講演情報
[PPS12-P06]C型小惑星リュウグウ中の遷移金属スペシエーションとprebiotic chemistryへの示唆
*竹本 亜優1、大野 智洋1、河合 敬宏1、山口 瑛子1、吉岡 美香1、安部 隼平2、癸生川 陽子2、鍵 裕之1、高橋 嘉夫1 (1.東京大学、2.東京科学大学)
キーワード:
リュウグウ、遷移金属、XAFS、水質変成
炭素質コンドライトなどの水質変成を経験した天体は、アミノ酸などの有機物がT豊富に含まれていることが知られている(Burton et al., 2012)。実際に、Orgueil隕石やリュウグウ試料についても上記を含む多様な有機物が発見されている。このような、地球外物質が保持するprebiotic chemistry(前生物的化学)環境における水質変成では、金属イオンが有機化学反応の触媒として機能した可能性がある(Aithal et al., 2023)。特に3d遷移金属は多様な配位化学を持つうえに、d電子を持つ他の元素よりも相対的に元素存在度が高いことから、触媒としての機能が注目される元素群である。しかし、リュウグウ母天体水質変成時における3d遷移金属の水中化学種や溶存濃度について系統的な研究は殆どされていない。よって本研究においてC型小惑星リュウグウ母天体水質変成時における二価遷移金属(TM :Mn, Ni, Cu, Zn)スペシエーションと、prebiotic chemistryへの示唆について研究を進めた。本研究では、JAXAはやぶさ2ミッションにより回収されたリュウグウ試料(A0477)を用いて、以下の研究を行った。1. 水質変成時における溶存遷移金属の硫化鉄鉱物(pyrrhotite)に対する分配挙動・溶存濃度(水溶解性)の推定、2. リュウグウ水環境で起こりえたと考えられる有機化学反応「糖生成反応(ホルモース反応)」・「アミノ酸重合反応」への遷移金属の触媒効果の検討を行った。遷移金属は、水質変成時に平衡状態を保ちながら固相へ分配されたと考えられる。溶存濃度推定は、(1)リュウグウ試料のバルクXAFS分析による各遷移金属の平均化学種組成・金属ホスト相への分配比推定、(2)室内吸着実験で各遷移金属のホスト相に対する分配係数(Kd)決定、(3)μ-XRF分析によるホスト相中元素濃度の定量 により行った。バルクXAFS分析の結果から、これら元素のホスト相としてはpyrrhotite(Fe(1-x)S)とsaponiteを含む層状珪酸塩が推定された。このうちpyrrhotiteは、リュウグウの水質変成初期に再沈殿・結晶成長し(Tsuchiyama et al., 2024)、その環境でのpHは中性であったと考えられる(Bouquet et al., 2021)。一方saponiteは、pHが上昇し炭酸塩が生成された後に二次鉱物として生成した可能性が高い。層状物質であるSaponiteは層間にも金属イオンの吸着が可能である。よってsaponiteによる元素の吸着反応は常に最新の水環境を記録することができ、saponite中の微量元素濃度は水が氷結する直前(水質変成後期)の情報を記録していると考えられる。本研究では、水質変成を初期(中性)と後期(アルカリ性)に区分し、両pH領域における濃度推定を行った。また、リュウグウ試料中pyrrhotiteにおけるZn-K吸収端EXAFSは、ZnS沈殿ではなく硫化鉄鉱物への吸着態を端成分とするスペクトルで説明できたため、遷移金属はホスト相(硫化鉄鉱物)に対する吸着反応により溶存濃度が規定されると推定した。以上より、リュウグウ固相中濃度と分配係数Kdから推定された溶存遷移金属濃度は、Ni>Mn>Zn>Cuの順に濃度が高いことが分かり、このことからNiが有機化学反応において利用し易い元素である可能性が示唆された。次にPrebiotic chemistryへの影響評価として、ホルモース反応とアミノ酸重合反応に遷移金属を添加し、実験を行った。まずホルモース反応では、CaおよびNi添加系が四炭糖において高い生成量を示した。中性条件でも金属添加による糖生成促進効果が見られたことから、水質変成初期においても糖生成が進行し得たことが考えられる。また、触媒寄与(触媒能×濃度)を元素間で比較すると、Caの触媒寄与はNiの約8倍と見積もられた。水質変成初期にホルモース反応が起きた場合、触媒としてはCaが効果的であったものの、遷移金属ではNiが触媒することができた可能性が高いと考えられる。次にアミノ酸重合反応では、アミノ酸(L-アラニン単量体)に遷移金属を添加した系に加え、さらに粘土鉱物saponiteを添加した系との比較も行い、アミノ酸二量体の生成量を評価した。結果、Zn添加系(溶存Zn2+と粘土鉱物吸着態のいずれでも)において二量体の生成量が有意に増加した。一方Ni添加系では、いずれの場合も二量体生成量はブランクとの差が誤差範囲内であった。以上の結果から、リュウグウ水中ではZnの溶存濃度はNiに比べて低いがその触媒効果が期待され、特にリュウグウ中の全Zn化学種の全体に占める割合としては圧倒的に粘土鉱物への吸着態が多いため、そのZn化学種による触媒効果が最も高いことが予想される。
