講演情報

[PPS05-P04]クレーター形成時のエジェクタ放出過程における粒径・埋没深さ依存性:不均質標的を用いた実験的研究

*大川 初音1、荒川 政彦1、保井 みなみ1、長谷川 直2、佐古 洸也1、豊嶋 遥名1、柿木 玲亜1、生駒 杏1、大橋 拓磨1 (1.神戸大学大学院理学研究科惑星学専攻、2.宇宙航空研究開発機構)

キーワード:

衝突クレーター、エジェクタ、ラブルパイル天体

衝突クレーター形成時に放出されるエジェクタの挙動は,惑星表層における物質輸送を含む表面進化過程を理解する上で重要な情報を与える.特に小天体では脱出速度が極めて小さいため,放出速度のわずかな違いがエジェクタの脱出と天体表面への再衝突を分ける.重力加速度が小さいことにより弾道飛翔距離は大きくなり,再堆積したエジェクタは広範囲に再分配される可能性がある.これまでのエジェクタ挙動に関する実験的研究では,主として均一な細粒標的を用いて議論されてきた.一方,小惑星 Ryugu や Bennu の探査結果は,これらのラブルパイル天体の表層が,微細粒子のみならず,デシメートルからメートルスケールに及ぶ岩塊を含む,幅広いサイズ分布を持つ粒子・岩塊から構成されていることを示している.このため,エジェクタの放出速度や放出角度を粒径と関連付けて理解することは,小天体の表面進化を議論する上で不可欠である.しかしながら,不均質な内部構造を持つ標的において,表面または内部に存在する比較的大きな粒子の放出条件や,その放出挙動が周囲の細粒成分とどのように異なるのかについては,体系的な実験的研究が十分に行われていない.
本研究では,ラブルパイル天体における構成粒子の粒径不均一に着目し,細粒標的中に大粒径粒子を埋設した複合粒径標的を用いた衝突実験を実施した.細粒標的としては100 µmのガラスビーズで充填した容器を用い,ここに,トレーサービーズとして直径5 mmおよび10 mmの色つきガラスビーズを所定の深さに埋設した.トレーサービーズの埋設深さは複数段階に設定し,初期位置の違いが放出挙動に与える影響を評価できるように実験を設計した.これらの標的に対して,縦型二段式軽ガス銃で4km/sに加速した弾丸を衝突させ,クレーター形成およびエジェクタ放出過程を複数台の高速度ビデオカメラにより撮影した.
撮影した動画を基に,トレーサービーズの放出軌道を三次元的に再構成し,各ビーズについて初期位置,放出位置,放出速度および放出角度を定量的に決定した.得られたデータを用いて,ビーズの粒径および埋設深さと,放出ベクトルの関係を分析した.その結果,埋設深さはエジェクタ放出速度に対して顕著な依存性を示さない一方で,放出角度には明瞭な依存性が見られ,埋設深さが深いほど放出角度が小さくなる傾向が確認された.これは,放出速度が主として衝突初期のエネルギー伝達によって規定される一方で,放出角度は標的内部の応力伝播経路や粒子間相互作用の影響を受ける可能性を示唆する.
以上の結果は,ラブルパイル天体上で形成される衝突クレーターにおいて,細粒粒子とともに比較的大きな岩塊もエジェクタとして放出され得ること,さらにその放出方向や再堆積位置が内部構造に依存して決定される可能性を示している.本研究は,エジェクタの速度分布および角度分布に粒径と埋設深さの効果を組み込むための基礎データを提供し,小天体表層に観測される岩塊分布の形成機構を理解する上で重要な制約を与えるものである.