講演情報
[SMP31-P05]接触変成帯が記録する沈み込み帯地温勾配の急変:中部日本における弧–弧衝突期の熱構造再編成
*森 宏1、野部 勇貴1,2、水村 裕紀1,3、山岡 健4、小澤 和浩5、村上 大知1、堀場 汐莉1,6、土肥 陽菜7、延原 香穂1、常盤 哲也1、纐纈 佑衣7 (1.信州大学、2.電源開発株式会社、3.協和設計株式会社、4.産業技術総合研究所,地質情報研究部門、5.精密林業計測株式会社、6.日本工営株式会社、7.名古屋大学)
キーワード:
接触変成作用、地温勾配、炭質物ラマン温度計、熱モデリング、弧-弧衝突、中新世
沈み込み帯における地温勾配は,流体移動,変成反応,マグマ生成,さらには地殻レオロジーや地震発生過程を規定する基盤的な熱的パラメータであり,プレート収束帯ダイナミクスを理解する上で不可欠である.従来の熱構造モデルでは,地温勾配はプレート年齢や沈み込み角度に支配され,数千万年スケールで緩やかに変化する準定常的な場として扱われてきた.しかし近年,弧–弧衝突に伴う地殻厚化とそれに続くリソスフェアの剥離などのテクトニック過程,あるいは活発なマグマ活動に伴う熱付加が非定常的に地殻熱構造を再編成し得ることが,数値計算により示唆されている.一方で,そのような非定常的熱構造変化を天然の地質記録から直接定量化した実証研究は限られており,沈み込み帯の熱構造が実際にどの時間スケールでどの程度変動し得るのかについては依然として不明な点が多い.
本研究では,マグマ貫入に伴う接触変成帯を利用して貫入当時の広域地温勾配を定量復元し,特定時点における地殻熱構造の瞬間像(地温勾配のスナップショット)を抽出することを目的とする.接触変成作用は短期間に進行する明瞭な熱イベントであり,接触変成岩には当時の熱構造が良好に保存される.この性質を貫入年代と組み合わせることで,高時間分解能での地温勾配推定が可能となる.本研究はこの手法を,近接地域かつ異なる年代の複数貫入岩体に適用し,地温勾配の時間進化を直接比較することを試みる.
本研究では,中新世に伊豆–小笠原弧と本州弧の衝突が開始したテクトニック転換域に位置し,活発なマグマ活動と地殻肥厚が重複したと考えられている中部日本に着目する.中部日本では,糸魚川-静岡構造線(ISTL)に沿って基盤岩へ貫入した中新世深成岩体が散在して分布する.そのうち,甲斐駒ヶ岳深成岩体と木舟深成岩体は互いに近接し,岩体規模(直径約10 km),岩相(花崗閃緑岩),貫入圧力(約2 kbar),さらに接触変成作用を受ける母岩が泥質岩主体の弱変成付加体構成岩類である点など,多くの共通性を有する.一方で,貫入年代はそれぞれ約13 Ma,後者が約11 Maであり,約 200 万年の差を示す.このように母岩条件と定置深度が実質的に同一であることから,両地域の比較は時間差のみを主変数とする天然の準コントロール実験とみなすことができる.
両接触変成帯では黒雲母および菫青石アイソグラッドが明瞭に発達し,母岩構造と非調和に分布する.これらの特徴は,貫入時の温度構造が良好に保存されていることを示す.そこで泥質岩試料を貫入境界に概ね直交する方向に高密度で採取し,炭質物ラマン分光分析により変成ピーク温度を推定した.さらに,マグマ温度・定置深度・潜熱を考慮した一次元の貫入熱伝導モデルへのフィッティングにより母岩初期温度を逆算し,各地域における広域地温勾配を定量化した.
両接触変成帯で得られた温度分布を一次元熱伝導モデルと照合した結果,甲斐駒ヶ岳地域では母岩初期温度は約160–180 ℃,地温勾配は約15 ℃/km,木舟地域では母岩初期温度は約310 ℃,地温勾配は約35 ℃/kmに制約される.これらは,ほぼ同一の地質条件であるにもかかわらず,約 200 万年間に地温勾配が倍増したことを示す.この急激な変化量は準定常的熱進化では説明困難であり,沈み込み帯の熱構造が数百万年スケールで再編成され得ることを示す直接的証拠である.この時期は約 15 Maに開始した弧-弧衝突期に対応する.わずか200万年間で地温勾配が倍増した事実は,先行研究(Arnold et al. 2001, Journal of Geodynamics, 31, 273–291) が示す,衝突に伴う地殻肥厚とリソスフェアの剥離(デラミネーション),およびそれに続く高温アセノスフェアの上昇による急速な地殻加熱と整合的である.中部日本では,地球物理学的観測から厚い地殻構造が示されており(Matsubara et al., 2017, 710–711, 97–107),本研究結果は,衝突に起因する地殻スケールの動的な熱構造再編成を直接示す.
本研究は,接触変成帯から復元される地温勾配を,時間情報を持つ“熱構造のスナップショット”として体系的に比較することで,沈み込み帯の熱構造進化を実証的に制約できることを示す.本手法は他地域にも適用可能であり,高時空間分解能での地温勾配変遷の解明に有効なアプローチである.
本研究では,マグマ貫入に伴う接触変成帯を利用して貫入当時の広域地温勾配を定量復元し,特定時点における地殻熱構造の瞬間像(地温勾配のスナップショット)を抽出することを目的とする.接触変成作用は短期間に進行する明瞭な熱イベントであり,接触変成岩には当時の熱構造が良好に保存される.この性質を貫入年代と組み合わせることで,高時間分解能での地温勾配推定が可能となる.本研究はこの手法を,近接地域かつ異なる年代の複数貫入岩体に適用し,地温勾配の時間進化を直接比較することを試みる.
本研究では,中新世に伊豆–小笠原弧と本州弧の衝突が開始したテクトニック転換域に位置し,活発なマグマ活動と地殻肥厚が重複したと考えられている中部日本に着目する.中部日本では,糸魚川-静岡構造線(ISTL)に沿って基盤岩へ貫入した中新世深成岩体が散在して分布する.そのうち,甲斐駒ヶ岳深成岩体と木舟深成岩体は互いに近接し,岩体規模(直径約10 km),岩相(花崗閃緑岩),貫入圧力(約2 kbar),さらに接触変成作用を受ける母岩が泥質岩主体の弱変成付加体構成岩類である点など,多くの共通性を有する.一方で,貫入年代はそれぞれ約13 Ma,後者が約11 Maであり,約 200 万年の差を示す.このように母岩条件と定置深度が実質的に同一であることから,両地域の比較は時間差のみを主変数とする天然の準コントロール実験とみなすことができる.
両接触変成帯では黒雲母および菫青石アイソグラッドが明瞭に発達し,母岩構造と非調和に分布する.これらの特徴は,貫入時の温度構造が良好に保存されていることを示す.そこで泥質岩試料を貫入境界に概ね直交する方向に高密度で採取し,炭質物ラマン分光分析により変成ピーク温度を推定した.さらに,マグマ温度・定置深度・潜熱を考慮した一次元の貫入熱伝導モデルへのフィッティングにより母岩初期温度を逆算し,各地域における広域地温勾配を定量化した.
両接触変成帯で得られた温度分布を一次元熱伝導モデルと照合した結果,甲斐駒ヶ岳地域では母岩初期温度は約160–180 ℃,地温勾配は約15 ℃/km,木舟地域では母岩初期温度は約310 ℃,地温勾配は約35 ℃/kmに制約される.これらは,ほぼ同一の地質条件であるにもかかわらず,約 200 万年間に地温勾配が倍増したことを示す.この急激な変化量は準定常的熱進化では説明困難であり,沈み込み帯の熱構造が数百万年スケールで再編成され得ることを示す直接的証拠である.この時期は約 15 Maに開始した弧-弧衝突期に対応する.わずか200万年間で地温勾配が倍増した事実は,先行研究(Arnold et al. 2001, Journal of Geodynamics, 31, 273–291) が示す,衝突に伴う地殻肥厚とリソスフェアの剥離(デラミネーション),およびそれに続く高温アセノスフェアの上昇による急速な地殻加熱と整合的である.中部日本では,地球物理学的観測から厚い地殻構造が示されており(Matsubara et al., 2017, 710–711, 97–107),本研究結果は,衝突に起因する地殻スケールの動的な熱構造再編成を直接示す.
本研究は,接触変成帯から復元される地温勾配を,時間情報を持つ“熱構造のスナップショット”として体系的に比較することで,沈み込み帯の熱構造進化を実証的に制約できることを示す.本手法は他地域にも適用可能であり,高時空間分解能での地温勾配変遷の解明に有効なアプローチである.
