講演情報

[PPS07-P09]OMEGA/Mars Express観測に基づく火星地表面圧力における全球熱潮汐の検出

風間 暁1、青木 翔平2,1、Spiga Aymeric3、Bertrand Tanguy4,5、Vincendon Mathieu6、Leseigneur Yann7、Gautier Thomas7,4、*笠羽 康正1、中川 広務1、村田 功1、今村 剛2、Montmessin Franck7 (1.東北大、2.東京大、3.LMD/IPSL, Sorbonne Université、4.LIRA, Observatoire de Paris、5.LPN, CNRS、6.Institut d’Astrophysique Spatiale、7.LATMOS/IPSL)

キーワード:

火星、熱潮汐波、表面気圧、OMEGA/Mars Express

火星大気における熱潮汐は、太陽放射による加熱と大気力学を結びつける波動現象であり、全球規模の大気循環やダスト輸送を理解する上で重要な役割を果たしている。特に、熱潮汐は表面圧力に明瞭な日周変動として現れるため、表面圧力の観測は、火星大気の放射・力学結合を理解する最も直接的な手段の一つである。これまでViking、InSight、Perseveranceなどの着陸探査機により熱潮汐の存在は局所的に検出されてきたが(e.g., Sánchez-Lavega et al., 2022; Banfield et al., 2020; Zurek et al., 1992)、観測は特定地点に限られており、全球的な空間構造や季節依存性については主に数値モデル(GCM)による予測に依存してきた。
本研究では、火星周回探査機による面観測データを用いて表面圧力を導出し、熱潮汐の全球的特徴を観測的に明らかにすることを目的とする。Mars Express(MEx)に搭載された近赤外分光撮像装置OMEGAの観測データを用い、MY27–MY29の約3火星年にわたる全球の地表面圧力分布を導出し、その季節変動および日周変動を解析した。
従来研究(Forget et al., 2007; Spiga et al., 2007)が限られた期間を対象とし、外部モデルに基づくダスト条件に依存していたのに対し、本研究では解析期間に拡張するとともに、OMEGA観測から同時に推定したダスト光学的厚さ(Kazama et al., 2025)を表面圧力導出に組み込む手法を採用した。本手法の相対誤差は±2.5%と見積もられ、この精度は、熱潮汐に伴う表面圧力変動(振幅約5%)を解析する上で十分である(e.g., Banfield et al., 2020)。
本手法を、スペクトル品質の良好なOMEGA観測期間(ORB0006–5320;MY26後半~MY29中期)に適用し、表面圧力の全球分布および季節変動を導出した。その結果、各火星年において北半球の春・秋に表面圧力が増加し、夏・冬に減少し、約25%振幅するという全球的傾向が確認された。これは、季節に伴うCO2大気の極冠への凝結・昇華過程を反映したものであり、複数の着陸機観測とも整合的である(Tillman et al., 1993)。
さらに、季節変動成分を除去して日周変動を抽出することで、周回機観測に基づく広域データから初めて、熱潮汐の緯度および季節依存性を定量的に検出することに成功した。北半球の春・夏(比較的ダスト活動が弱い時期)には、観測された熱潮汐振幅はMars Climate Database version 6.1 (MCD v6.1, Forget et al., 1999; Millour et al., 2022)の予測と概ね整合的であった。一方、北半球の秋・冬(ダスト活動が活発な時期)には、特に南半球低〜中緯度において、GCMの予測を最大で約10%上回る顕著な振幅増大が検出された。この結果は、ダスト増加に伴う大気加熱の強化が、熱潮汐の励起をモデルで想定されている以上に増幅している可能性を示唆する。また、検出された熱潮汐の振幅は、InSight着陸機によるその場観測(約4%)と同程度もしくはそれ以上であり、本研究の手法が火星大気中の熱潮汐の実態を現実的に捉えていることを裏付けている。
本講演では、OMEGAデータに基づく地表面圧力の全球季節変動、および本研究で初めて観測的に明らかとなった熱潮汐の構造について報告する。