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[PPS01-P03]荷電粒子照射実験と希薄大気観測に基づくエウロパ表層と内部海におけるNa/K 比の制約

*大澤 甲斐1、木村 智樹1、土屋 史紀2、丹 秀也3、吉岡 和哉1、森岡 将生1、盧 清揚1、佐藤 剛1、工藤 雅也1 (1.東京理科大学、2.東北大学大学院 理学研究科惑星プラズマ・大気研究センター、3.国立研究開発法人海洋研究開発機構)
木星の衛星エウロパは、全球を覆う氷殻の下に液体の海を有すると考えられており、太陽系内で生命存在可能性が高い天体の 1 つとみなされている。Hubble Space Telescope (HST) による表層反射率スペクトル観測などから、エウロパ表層には NaCl や KCl などの塩類が存在する可能性が示唆されている [Trumbo et al., 2019; Volwerk et al., 2001]。Kuiper Telescope や Keck Telescope を用いた観測により、希薄大気中では Na および K が検出されている[Brown & Hill, 1996; Brown, 2001]。これらの元素は表層に存在する塩類が、木星磁気圏の荷電粒子に脱離・スパッタリングされて放出していると示唆されている。表層塩類の起源が内部海に由来する内因性物質なのか、あるいはイオや木星磁気圏から供給された外因性物質なのかは未解明である。これらの起源の特定は、エウロパ内部海の化学組成を制約する上で解決すべき重要な課題である。
表層塩類の起源を探るうえで重要なのが、エウロパにおける Na と K の存在比である。この Na/K 比は、表層塩類の起源や、表層から希薄大気への放出過程において変動するため、有効な指標となり得る。エウロパの希薄大気観測では Na/K= 25±3と見積も られている一方、表層の Na/K 比は供給源により異なり、内因性ではNa/K=20、外因性では Na/K=10 と推定されている [Brown, 2001; Zolotov & Shock, 2001]。これまで、これら2つの表層比率のどちらが希薄大気中の Na/K 比を説明し得るのかについて、単一成分塩や氷表面に蒸着した Na/K 原子を対象とした荷電粒子照射実験およびそれに基づく数値シミュレーションによって検証が行われてきた。その結果、表層比率 Na/K=10 では希薄大気における存在比 Na/K=25 を説明することは困難であることが 示唆されている[Brown, 2001; Johnson et al.,2002]。しかし、これらの研究はいずれも 単一成分塩、あるいは蒸着した金属原子を対象としており、エウロパ表層で共存が想定される NaCl–KCl 混合試料を対象とした照射実験は行われていない。そのため、表層における NaCl や KCl といった塩類が、荷電粒子照射下でどのように変化し、希薄大気の組成形成に寄与するのかは明らかになっていない。
そこで本研究では、エウロパ表層を模擬した NaCl–KCl 混合試料に木星磁気圏プラズマを模した電子(10 keV, 7.96E+13-1.99E+14 /cm2/s, 照射時間 90 min)を室温で照射し、Na および K の脱ガス収率を評価した。初期組成として Na/K = 10 および 20 の NaCl–KCl 混合試料を用い、脱ガスした粒子の分圧を質量分析器で測定し、そのNa/K 比を求めた。その結果、定常状態における脱ガス粒子の Na/K 比はいずれの試料においても初期組成に比べて著しく低く、Na/K=10 の試料では 0.10–0.27、Na/K=20 の試料では 0.28-0.46 の範囲を示した。すなわち、いずれの初期組成に対しても K が Na より優先的に脱ガスされ、放出粒子の Na/K は 1 を大きく下回る。
Johnson et al. (2002) により、氷表面に蒸着させた Na および K 原子は電子照射下(200 eV)で、同程度の運動エネルギー分布と脱離効率を示すことが報告されている。これは、脱ガス直後の Na/K 比が表層組成と同程度であることを意味する。しかし、本研究の Na/K 比(0.10–0.27, 0.28-0.46)は、初期の表層組成から有意に乖離していた。この結果は、エウロパの希薄大気における Na/K 比が表層物質の Na/K 比を直接には反映していないことを初めて実験的に示すものである。先行研究と本研究との違いとして、照射電子のエネルギー帯および試料形態の違いがある。この差異が塩化物塩からのNa と K の脱離過程の違いに影響を及ぼしている可能性がある。今後は、エウロパの環境により近い低温環境下(80-100 K)でのイオン照射実験等を行い、脱ガスの温度依存性やイオン照射によるノックオンスパッタリングの影響を評価する予定である。