講演情報
[O12-P96]小浜湾海底のマイクロプラスチックの分布調査
*山田 伶奈1、*兼田 紗来1、*木村 優花1、*上窪 友也1、*伊東 新平1、*平田 ゆう1 (1. 福井県立若狭高等学校)
キーワード:
海底堆積物、マイクロプラスチック、ナイルレッド染色、ポリエステル繊維、起源推定
1. 背景と目的
近年、マイクロプラスチック(以下MP)による環境汚染が拡大している。MPは海を漂流し、最終的に海底へ蓄積することが指摘されている(磯辺 2018)。本校の先行研究では、小浜湾において冬季にMP量が増加することや、海底の泥に繊維状のMPが多いことが明らかになったが、実験方法が異なり結果の比較が困難であった。そこで本研究では、統一した手法を用いて小浜湾海底におけるMPの広域分布を定量的に把握し、その由来や環境中での動態を明らかにすることを目的とした。そのために、ナイルレッド染色法を用いてMPの成分同定および定量化を行った。
2. 方法
2024年12月に小浜湾9地点で海底の泥のサンプリングを行った。乾燥させた泥 200 g を粉砕し、炭酸カリウム溶液(密度 1.5 g/cm³)と混合した後、オーバーフロー法により浮上物を回収し、1000 µm メッシュでろ過した。回収した残渣には 10〜30% に調整した過酸化水素を加えて有機物を分解し、60℃で 15 時間加熱処理を行った。洗浄後の残渣に 10 µg/mL のナイルレッド染色液を加えて 15 分以上静置し、蛍光顕微鏡で観察した。励起フィルターは 330–385 nm を用い、400 nm 以上のダイクロイックミラーおよび 420 nm 以上の吸収フィルターにより分離された蛍光を観察した。観察されたMPのうち大部分を占めた繊維状 MP のみを計測対象とし、長い繊維が折れ曲がって画面上に複数見られる場合には、画面を横切った回数を個数としてカウントした。太い繊維と細い繊維はいずれも計測に含めた。MP の成分同定には、予備実験で取得した各種プラスチック(PP、PE、PS、PET、PP–PE、PVC)およびその他素材(木片、コットン、貝殻)の特徴的な蛍光顕微鏡画像を参照し、それらの傾向と照合することで判別を行った(図1)。
3. 結果
多くのサンプルから青紫色の繊維状物質が確認された(図2)。繊維状でない物質も一部含まれていたが、その大半は同様に青紫色を呈し、その他には緑色の物質が数個認められる程度であった。図1との比較から、これら青紫色の物質は PET(ポリエチレンテレフタレート)である可能性が高いことが示唆された。 広域分布をみると、湾口から湾奥を結ぶ直線上の地点で MP が多く検出され、特に湾奥の地点 9 で顕著に多かった(図3)。一方、直線から外れた地点 1、3、5、6 では MP の検出量が少ない傾向が見られた。
4. 考察
観察された青紫色の繊維状物質は、ナイルレッド染色特性から PET である可能性が高い。蛍光顕微鏡像から推定される繊維径は約 20 µm であり、これは主に衣料用繊維の太さに相当することから、衣料由来のポリエステル繊維である可能性が高いと考えられる。
海底に PET 繊維が多く見られた要因として、主に 2 つの可能性が挙げられる。1 つ目は、PET が海水より比重が大きく、沈降しやすい性質を有する点である。2 つ目は、海中を漂う繊維が微細な泥粒子や有機物と絡み合うことで重量が増し、共沈現象によって沈降した可能性である(Edo 2020)。
分布の特徴として、湾口から湾奥へ続く直線上で MP が多かった理由として、北西季節風やストークスドリフトによる輸送の影響が考えられる。湾外から流入したプラスチックが劣化・微細化し、最終的に海底へ沈降した可能性がある(磯辺 2018)。
一方で、河川を介した陸域由来の影響も考えられる。下水処理場は高い除去率を有するものの、洗濯排水に含まれる化学繊維は浮遊性が高く、処理施設のフィルターや沈殿池を通過して放流水中に残存することが報告されている(田中・嶋谷 2023)。さらに、多くの MP は下水処理過程で汚泥に付着して沈降することが知られており、その汚泥が肥料として農地に還元されることで、降雨などを通じて河川から海域へ再流入する可能性も指摘されている(Edo 2020)。これら複数の過程が重なり、特定の直線上に MP が集中したと推察される。今後は発生源の特定に向けて、下水処理場の放流水が MP の供給源となっている可能性や、農地に還元された汚泥を介した再流入過程の有無について、検証を進めていきたい。
5.参考文献
1) 磯辺篤彦(2018)廃棄物資源循環学会誌 29(4):270-277
2) Edo, Carlos, et al.(2020) Environmental Pollution 259: 113837
3) 田中周平, 嶋谷宗太(2023)廃棄物資源循環学会誌 34(3):178-182
近年、マイクロプラスチック(以下MP)による環境汚染が拡大している。MPは海を漂流し、最終的に海底へ蓄積することが指摘されている(磯辺 2018)。本校の先行研究では、小浜湾において冬季にMP量が増加することや、海底の泥に繊維状のMPが多いことが明らかになったが、実験方法が異なり結果の比較が困難であった。そこで本研究では、統一した手法を用いて小浜湾海底におけるMPの広域分布を定量的に把握し、その由来や環境中での動態を明らかにすることを目的とした。そのために、ナイルレッド染色法を用いてMPの成分同定および定量化を行った。
2. 方法
2024年12月に小浜湾9地点で海底の泥のサンプリングを行った。乾燥させた泥 200 g を粉砕し、炭酸カリウム溶液(密度 1.5 g/cm³)と混合した後、オーバーフロー法により浮上物を回収し、1000 µm メッシュでろ過した。回収した残渣には 10〜30% に調整した過酸化水素を加えて有機物を分解し、60℃で 15 時間加熱処理を行った。洗浄後の残渣に 10 µg/mL のナイルレッド染色液を加えて 15 分以上静置し、蛍光顕微鏡で観察した。励起フィルターは 330–385 nm を用い、400 nm 以上のダイクロイックミラーおよび 420 nm 以上の吸収フィルターにより分離された蛍光を観察した。観察されたMPのうち大部分を占めた繊維状 MP のみを計測対象とし、長い繊維が折れ曲がって画面上に複数見られる場合には、画面を横切った回数を個数としてカウントした。太い繊維と細い繊維はいずれも計測に含めた。MP の成分同定には、予備実験で取得した各種プラスチック(PP、PE、PS、PET、PP–PE、PVC)およびその他素材(木片、コットン、貝殻)の特徴的な蛍光顕微鏡画像を参照し、それらの傾向と照合することで判別を行った(図1)。
3. 結果
多くのサンプルから青紫色の繊維状物質が確認された(図2)。繊維状でない物質も一部含まれていたが、その大半は同様に青紫色を呈し、その他には緑色の物質が数個認められる程度であった。図1との比較から、これら青紫色の物質は PET(ポリエチレンテレフタレート)である可能性が高いことが示唆された。 広域分布をみると、湾口から湾奥を結ぶ直線上の地点で MP が多く検出され、特に湾奥の地点 9 で顕著に多かった(図3)。一方、直線から外れた地点 1、3、5、6 では MP の検出量が少ない傾向が見られた。
4. 考察
観察された青紫色の繊維状物質は、ナイルレッド染色特性から PET である可能性が高い。蛍光顕微鏡像から推定される繊維径は約 20 µm であり、これは主に衣料用繊維の太さに相当することから、衣料由来のポリエステル繊維である可能性が高いと考えられる。
海底に PET 繊維が多く見られた要因として、主に 2 つの可能性が挙げられる。1 つ目は、PET が海水より比重が大きく、沈降しやすい性質を有する点である。2 つ目は、海中を漂う繊維が微細な泥粒子や有機物と絡み合うことで重量が増し、共沈現象によって沈降した可能性である(Edo 2020)。
分布の特徴として、湾口から湾奥へ続く直線上で MP が多かった理由として、北西季節風やストークスドリフトによる輸送の影響が考えられる。湾外から流入したプラスチックが劣化・微細化し、最終的に海底へ沈降した可能性がある(磯辺 2018)。
一方で、河川を介した陸域由来の影響も考えられる。下水処理場は高い除去率を有するものの、洗濯排水に含まれる化学繊維は浮遊性が高く、処理施設のフィルターや沈殿池を通過して放流水中に残存することが報告されている(田中・嶋谷 2023)。さらに、多くの MP は下水処理過程で汚泥に付着して沈降することが知られており、その汚泥が肥料として農地に還元されることで、降雨などを通じて河川から海域へ再流入する可能性も指摘されている(Edo 2020)。これら複数の過程が重なり、特定の直線上に MP が集中したと推察される。今後は発生源の特定に向けて、下水処理場の放流水が MP の供給源となっている可能性や、農地に還元された汚泥を介した再流入過程の有無について、検証を進めていきたい。
5.参考文献
1) 磯辺篤彦(2018)廃棄物資源循環学会誌 29(4):270-277
2) Edo, Carlos, et al.(2020) Environmental Pollution 259: 113837
3) 田中周平, 嶋谷宗太(2023)廃棄物資源循環学会誌 34(3):178-182
