講演情報

[PEM20-05]太陽地球結合系科学の理解に向けた次世代太陽風観測装置の開発

*岩井 一正1、藤木 謙一1、竹原 大智1、磯貝 拓史1、佐藤 葉緒1、上田 陽彦1、田中 隼之輔1、三浦 大弥1、松井 賢1、長島 陸冬1、上野 睦1、田中 琉翔1、丹羽 駿介1、丸山 益史1、山崎 高幸1 (1.名古屋大学 宇宙地球環境研究所)

キーワード:

太陽風、コロナ質量放出、惑星間空間シンチレーション

Interplanetary scintillation(IPS)は、太陽風中の密度ゆらぎによって生じる電波散乱現象を利用し、惑星間空間における太陽風速度や密度構造を遠隔的に診断できる強力な観測手法である。名古屋大学宇宙地球環境研究所(ISEE)では、50年以上にわたり国内の専用電波望遠鏡を用いてIPS観測を継続してきた。現在運用している327 MHz帯IPSシステムは、内部太陽圏におけるグローバルな太陽風構造の再構築や、CMEなどの一過性現象の検出に活用されている。太陽風やCMEは太陽から地球へのエネルギー・運動量輸送を担う主要な媒体であり、その伝搬過程の観測的理解は太陽地球結合系科学における基盤的課題である。

この観測基盤をさらに高度化するため、現在、二次元フェーズドアレイ方式による次世代太陽風観測装置の開発を進めている。本計画では、南北方向に展開する円筒パラボラアンテナを東西方向に5台並べたアレイを用い、焦点線上に多数の高感度ダイポールを高密度配置することで、大きな受信面積と広視野観測を両立させる。取得信号はデジタル化され、FPGAを用いたデジタルビームフォーミングにより、多方向同時観測を実現する設計である。現在、富士観測所において全体の約30%規模に相当するプロトタイプアレイの整備を進めており、段階的な観測性能の向上を図っている。また、近年増加する人工電波混信への対策技術の開発も並行して進めており、将来の安定的な観測基盤確立を目指している。これらの改良により、内部太陽圏における空間・時間分解能が大幅に向上し、CMEと背景太陽風の相互作用過程をより定量的に捉えることが可能となる。

IPS観測データは電波強度の時間変動を記録した時系列情報であり、複数観測局間の相関解析やパワースペクトル解析を通じて太陽風速度や擾乱強度を導出する。これらの物理量はトモグラフィー解析により内部太陽圏の三次元構造再構築に利用される。さらに、得られた太陽風情報は飛翔体によるin situ観測との比較検証に用いられ、太陽風構造の物理的理解を深化させている。加えて、グローバル磁気流体力学(MHD)シミュレーションと連携し、シミュレーション空間中のプラズマ分布に基づき合成IPS信号を計算することで、観測と数値モデルの直接比較を可能としている。このIPSとMHDを統合した枠組みは、データ駆動型の太陽風解析および宇宙天気予測に向けた新たな研究基盤を形成しつつある。

今後、太陽地球結合系の理解を深化させるためには、内部太陽圏での太陽風構造の精密把握と、磁気圏・超高層大気モデリングとの連携が不可欠である。本次世代太陽風観測装置は、地球到来前の太陽風構造や圧縮領域の情報を上流境界条件として提供し得るものであり、磁気圏応答や上層大気変動との統合研究を支える観測基盤として機能することが期待される。本発表では、装置開発の進捗と初期的研究成果を報告するとともに、太陽地球結合過程研究における基盤形成の観点から本プロジェクトの意義を議論する。