講演情報
[PPS01-P21]土星衛星エンセラダス噴出氷の広域拡散過程:土星メインリングへの降着量推定
*坂元 貴之1、木村 淳1、松尾 太郎1、佐々木 晶1 (1.大阪大学)
土星衛星エンセラダスは南極域から水を噴出しており、その一部はエンセラダスの軌道周辺に広がって土星Eリングを形成している。長期的には、噴出物はEリング領域に留まるのみならず土星系全体へ広範に拡散し、他衛星や土星メインリングへ降着することが予想されるが、噴出物の長期的かつ広域的な拡散過程については、これまで十分な研究が行われていない。この過程を定量的に調べることは、他衛星表面の組成や地形の外因的変化を理解し、表面年代の推定を見直す意味において重要である。エンセラダス噴出物に関するこれまでの研究の多くは、噴出した水蒸気のダイナミクスに焦点が置かれ、噴出物の約10%を占める固体の氷粒子については、働く力学的作用を重力に限定しているなどその理解は不十分である。噴出した氷粒子は、土星磁気圏内を移動する過程でプラズマ中の電子やイオンを吸着するなどして帯電し、土星磁場との相互作用によって生じるローレンツ力を受ける。これは、ミクロンサイズの微小な氷粒子にとっては無視できない摂動となるため、その軌道進化は水蒸気の拡散とは根本的に異なる挙動を示すと考えられる。同時に、プラズマ環境下では高エネルギー粒子(特に土星磁気圏では高温の電子)が氷粒子表面に衝突することで水分子を放出するスパッタリングが生じ、氷粒子の質量を減少させる。この効果は、氷粒子がメインリングを含む他天体へ到達する前に消滅させるよう働く。したがって、エンセラダス起源の固体氷粒子がどのような軌道進化を経て拡散し、どこまで到達しうるかを正確に把握するためには、重力以外の電磁気的な力学的効果と、粒子の寿命を決める質量損失プロセスの双方を同時に考慮したモデルの構築と数値解析が不可欠となる。
こうして土星系広域に拡散した氷粒子は、メインリングや他衛星へ降着し、組成的・光学的変化をもたらす可能性がある。例えばメインリングは、リング粒子を構成する水氷の不純物度を用いて、リング系全体の年齢を推定している。土星系外からは炭素質やケイ酸塩を含む暗い惑星間ダストが一定の割合で流入することで不純物度が経時的に増加し、光学的に暗くなることから、メインリングは約数億年前に形成されたと推定されている。しかし、もしエンセラダス由来の純粋な水氷がメインリングに降着し、リング粒子表面を常に新しい氷で覆う「浄化作用」を起こしているならば、リングは実際よりも見かけ上若く見えているに過ぎず、その真の年齢は定説よりも遥かに古い可能性がある。さらに近年の研究では、エンセラダスから噴出した水蒸気の分子間衝突や光解離などを考慮した拡散過程を調べ、放出された水蒸気の約4割がメインリングに降着するという推定もある。
本研究では、エンセラダスから噴出したミクロンサイズの氷粒子を対象とし、その3次元的な軌道進化と質量変動を追跡する数値シミュレーションを行った。計算では土星の重力場に加え、粒子の帯電状態に応じたローレンツ力を導入した。粒子の帯電量(平衡電位)は、プラズマのイオン・電子流入電流、太陽光による光電子放出電流、および二次電子放出電流の収支と、それらの空間変化から導出した。また、粒子はイオンと低温電子・高温電子によるスパッタリングから質量損失を受けるとした。計算の結果、粒子の軌道は重力のみを考慮した運動とは大きく異なり、土星の共回転プラズマから受けるローレンツ力によって徐々に土星本体へ落下する。初期半径1 µmの氷粒子は、土星から約240,000 kmのエンセラダス軌道付近から出発し、約100年で距離約172,000 kmまで落下した。この過程では主に低温電子が粒子へ付加することで負に帯電する(粒子表面の平衡電位が約-0.75 V)。同時に、高温電子による氷粒子の侵食によって粒子の質量損失は大きく、噴出後の約100年間で粒子半径は初期半径の約100分の1に減少した。これらの結果は、エンセラダスから噴出したミクロンサイズの氷粒子は、内側のミマス軌道へは到達する一方、土星メインリングへは到達する前に消滅する可能性が高いことを示唆している。しかしながら、プラズマ環境の空間的および時間的変動やスパッタリング率の不確実性、あるいはより大きな初期粒径を想定した場合などには依然として議論の余地があり、条件次第では氷粒子がメインリングへ到達することも十分に考えられる。本発表では、これらの物理プロセスを考慮した噴出氷の広域的な輸送実態について報告する。さらに、その結末としてメインリングへ到達する氷粒子の降着率を提示し、先行研究による水蒸気供給量や惑星間ダストの流入量と比較することで、エンセラダスの活動がリングの年代推定に与える影響について定量的な議論を行う。
こうして土星系広域に拡散した氷粒子は、メインリングや他衛星へ降着し、組成的・光学的変化をもたらす可能性がある。例えばメインリングは、リング粒子を構成する水氷の不純物度を用いて、リング系全体の年齢を推定している。土星系外からは炭素質やケイ酸塩を含む暗い惑星間ダストが一定の割合で流入することで不純物度が経時的に増加し、光学的に暗くなることから、メインリングは約数億年前に形成されたと推定されている。しかし、もしエンセラダス由来の純粋な水氷がメインリングに降着し、リング粒子表面を常に新しい氷で覆う「浄化作用」を起こしているならば、リングは実際よりも見かけ上若く見えているに過ぎず、その真の年齢は定説よりも遥かに古い可能性がある。さらに近年の研究では、エンセラダスから噴出した水蒸気の分子間衝突や光解離などを考慮した拡散過程を調べ、放出された水蒸気の約4割がメインリングに降着するという推定もある。
本研究では、エンセラダスから噴出したミクロンサイズの氷粒子を対象とし、その3次元的な軌道進化と質量変動を追跡する数値シミュレーションを行った。計算では土星の重力場に加え、粒子の帯電状態に応じたローレンツ力を導入した。粒子の帯電量(平衡電位)は、プラズマのイオン・電子流入電流、太陽光による光電子放出電流、および二次電子放出電流の収支と、それらの空間変化から導出した。また、粒子はイオンと低温電子・高温電子によるスパッタリングから質量損失を受けるとした。計算の結果、粒子の軌道は重力のみを考慮した運動とは大きく異なり、土星の共回転プラズマから受けるローレンツ力によって徐々に土星本体へ落下する。初期半径1 µmの氷粒子は、土星から約240,000 kmのエンセラダス軌道付近から出発し、約100年で距離約172,000 kmまで落下した。この過程では主に低温電子が粒子へ付加することで負に帯電する(粒子表面の平衡電位が約-0.75 V)。同時に、高温電子による氷粒子の侵食によって粒子の質量損失は大きく、噴出後の約100年間で粒子半径は初期半径の約100分の1に減少した。これらの結果は、エンセラダスから噴出したミクロンサイズの氷粒子は、内側のミマス軌道へは到達する一方、土星メインリングへは到達する前に消滅する可能性が高いことを示唆している。しかしながら、プラズマ環境の空間的および時間的変動やスパッタリング率の不確実性、あるいはより大きな初期粒径を想定した場合などには依然として議論の余地があり、条件次第では氷粒子がメインリングへ到達することも十分に考えられる。本発表では、これらの物理プロセスを考慮した噴出氷の広域的な輸送実態について報告する。さらに、その結末としてメインリングへ到達する氷粒子の降着率を提示し、先行研究による水蒸気供給量や惑星間ダストの流入量と比較することで、エンセラダスの活動がリングの年代推定に与える影響について定量的な議論を行う。
