講演情報

[PPS04-P28]地球大気中での中規模天体衝突時の熱放射エネルギー量

*荒川 眞和1、黒澤 耕介1,2 (1.神戸大学 国際人間科学部 環境共生学科、2.千葉工業大学 惑星探査研究センター)

キーワード:

天体衝突、熱放射、紫外線、流体計算

地球史上で天体衝突は様々な環境擾乱を引き起こしてきた. 本研究では直径数百mから数kmの中規模の天体が引き起こす衝突事件に着目する. 中規模の天体は大気中では燃え尽きずに高速度で地表に衝突する[e.g., 1]. 衝突直下点での発生圧力は>100 GPaに達し, 衝突体と地球の地殻を構成する岩石は一部蒸発し, 急激に膨張する[e.g., 2]. これは「衝突蒸気雲」と呼ばれている. このとき周辺大気は衝撃加熱され一部がプラズマ化し, 複雑な輻射輸送場を構成する. その後, 大気中での衝突蒸気雲の膨張は初期の内部エネルギーと押し除けた周辺大気に対する仕事の釣り合いで決定される特徴的な半径で止まる. 膨張後の温度は周辺大気に対して高く, 周辺環境へ長時間の熱線放射を発する. [3]は初期の膨張中の放射を無視して, 周辺環境への熱線放射量を評価した. その理由は衝突蒸気雲は当初, 高温(>10000 K)なため熱線放射を発するが, プラズマ化した周辺大気は光学的に厚く衝突蒸気雲からの光を通さないからである. 周辺大気の温度が下がると光学的に薄くなり周辺環境へ蒸気雲からの熱線が届くようになる. この時の透明化温度は~3000 K程度である. [3]では膨張後の衝突蒸気雲の温度が一様に3000 Kであると仮定し, その表面からの黒体放射が環境中に照射されるとした. この熱放射は放射冷却で蒸気雲が冷えるまで継続する. 蒸気雲の大きさによるが, 衝突天体の大きさが半径1 km程度だとすれば冷却までに数100秒を要する. この継続時間は初期の断熱膨張過程に比べて1-2桁長い. 上記の議論は熱放射のスペクトル情報を含まない. 高温の大気からは生物にとって有害な紫外線が多く放射されることも予想される.
上記の問題意識から本研究では衝突後数秒間の断熱放射中の熱線放射に注目する. 衝突蒸気雲と大気の相互作用を調べるために, iSALE2D[4-6]を使用して岩石蒸気が乾燥大気中を膨張する数値計算を行った. 直径2 kmの天体が20 km s-1で衝突した際に得られる内部エネルギーと密度を初期条件とした. その結果, 衝撃波背面の大気層の温度は初期では数万Kに達し, 膨張中の衝突蒸気雲の前面には常にそれよりも高温の大気層が形成されることがわかった. 高温大気層が3000 Kに冷却されるまでに~10 sかかり, [3]では~10 s間の放射が無視されていたことになる.
本来は高温大気層内部の輻射輸送の検討が必要であるが, 今回は簡単のため大気層の最高温度の位置からその温度での黒体放射によって環境中に熱線が照射されると仮定した. この場合, 断熱膨張中に放出されたエネルギー量は最大で1018 Jに達する可能性があることがわかった. これは, iSALEで設定した初期内部エネルギーの~0.5%に相当し, [3]で熱線放射として放出されると仮定されるエネルギー量の~50%に相当する. 大気による吸収を受けづらい170-215 , 295-400 nmの波長帯の光は最大で~1017 Jに達する可能性があることがわかった. この波長帯の光はUV-AからUV-Cと呼ばれ, 生物への影響が特に注目されている[7]. このようなことから熱線放射が地球環境へ与える影響について見直しが必要であろう.

謝辞: iSALE の開発者であるGareth Collins, Kai Wunnemann, Boris Ivanov, H. Jay Melosh, Dirk Elbeshausen, Tom Davisonの各氏に感謝致します. 数値計算には国立天文台CfCAの計算・解析サーバを用いました.
参考文献: [1] Melosh, H. J. 1989, Impact cratering: A geologic process, Oxford University Press. [2] Ahrens, T. J. and O'Keefe, J. D. 1972, The Moon, 4, 214. [3] Collins, G. S. et al. 2005, MaPS, 40, 817. [4] Amsden, A. et al. 1980, Los Alamos National Laboratories Report, LA-8095:101p. [5] Ivanov, B. et al. 1997, Int. J. of Impact Eng., 20, 411. [6] Wunnemann, K. et al. 2006, Icarus, 180, 514. [7]佐々木 政子. 2006, 国立環境研究所, M018.