講演情報

[PPS03-P03]はやぶさ2複数観測機器データの統合解析による小惑星Ryugu表層ボルダー特性の検討

*石田 世実1、筒井 皓基1、巽 瑛理2、市川 真弓3、湯本 航生3、Wargnier Antonin3、中村 智樹1 (1.東北大学、2.カナリア天体物理学研究所、3.宇宙航空研究開発機構)

キーワード:

小惑星Ryugu、はやぶさ2、リモートセンシング、ボルダー

はやぶさ2は地球近傍小惑星Ryuguに到着後、可視〜近赤外反射スペクトルおよび熱赤外観測を含む包括的なリモートセンシングを実施し、さらに2地点からレゴリスを採取して地球へ持ち帰った[1]。帰還試料は物質科学的分析によって鉱物・化学組成や変質履歴などが詳細に制約され、Ryuguレゴリスの形成過程と進化像は大きく更新されてきた[2][3]。一方、帰還試料は最大でも約10 mmの粒子に限られており[4]、表層の大部分を占めるメートル級の岩塊(ボルダー)[5]は回収できておらず、物質科学的特性の制約が遅れている。さらに、帰還試料で得られる熱慣性は、リモートセンシングから推定されるボルダーの熱慣性よりも高いことが知られており[6][7]、実験室で得られた微小スケールの物性をボルダースケールへ単純に外挿することはできないと予想される[8]。したがって、帰還試料の知見だけではボルダーの実体に迫れず、ボルダーそのものの観測量から物性を直接制約することが重要となる。実際、ボルダーには平均レゴリスよりも反射率が顕著に高いものや、他天体から飛来したと考えられるものなど、いくつかの特異性が報告されており、その特性を詳細に理解することは、Ryuguの形成史を議論する基盤になる[5][9]。
 Ryuguでは、はやぶさ2搭載機器ONC-T、NIRS3、TIRがそれぞれ、可視域の多波長反射率、近赤外スペクトル、熱放射率などの定量データを取得した[5][10][11]。これまで各機器に特化した解析は多数報告されているが、同一の地物集合を対象に複数機器の特徴量を統合し、反射スペクトル特性と熱物性の対応関係まで同時に評価する研究は限られる。特に、ボルダーのように地上分析が不可能な対象では、観測機器を超えた統合的解釈が重要である。
 本研究では、Ryugu表層の6,241個のボルダーを対象に、GISプロダクトを用いて各ボルダーポリゴンとONC-T/NIRS3/TIRの観測フットプリントを統一的に重ね合わせて対応付け、各機器からボルダー物性を反映し得る特徴量を抽出した。なお、NIRS3およびTIRは観測フットプリントが大きいため、解析対象は1,621個のボルダーに限定した。機器ごとに空間分解能や観測条件が異なるため、ボルダーポリゴンと各観測フットプリントの重なりを用いて代表値を推定した。特徴量として、(i) ONC-Tの可視域の反射率やスペクトル傾斜、(ii) NIRS3の近赤外反射スペクトルから得られる吸収帯の深さ・中心波長、(iii) TIRから得られる熱慣性[11]などを同一ボルダーに割り当て、特徴量の分布(緯度・経度依存性)と相関関係を統計的に解析した。それらを全球的な特徴量のトレンドと比較することで、ボルダーの特異性を評価した。本発表では、三機器統合により可能となるボルダー物性の多面的制約を示し、観測量間の対応関係を明らかにする。これにより、帰還試料で明らかになったレゴリスの物質像と整合的に、ボルダーを含むRyugu表層の形成・進化過程を議論するための基盤を提供する。

謝辞
本研究は、はやぶさ2#国際的ビジビリティ増強事業の支援を受けて行いました。平田成上級准教授よりご提供いただいた解析コードを使用いたしました。この場を借りてお礼申し上げます。

引用文献: [1] Tsuda et al. (2020) Acta Astronautica, 171, 42–54. [2] Nakamura et al. (2022) Science, 379, eabn8671. [3] Yokoyama et al. (2023) Science, 379, eabn7850. [4] Yada et al. (2022) Nature Astronomy, 6, 214–220. [5] Sugita et al. (2019) Science, 364, eaaw0422. [6] Ishizaki et al. (2023) International Journal of Thermophysics, 44, 51. [7] Grott et al. (2019) Nature Astronomy, 3, 971–976. [8] Hamm et al. (2023) Geophysical Research Letters, 50, e2023GL104795. [9] Tatsumi et al. (2021) Nature Astronomy, 5, 39–45. [10] Kitazato et al. (2019) Science, 364, 272–275. [11] Shimaki et al. (2020) Icarus, 348, 113835.