講演情報

[PPS04-P06]氷・岩石混合物からなる多孔質天体上のクレーター形成に関する実験的研究

*野口 琴海1、荒川 政彦1、保井 みなみ1、豊嶋 遥名1、菊川 涼介1 (1.神戸大学)

キーワード:

彗星、クレーター、氷岩石混合物、多孔質標的、衝突過程

背景
 本研究では彗星核模擬試料に対する衝突クレーター形成実験を行い,彗星上の衝突過程を再現した.
 彗星は太陽系形成初期に原始惑星系円盤の外縁部で形成された始原的な天体と言われており,多くの探査,そして様々な研究が行われてきた.その結果,彗星の組成,表面の太陽風による影響[1],彗星表面に多数のくぼ地が存在すること[2]などが明らかになった.さらに,今後の探査によって彗星表層に衝突クレーターが確認され,さらにその分布が明らかになる可能性があり,彗星の衝突史や年代に関する制約が得られると期待される.しかし,そのためにはクレーター年代学の応用が必要であり,応用するためには彗星独自の環境条件で形成されるクレーターのサイズスケール則の構築が不可欠である.そのため,本研究では彗星核模擬試料に対するクレーター形成実験を行った.
 彗星核の環境を再現するために,過去の探査・研究で得られた彗星核の性質を模擬した. 彗星核は極めて低い密度を有し[3],揮発性物質を豊富に含む氷を多く含有していることが知られている[4].また,ダストの質量含有率はおよそ33-63wt%と推定されている[5].これらを模擬するために氷粒子と岩石粉末を混合した模擬試料を作成し,彗星表層でのクレーター形成過程を明らかにする.そのため,模擬試料に対して衝突実験を実施し,クレーター形状を観察するとともに,クレーターサイズの衝突速度依存性を調べ,その結果をスケーリング則で整理した.さらに,試料強度は質量岩石含有率に依存すると考えられるため[6], 強度支配域におけるクレーター形状とスケーリング則に対する岩石含有率の影響を調べた.
実験手法
 実験に用いた標的の準備と衝突実験及び実験後の解析は-15℃の低温室内で行った.彗星核模擬試料として氷・岩石混合試料を準備し,その形状は直径100mm,高さ60mmの円柱形である.この標的は,710μm以下の氷粒子とモンモリロナイト粉末を均一に混ぜ,円筒形アクリル容器に詰めて油圧式プレスで圧縮して作成した.なお,試料の空隙率は40%,岩石質量含有率は30wt%と40wt%の二種類の試料を準備した.
 衝突実験は神戸大学の横型二段式軽ガス銃を用いて行った.使用した弾丸は直径2mmのアルミニウム球であり,衝突速度は 1km/sから6km/sまでの範囲で1km/sずつ変化させた.衝突実験の様子は2台の高速カメラでチャンバーの真横と上部から撮影し,さらに斜め前から赤外線高速カメラによりクレーター形成過程を観測した.また,実験後の標的を回収してスポール半径,ピット半径及び深さを測定し,X線CT撮影により内部構造を観察した.
 衝突実験に加えて,試料の圧縮強度を調べるために圧縮試験を行った。空隙率40%,岩石質量含有率30-60wt%の試料を作成し,圧縮強度を調べた.この試料の形状は直径20mm,高さ30mm の円柱形であり,衝突実験に使用した試料と同様の方法で作成した.圧縮試験は一軸圧縮試験機を使用し,7段階の圧縮速度でそれぞれ2回以上計測を行った.
実験結果
 実験の結果,衝突点直下に半球状の穴であるピットが形成され,その周囲に浅く広い円形領域であるスポール領域が形成された.ピット及びスポール領域の半径は弾丸運動エネルギーの増加とともにべき関数的に増大した.ピットの形状は,速度の増加とともに縦長の細長い穴から球状に近い形となった.さらに 4km/s 以上の高速度では,弾丸破片が深い突起型のサブピットをクレーター底部に作っていた.これらの特徴は氷単体の多孔質試料と同様である.スポール領域の形状は氷単体多孔質試料よりも対称性の高い円形であり,その形状は速度や岩石質量含有率に大きく依存しなかった. また,クレーターのピット半径とスポール半径の比は,どの速度でも岩石質量含有率30wt%の方が岩石質量含有率40wt%よりも低くなってる.これは,岩石含有率が小さい30%試料の方が系統的にピット径が小さく,スポール径が大きくなっているからだと考えられる.
 圧縮変形試験から,氷・岩石混合試料の圧縮強度を求めると,圧縮強度は岩石質量含有率(φ)の増加とともに減少することが分かった. それぞれ,0.61MPa(30wt%), 0.41MPa(40wt%), 0.15MPa(50wt%), 0.12MPa(60wt%) である.多孔質氷の圧縮強度の岩石含有率依存性の経験式を求めるとYc=1.7(1-φ)2.8MPaとなった.
 ピットの成長は圧縮強度により律速されると仮定して,求めた圧縮強度を用いてピットに対するクレーターサイズスケール則を次のように導出した.πR4-0.067=10-0.62・πY-0.28.圧縮強度の岩石含有率依存性を考慮することで,岩石質量含有率30wt%と40wt%の2つの試料に形成されたクレーターのサイズはスケーリングできることが分かった.
[1] Keller et al. 2015 [2] El-Maarry et al. 2015 [3] Groussin et al. 2019 [4] Eberhardt et al., 1987; Gasc et al. 2017 [5]Marschall et al. 2025 [6]Arakawa et al. 2004