講演情報

[PPS12-17]結晶成長駆動力に依存した成長速度論に基づく棒状カンラン石コンドリュール組織の形成モデル

*三浦 均1 (1.名古屋市立大学大学院理学研究科)

キーワード:

コンドリュール、凝固過程、数値計算

コンドリュールに見られる多様な凝固組織は、その形成時の温度履歴や周囲環境を反映していると考えられており、太陽系初期における固体物質進化を理解する上で重要な情報源である。これまでの観測研究や動的結晶化実験により、どのような条件下で特定の組織が形成されるかについては一定の共通理解が得られてきた。一方で、個々の組織がどのような物理過程によって形成されるのかについては、依然として不明な点が多い。その代表例が、特異な形態を示すカンラン石単結晶の存在によって定義されるbarred olivine (BO)コンドリュールである。このカンラン石結晶の形態は、コンドリュール周縁を連続的に取り囲むリム構造と、内部に並行に配列した多数のバー状構造によって特徴づけられる。リムとバーは同一の結晶方位を持つことから、これらは単一の結晶成長過程によって同時に形成されたと考えられる。近年、我々は多成分コンドリュール融液中におけるカンラン石単結晶の成長過程を対象とした数値シミュレーションを行い、リム―バー二重構造に似た結晶成長パターンを再現することに初めて成功した[1]。しかし、その先行モデルでは、リム構造の形成を再現するために,融液表面に沿った結晶成長が促進されるという仮定を現象論的に導入する必要があった。

本研究の目的は、こうした現象論的仮定に頼ることなく、結晶成長の物理に基づいてリム形成を説明できる新しいモデルを構築することである。その鍵となるのが、結晶成長の「駆動力」に応じて結晶面の成長効率が変化するという性質である。カンラン石の結晶成長では、特定の結晶面が選択的に成長しやすいという強い異方性があることが知られている。従来のモデルでは、この成長異方性の強さを一定と仮定していた。しかし実際には、結晶化の駆動力が小さい場合には原子が結晶面に取り込まれにくく、成長は界面反応によって律速される。一方、駆動力が大きくなると結晶面は原子レベルで粗くなり、成長単位が容易に取り込まれることで、拡散律速的な高速成長へと移行する。本研究では、このような結晶成長効率の駆動力依存性を、二次元核形成理論に基づいて数値モデルに組み込んだ。具体的には、駆動力が小さい場合には特定の結晶面の成長が抑制され、駆動力が大きくなるにつれて急激に成長が促進されるような成長則を導入した。駆動力の閾値の大きさや、成長効率の変化の鋭さを表すパラメータについては、実験的制約が十分でないため、幅広い値を仮定して数値実験を行った。

数値シミュレーションの結果、成長駆動力に対する結晶成長効率の依存性を適切に設定した場合に限り、リム―バー二重構造に似た結晶成長パターンが再現されることが分かった。駆動力の閾値が大きすぎる場合には、特定の結晶面の成長が常に抑制され、バーに直交する方向への成長が起こらないため、リム構造は形成されなかった。逆に、閾値や成長効率の変化が小さすぎる場合には、弱い駆動力の下でも結晶面の成長が過剰に促進され、天然のBOコンドリュールとは異なる成長パターンが生じた。一方、これらのパラメータが適切な範囲にある場合には、計算開始直後に融液表面に沿ってリムが成長し、その内部では多数のバー状結晶がほぼ平行に形成されるという、天然試料とよく対応する成長パターンが得られた。

本モデルにおけるリム形成は、融液表面からの選択的蒸発によって自然に説明される。高温条件下では、融液中の特定の成分が表面から優先的に蒸発し、拡散による補給が追いつかない場合、表面近傍では組成が変化する。その結果、融液表面では結晶化しやすい状態、すなわち組成的過冷却が生じる。本研究では、このようにして生じた高い結晶化駆動力の領域において、結晶面の成長効率が自発的に増大し、融液表面に沿ったリム成長が起こりえることを実証した。これは、従来モデルで必要とされた「融液表面での成長促進」という現象論的仮定を、結晶成長の物理に基づいて置き換えたものである。現象論的仮定に依らず、結晶成長の基礎物理に基づいて組織形成を説明できた点は、コンドリュール形成過程の理解に新しい視点を与えるものである。

参考文献:[1] H. Miura et al., Sci. Adv. 11 (2025) eadw1187