講演情報

[PPS01-P01]エウロパ表層の帯電環境を再現した荷電粒子照射実験に基づく内部海起源硫酸塩の枯渇時間の推定

*工藤 雅也1、木村 智樹1、盧 清揚1、大澤 甲斐1、丹 秀也2、加藤 正久4、土屋 史紀3 (1.東京理科大学、2.国立研究開発法人海洋研究開発機構、3.東北大学大学院理学研究科惑星プラズマ・大気研究センター、4.京都大学)

キーワード:

エウロパ、惑星科学、放射線科学、表層帯電

木星の衛星であるエウロパは氷の地殻の下に液体の水からなる内部海を持つと考えられており、内部海の化学組成の理解はハビタビリティ解明において最重要の課題である 。エウロパ表層物質の起源については、他の木星衛星イオ由来の物質飛来や微小隕石の衝突を想定する外部起源説(Cooper et al., 2001)と内部海からの物質輸送を想定する内部海起源説(Kargel et al., 2000)の2つの主要な仮説が提唱されている 。表層物質の起源と化学組成を明らかにできれば、内部海化学組成の解明に大きく寄与できる 。しかし、表層物質は木星磁気圏プラズマによる放射線分解により変性しており、起源や変性前の化学組成の特定が困難である 。
大槻(東京理科大学修士論文, 2024)ではエウロパ表層候補物質である硫酸マグネシウム(MgSO4)に電子、水素イオン、酸素イオンを照射することで放射線分解の過程を再現し、その枯渇時間からエウロパ表層年代を6.2E+2年と推定し、リニア地形における硫酸塩関連の物質(Carlson et al., 2009)が内部海起源説であることを示唆した 。しかし、大槻(2024)では、単一種の荷電粒子照射を行っており、試料が強く帯電し試料表面が実際のエウロパ環境よりも大きく、最大で10 kVの表面電位が発生し、後続粒子の入射を遮蔽していた可能性がある 。一方、エウロパの実環境では正負の荷電粒子の同時入射によって帯電が緩和され表面電位は-14から-52 V程度(Reddy et al., 2024)であるため、大槻(2024)で再現された放射線分解や枯渇時間との整合性は未評価のままである 。
そこで本研究では、MgSO4試料に水素イオン、電子を同時に照射することでエウロパの帯電環境を初めて再現しつつ、放射線分解過程を模擬し、枯渇時間を再評価した 。本研究の実験では、電子、水素イオンをそれぞれ6.3E+14(/cm^2/s), 2.4E+14(/cm^2/s)のフラックスで同時に約30分間照射した 。その結果、大槻(2024)で生成が報告されていた二酸化硫黄(SO2)、硫化水素(H2S)、硫酸(H2SO4)、四酸化硫黄(SO4)、硫黄同素体(S8)のうちH2SO4とSO4は検出されず、SO2、H2S、およびS8が主要な生成物として同定された 。質量分析器によるガス生成率の測定及び表層の赤外スペクトルの測定により、それぞれのyieldは7.9E+0, 3.2E-1, 5.9E+1と見積もられた 。これらの生成率は大槻(2024)の水素単体照射、電子単体照射の各yieldを照射した粒子の入射量で重み付けした値の59倍、3.4倍、9.9倍にそれぞれ相当する 。
MgSO4の枯渇時間は8.3E+1年と見積もられ、大槻(2024)の推定よりも約7.5倍速い速度で分解が進行することが判明した 。また、表面電位はMott-Smith and Langmuir (1926)による理論に基づき、1.3V程度と推定された。したがって、正負の荷電粒子の同時入射により試料の帯電が緩和され、単一種の荷電粒子照射に比べて多くの荷電粒子が試料表層に到達し、速い分解に寄与したと考えられる。本研究で見積もった8.3E+1年という枯渇時間は、硫酸塩が表層に残存するにはこれより短いスケールでの供給が必要であることに対応する 。したがって、ガリレオ探査機のNIMSによりリニア地域で観測された (Carlson et al., 2009)硫酸塩と推定される物質は現在から8.3E+1年以内の地質学的更新、すなわち内部海からの物質輸送により供給された可能性が高いことを示唆している 。
今後は、試料の表面電位を測定するプローブを導入して表面電位を直接測定しながら、帯電効果が実効的な試料表面への入射量及び生成率に与える影響を定量化して物理モデルとして定式化する予定である 。このモデルを構築することでエウロパの表層の電磁的・化学的環境をより精密に再現した表層年代の推定基盤の構築が期待される 。本発表では上記の現状を報告する 。