講演情報
[PPS12-24]表面電離型質量分析計を用いた微量タングステン同位体分析法の開発
*藤田 愛美1、中西 奈央1、横山 哲也1、羽場 麻希子1 (1.東京科学大学理学院地球惑星科学系)
キーワード:
タングステン、TIMS
天体の熱過程をたどる事は、太陽系の進化過程の理解において極めて重要である。特に、ケイ酸塩からの金属相分離が、どの太陽系天体でいつ・どのように起きたかを制約することは、天体の熱進化モデルの構築および検証に不可欠である。短寿命核種182Hf(半減期900万年)の放射壊変を利用した182Hf-182W系は、天体の分化年代を知るためのツールとして有用である。ケイ酸塩相―金属相分離の際、Hfはケイ酸塩相に、Wは金属相に主に分配される。そのため、金属相の182W/184W比は、母天体のケイ酸塩―金属相分離時の値を保持し、182W/184W比の分析精度は、求める金属相分離年代の精度に直接影響する。
従来の負イオンTIMS法(N-TIMS)によるW同位体測定では、300–1250 ngのWを用いて約 ± 2 ppm(2 SD)の精度で182W/184W比の分析を実現している[1]。より少量のWを使用した場合は、WO3―のビーム強度の低下により、測定の繰り返し再現性が悪化すると考えられるが[2]、実際にWの使用量と同位体比の分析精度を定量的に評価した研究は少ない。将来的により少量でのW高精度同位体測定を実現させることを見据え、本研究では150 ngから1000 ngのW標準試料を用い、同位体分析条件の最適化を試みた。また、最適化を進めている条件を天然試料に適用し、W同位体組成を測定した。
N-TIMS測定において、フィラメントに塗布するW量を150 ngから300 ng, 500 ngへと増加させたとき、WO3―ビーム強度は変化しなかった。塗布量を1000 ngまで増加させるとWO3―ビーム強度は増加したが、得られたビーム強度は150 ngの場合の1.5倍であった。これは、W塗布量が過剰であると、アクチベーターからの電子供与が飽和し、負イオンの形成効率が阻害されたためと考えられる。次に、150 ngを用いてW同位体比を測定すると、ReO3―/WO3―ビーム強度比の増加に伴って182W/184W比の再現性が悪化した。これはフィラメントに塗布したW標準試料溶液(HClとHFの混酸)の酸濃度の違いに起因している。酸濃度を調整し、ReO3―の発生を抑制した場合の182W/184W比の繰り返し再現性は± 8.2 ppm(2SD, n = 4)であった。
本測定法の応用として、鉄隕石Chinga(CC group)とメソシデライト隕石NWA 8741(NC group)からWを化学分離し、同位体測定を行った。ChingaおよびNWA 8741のµ183W値(13.8 ± 2.7 ppmおよび−12.7± 1.6 ppm)はそれぞれ典型的なCC鉄隕石およびNC鉄隕石の範囲にあり、Mo同位体などの結果と整合的である。また、Chingaのµ182W値(−307 ± 2.6 ppm)を年代に換算すると3.9 ± 0.3 Ma after CAIとなり、これはChinga母天体におけるコア分離後、天体衝突により再溶融が生じたというモデル[3]を支持する値である。一方、NWA 8741のµ182W値(−262.4 ± 3.6 ppm)は、一般的なNC鉄隕石(−340±10 ppm)よりも有意に高い値となった。メソシデライト隕石の成因の一つとして、小惑星ベスタに別の天体が衝突し、その際に放出されたベスタのコア物質と地殻物質が混合した可能性が指摘されている[4]。このモデルに基づくと、NWA 8741の高いµ182W値は、メタルとシリケイトの混合時の部分溶融によってベスタのコア物質と地殻物質間で同位体交換が起き、ケイ酸塩相の持つ高いµ182W値が反映された結果であると考えられる。
参考文献: [1] Mundl-Petermeier et al. (2022), Thermo Fisher Application Note, 000969, 1-3. [2] Trinquier et al. (2016), Analytical chemistry, 88(3), 1542-1546. [3] Worsham et al. (2017), Earth and Planetary Science Letters, 467, 157-166. [4] Haba et al. (2019), Nature Geoscience, 12(7), 510-515.
従来の負イオンTIMS法(N-TIMS)によるW同位体測定では、300–1250 ngのWを用いて約 ± 2 ppm(2 SD)の精度で182W/184W比の分析を実現している[1]。より少量のWを使用した場合は、WO3―のビーム強度の低下により、測定の繰り返し再現性が悪化すると考えられるが[2]、実際にWの使用量と同位体比の分析精度を定量的に評価した研究は少ない。将来的により少量でのW高精度同位体測定を実現させることを見据え、本研究では150 ngから1000 ngのW標準試料を用い、同位体分析条件の最適化を試みた。また、最適化を進めている条件を天然試料に適用し、W同位体組成を測定した。
N-TIMS測定において、フィラメントに塗布するW量を150 ngから300 ng, 500 ngへと増加させたとき、WO3―ビーム強度は変化しなかった。塗布量を1000 ngまで増加させるとWO3―ビーム強度は増加したが、得られたビーム強度は150 ngの場合の1.5倍であった。これは、W塗布量が過剰であると、アクチベーターからの電子供与が飽和し、負イオンの形成効率が阻害されたためと考えられる。次に、150 ngを用いてW同位体比を測定すると、ReO3―/WO3―ビーム強度比の増加に伴って182W/184W比の再現性が悪化した。これはフィラメントに塗布したW標準試料溶液(HClとHFの混酸)の酸濃度の違いに起因している。酸濃度を調整し、ReO3―の発生を抑制した場合の182W/184W比の繰り返し再現性は± 8.2 ppm(2SD, n = 4)であった。
本測定法の応用として、鉄隕石Chinga(CC group)とメソシデライト隕石NWA 8741(NC group)からWを化学分離し、同位体測定を行った。ChingaおよびNWA 8741のµ183W値(13.8 ± 2.7 ppmおよび−12.7± 1.6 ppm)はそれぞれ典型的なCC鉄隕石およびNC鉄隕石の範囲にあり、Mo同位体などの結果と整合的である。また、Chingaのµ182W値(−307 ± 2.6 ppm)を年代に換算すると3.9 ± 0.3 Ma after CAIとなり、これはChinga母天体におけるコア分離後、天体衝突により再溶融が生じたというモデル[3]を支持する値である。一方、NWA 8741のµ182W値(−262.4 ± 3.6 ppm)は、一般的なNC鉄隕石(−340±10 ppm)よりも有意に高い値となった。メソシデライト隕石の成因の一つとして、小惑星ベスタに別の天体が衝突し、その際に放出されたベスタのコア物質と地殻物質が混合した可能性が指摘されている[4]。このモデルに基づくと、NWA 8741の高いµ182W値は、メタルとシリケイトの混合時の部分溶融によってベスタのコア物質と地殻物質間で同位体交換が起き、ケイ酸塩相の持つ高いµ182W値が反映された結果であると考えられる。
参考文献: [1] Mundl-Petermeier et al. (2022), Thermo Fisher Application Note, 000969, 1-3. [2] Trinquier et al. (2016), Analytical chemistry, 88(3), 1542-1546. [3] Worsham et al. (2017), Earth and Planetary Science Letters, 467, 157-166. [4] Haba et al. (2019), Nature Geoscience, 12(7), 510-515.
