講演情報

[PPS04-P08]含水微惑星を模擬した濡れた石膏標的への衝突実験と衝突残留温度の計測

*大坪 晴太郎1、保井 みなみ1、荒川 政彦1、大川 初音1、豊嶋 遥名1、柿木 玲亜1、菊川 涼介1、大橋 拓磨1、大西 彩華1 (1.神戸大学)

キーワード:

衝突加熱、含水多孔質物質、水質変成、クレーター形成

背景
C型小惑星や彗星からのサンプルリターンで採取された粒子には、含水鉱物や有機物が含まれていることが報告されている。例えば、彗星81P/Wild 2 の試料からは多様な有機物が確認されている(Sandford et al., 2006)。また、小惑星リュウグウのサンプルでは含水鉱物が主要鉱物として確認され、水質変成が約40°Cで進行したと推定されている(Yokoyama et al., 2022)。この熱源については諸説あり、従来は短寿命放射性核種26Alの崩壊熱が主要な熱源として想定されてきたが、母天体の形成時期やそのサイズによっては、十分な加熱が得られない可能性がある。一方、小天体間の衝突はこれまでの太陽系の歴史のなかで普遍的に起こってきたため、衝突に伴う加熱は局所的な熱源として機能した可能性がある。本研究ではこの衝突に伴う加熱、すなわち衝突残留熱に着目し、衝突残留熱が果たして小天体の水質変成の熱源になり得るか、について実験的に検証することを目的とする。
これまで、多孔質小惑星を模擬した乾燥多孔質石膏標的を用いた実験位より、衝突残留熱による温度分布の特徴は報告されている(Yasui et al.,2021)。しかし、実際の上記の母天体は内部に水が存在することが示唆されており、水を含んだ小天体を模擬した標的を用いて、衝突残留温度の分布や特徴を調べる必要がある。
目的
本研究の目的は、水を含む濡れた多孔質天体において衝突残留熱が水質変成の熱源となり得るか、を明らかにすることである。この目的のため、濡れた石膏標的を用いた衝突実験を行い、衝突に伴うクレーター周囲の温度上昇を実験的に直接測定し、その空間分布及び時間変化を決定する。そして、乾燥石膏標的と比較し、水を含むことによる衝突残留熱への影響を明らかにする。
研究手法
本研究では、濡れた多孔質天体を模擬するため、石膏を用いた多孔質標的を作製した。標的は乾燥状態および濡れた状態の二種類を用意した。標的をオーブンで乾燥後、乾燥標的はそのまま使用し、濡れた状態の標的は標的を水を張った容器に1日以上浸して、石膏粒子間の空隙を水で満たすことで作製した。
標的内部には、K型熱電対を埋設して衝突後の温度履歴を計測した。熱電対は1つの標的に5本設置し、その衝突点からの距離は11mm~33mmである。また、温度履歴はデータロガーで記録した。熱電対の位置はX線CT撮影により、実験前後に確認した。衝突実験には神戸大学の横型二段式軽ガス銃を用い、直径4.7mmのポリカーボネート球弾丸を標的表面に正面衝突させた。衝突速度は2〜3km/sの範囲で設定し、実験は真空チャンバー約0~3000Paの環境下で実施した。衝突の様子は、高速カメラで撮影した。合わせて、標的の斜め前から赤外線カメラを用いて、衝突前後の標的表面温度分布を観測した。実験後は標的を回収し、形成されたクレーターの形状と内部構造を上記と同じくX線CT撮影により確認した。
結果・考察
形成されたクレーターは、中央にボウル状のトランジェントクレーターを有し、その周囲はスポール領域が発達する強度支配型のクレーターであった。濡れた標的ではクレーター底下に剥離層のような構造が確認された。
クレーター直径は、濡れた標的は乾燥標的と比較して、同じ衝突速度でも1.5〜2倍大きくなることがわかった。これは、空隙に満たされている水によって衝撃波の減衰が抑えられ、クレーターが大きくなったと考えられる。
温度計測の結果、濡れた標的では、衝突直後に標的内部の温度が急激に上昇する挙動を示した。そして、上昇後、その高温状態の保持時間は1.3秒と、乾燥標的に比べて短いことがわかった。この結果は、衝突直後に熱伝導により温度が徐々に上昇して最大温度に達し、その後緩やかに低下する乾燥標的の温度分布とは異なる結果となった。濡れた標的での温度上昇は、乾燥標的のようにクレーター内壁の残留熱からの熱伝導ではなく、クレーター成長時の高温物質の移流に伴うものである可能性がある。
赤外線カメラによる標的表面の温度計測では、乾燥標的は衝突直後に標的表面温度が100°Cを超える高温状態が観測されたのに対し、濡れた標的では衝突直後の表面温度が約40°C程度にとどまり、衝突前後の温度上昇は28°Cと乾燥標的より低かった。また、濡れた標的では、衝突後に形成された高温領域が、クレーターの成長とそれに伴う噴出物の放出過程によって、速やかに標的表面から除去される様子が観測され、衝突後の標的表面には高温領域がほとんど残っていなかった。