し、ガラスビーズのみが白くなるように処理する。
②自作のプログラムを用いて、中心のガラス管からの距離ごとに円環の面積のうちガラスビーズの占める割合を算出する。
③中心からの距離を(x)、ガラスビーズの占める割合をf(x)とおき、グラフにプロットする。
④すると、f(x)が指数関数Ae^(-Bx)で近似できることが分かったので、この近似式のBの値の逆数を「堆積範囲」と定義する。
①~④の操作をそれぞれの粘度・密度ごとに行い、各粘度・密度ごとの「堆積範囲」の値を算出した。

4.結果・考察
 粘度については、堆積範囲との間に指数関数的な強い相関があることが分かった(図3)。これは1から0の値を示し1に近いほど近似の精度が高いことを示す決定係数(R2)が0.9912を示していることからも見て取れる。これは噴出したガラスビーズが同様に噴出した液体とともに上昇したため、その粘度が上がるにしたがってガラスビーズは上に引き上げられやすくなり、結果として堆積範囲が増加したものと考えられる(図4)。
密度については、堆積範囲は1.1[g/cm3]までは増加し、以降は減少するという結果になった(図5)。これはガラスビーズの着色に使用したラッカースプレーの成分であるニトロセルロースと塩化ナトリウム水溶液が凝析のような反応を起こしたためと考えられる(反応の詳細についてはDLVO理論を参照)。

5.結論・展望
 噴出孔の堆積範囲は、粘度との間に指数関数的な強い相関があることが分かった。今後の展望としては、密度での実験で非電解質を用いた水溶液を使用することで、凝析のような反応を起こさずに密度による堆積範囲への影響を正確に評価することや、粒子サイズを変えて実験することで堆積範囲の粒子サイズ依存性を検証することなどが挙げられる。

謝辞
本研究を行うにあたって、担当としてご指導頂いた兵庫県立長田高等学校の勝野先生、平岡先生、その他教育企画推進部の先生をはじめ多くの先生方にお世話になりました。お礼申し上げます。

参考文献
Zhigou He, Xiqiu Han,(2020)『Transport and deposition patterns of particles laden by rising submarine hydrothermal plumes』「Geophysical Research Letters」, 47, e2020GL089935
クラレ株式会社(2025)「physical Properties of PVOH Resin」技術資料(閲覧日:2025年12月11日)
黒岩章晃(1952)「ポリビニルアルコール稀薄水溶液の粘度」『高分子化学』,9,P.253-260
H.Ozbek, J.A.Fair, S.L.Phillips, (1977) 『Viscosity of Aqueous Sodium Chloride Solutions From 0-150℃』「Lawrence Berkeley National Laboratoty」
AdvancedThermo『Density of sodium chloride, NaCl(aq) 』https://advancedthermo.com/electrolytes/density_NaCl.html (閲覧日:2026年2月4日)