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[PPS12-15]Mg, Si含有ガス中でのタイプB CAIメルトの蒸発−結晶化実験

*鶴岡 靖朗1、橘 省吾1 (1.東京大学)

キーワード:

難揮発性包有物、溶融、蒸発、酸素フガシティ、原始太陽系円盤

隕石中の難揮発性包有物 (CAI) は,太陽系で形成された最古の物質であり,原始太陽系円盤の初期進化の過程を記録している.タイプB CAIは円盤ガス中での溶融を経験し,その際にMgとSiの蒸発が起こったと考えられている (e.g., Grossman et al., 2000; Richter et al., 2002; Mendybaev et al., 2021).タイプB CAIは,その組織から,メリライト (ゲーレナイト(Ca2Al2SiO7)–オケルマナイト(Ca2MgSi2O7)) のマントル構造を持つタイプB1とそれを持たないタイプB2の2つに分類される (e.g., Wark & Lovering, 1982).低圧の水素ガス中でのCAIメルトの溶融–蒸発–結晶化実験 (Kamibayashi et al., 2021) により,水素ガス圧が1 Pa以上の場合,蒸発が促進され,メルトの表面付近がMgとSiに枯渇することで,タイプB1 CAIに類似したメリライトマントルが形成されることが示された.しかし,1 Pa程度以上の水素ガス中で,酸素同位体交換に必要な期間 (数日),蒸発が継続すると (Yamamoto et al., 2021),メルトから過度にMgとSiが枯渇する.また,水素ガス中での実験では,メリライトマントルの最外縁部にメリライトの蒸発によるグロッサイト (CaAl4O7) の形成が確認されるが (Mendybaev et al., 2006; Kamibayashi, Ph.D thesis; 本研究),天然のタイプB CAIでは,一部を除き (e.g., Han et al., 2020),グロッサイトは見られない.CAI形成環境では,Mg, Siの大規模な凝縮が起きておらず,気相中にMg, Si含有ガス(Mg, SiOなど) が存在したと考えられる.このような場では,気相中のMg, Si含有ガスによる蒸発の抑制が期待される (e.g., Richter et al., 2002).本研究では,Mg, Si含有ガスが存在する環境を模した条件でCAIメルトの蒸発–結晶化実験を行い,CAI形成に対する影響を議論した.
CAIχ組成 (Grossman et al., 2002) のメルトの蒸発−結晶化実験を,真空炉 (Takigawa et al., 2009; Mendybaev et al., 2021; Kamibayashi et al., 2021) を用いて行った.Mg, Si含有ガス雰囲気をつくるため,合成オルソエンスタタイト (MgSiO3) (Tachibana et al., 2002) を試料の5 mm下に配置して実験を行った.試料を水素ガス圧1 Pa下で,最高温度1420 °Cで1時間加熱したのち,5 °C hr–1で冷却した.また,1420°Cでの等温実験も行った.比較のため,エンスタタイトなしでの実験 (開放系) も行った.実験前後に試料の重量を測定し,蒸発量を決定した.走査電子顕微鏡 (SEM) と付属のエネルギー分散型X線分光(EDS) 装置,電子線マイクロアナライザー (EPMA) を用いて,試料断面の組織観察と元素分析を行った.
エンスタタイトの有無に関わらず,試料にはメリライトマントルが形成された.しかし,開放系の試料のマントルの最外縁部のほとんどは厚さ数µmのグロッサイトが覆う一方,エンスタタイト存在下で作成した試料のマントルの最外縁部にはグロッサイトがほとんど見られず,天然CAIの観察事実とより合う結果を得た.また,エンスタタイト存在下の試料は,開放系の試料に対し,実験前後の質量減少が小さかった.エンスタタイトからの蒸発ガスによりメルトやメリライトマントルからの蒸発が抑えられたと考えられる.蒸発量から1420 °CにおけるMg, Si含有ガス分圧は,メルトから蒸発するMg, SiO, H2Oガスの平衡蒸気圧の4割程度と推定され,本実験条件は,太陽系元素存在度に対して,数十から百倍程度Mg, Si含有ガスに濃集した条件であったと見積もられた.一方,試料中の輝石のTiの価数が記録する約1200 °C (Stolper & Paque, 1986) における酸素フガシティは,天然のCAIと同程度であり (Grossman et al., 2008),1420 °Cにおける酸素フガシティより低かった.これは,冷却に伴って,エンスタタイトからのMg, Si含有ガスの供給が減少したためであると考えられる.
本実験条件では,冷却に伴う酸素フガシティの低下が天然のタイプB CAIの化学組成・鉱物学的特徴を説明する可能性が示唆された.今後,本実験システムを用いて,CAI形成領域のMg, Si含有ガス分圧の定量的な制約を目指す.