講演情報
[PPS12-P12]軟X線分光分析による層状ケイ酸塩鉱物中の鉄価数比の定量的評価
甲斐 駿基1、*藤谷 渉1、金丸 礼2、野口 高明3、今栄 直也4 (1.茨城大学大学院 理工学研究科、2.宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所、3.京都大学理学研究科 地球惑星科学専攻 、4.国立極地研究所)
キーワード:
軟X線分光分析、鉄価数状態、層状ケイ酸塩鉱物、水質変成作用、炭素質コンドライト
炭素質コンドライト隕石中の層状ケイ酸塩鉱物は, 初期太陽系における水質変成過程および酸化還元環境を記録する最も重要な鉱物相の一つである. 特に, 鉄の価数状態(Fe2+/ΣFe)は, 形成時の酸素分圧(fO2)や流体のpH, さらには母天体内部における水の移動様式を制約する指標である. しかし, XANESやMössbauer分光を用いた既存の鉄価数比定量には試料作製および測定施設の依存性などの制約があり, 微小領域に適用可能な簡便な分析手法の確立が求められている.
本研究では, 試料前処理が比較的簡便でその場分析が可能な軟X線分光分析(SXES)を用いた. SXESは電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)に装着可能であり, 鉄価数状態に敏感なFe-Lスペクトルを高エネルギー分解能で取得できる. 本研究では, EPMAおよびSXESによるFe-Lスペクトル測定に基づく二つの定量手法として(1)自己吸収スペクトルのピーク位置による鉄価数比推定(SAS法), および(2)Fe-Lβ/Fe-Lα積分強度比による鉄価数比推定(Lβ/Lα強度比法)の有効性と限界を検証した. まず, 鉄価数比が既知の標準試料6種(forsterite, fayalite, babingtonite, 二種類のcronstedtite, laihunite)を用いて両手法の検量線を作成し, 測定条件(加速電圧, 電流値, 照射時間)および鉱物種の結晶構造が検量線の再現性および精度に及ぼす影響を評価した.
その結果, SAS法は理論的には鉄価数に感度を有するものの, エネルギー較正に用いるFe-Llスペクトルの不確定性により, 特にFe濃度が10 wt%未満の試料ではSASのピーク位置の不確かさが増大することが確認された. 一方, Lβ/Lα強度比法は鉱物種に依存しない高い再現性を示し, 複数の測定日においてもLβ/Lα強度比と鉄価数比の間に相関係数R2≧0.95の安定した単一の線形関係が得られた.
次に, CI, CMコンドライトおよび既存の隕石グループに属さない炭素質コンドライト(Ivuna, Aguas Zarcas, Tarda)中のマトリクスに本手法を適用した. その結果, Lβ/Lα強度比法から推定される鉄価数比はいずれも0.4未満であり, マトリクスが比較的Fe3+に富む組成を有することが示された. Tardaでは測定位置による変動が認められ, 水質変成の空間的な不均質性を反映している可能性がある. SAS法は全体的な傾向については整合的であったが, 誤差が大きく隕石間の差異を識別するには限界があった.
以上より, EPMAおよびSXESによるFe-Lスペクトルを用いた鉄価数比推定は, 炭素質コンドライト中の層状ケイ酸塩鉱物の酸化還元状態を評価する手法として有効であると結論づけられる. 実用的にはLβ/Lα強度比法を主指標とし, SAS法を補助的指標として併用することが信頼性の高い評価手法であると考えられる.
今後は, 検量線の精度向上を目的とした幅広い鉄価数比を有する標準試料の拡充およびより多様な変成度の隕石試料の分析により, 鉄の価数状態と水質変成度との関係についての知見が得られると期待される.
本研究では, 試料前処理が比較的簡便でその場分析が可能な軟X線分光分析(SXES)を用いた. SXESは電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)に装着可能であり, 鉄価数状態に敏感なFe-Lスペクトルを高エネルギー分解能で取得できる. 本研究では, EPMAおよびSXESによるFe-Lスペクトル測定に基づく二つの定量手法として(1)自己吸収スペクトルのピーク位置による鉄価数比推定(SAS法), および(2)Fe-Lβ/Fe-Lα積分強度比による鉄価数比推定(Lβ/Lα強度比法)の有効性と限界を検証した. まず, 鉄価数比が既知の標準試料6種(forsterite, fayalite, babingtonite, 二種類のcronstedtite, laihunite)を用いて両手法の検量線を作成し, 測定条件(加速電圧, 電流値, 照射時間)および鉱物種の結晶構造が検量線の再現性および精度に及ぼす影響を評価した.
その結果, SAS法は理論的には鉄価数に感度を有するものの, エネルギー較正に用いるFe-Llスペクトルの不確定性により, 特にFe濃度が10 wt%未満の試料ではSASのピーク位置の不確かさが増大することが確認された. 一方, Lβ/Lα強度比法は鉱物種に依存しない高い再現性を示し, 複数の測定日においてもLβ/Lα強度比と鉄価数比の間に相関係数R2≧0.95の安定した単一の線形関係が得られた.
次に, CI, CMコンドライトおよび既存の隕石グループに属さない炭素質コンドライト(Ivuna, Aguas Zarcas, Tarda)中のマトリクスに本手法を適用した. その結果, Lβ/Lα強度比法から推定される鉄価数比はいずれも0.4未満であり, マトリクスが比較的Fe3+に富む組成を有することが示された. Tardaでは測定位置による変動が認められ, 水質変成の空間的な不均質性を反映している可能性がある. SAS法は全体的な傾向については整合的であったが, 誤差が大きく隕石間の差異を識別するには限界があった.
以上より, EPMAおよびSXESによるFe-Lスペクトルを用いた鉄価数比推定は, 炭素質コンドライト中の層状ケイ酸塩鉱物の酸化還元状態を評価する手法として有効であると結論づけられる. 実用的にはLβ/Lα強度比法を主指標とし, SAS法を補助的指標として併用することが信頼性の高い評価手法であると考えられる.
今後は, 検量線の精度向上を目的とした幅広い鉄価数比を有する標準試料の拡充およびより多様な変成度の隕石試料の分析により, 鉄の価数状態と水質変成度との関係についての知見が得られると期待される.
