講演情報
[U07-P02]アワビ殻同位体記録による日本周辺沿岸域における水塊変動と生息復元の可能性
*黄 子涵1,2、平林 頌子1、宮入 陽介1、白井 厚太郎1,3、早川 淳1、平瀬 祥太朗4、三木 志緒乃1,3、太田 耕輔5、福田 秀樹1、田中 潔1、窪田 薫1、山口 飛鳥1,3、横山 祐典1,2,3 (1.東京大学大気海洋研究所、2.東京大学総合文化研究科、3.東京大学大学院理学系研究科、4.東京大学大学院農学生命科学研究科、5.産業技術総合研究所地質調査総合センター)
キーワード:
アワビ、安定同位体 (δ18O、δ13C)、放射性炭素(Δ14C)、黒潮、親潮
日本列島周辺では、黒潮・親潮・対馬暖流といった海流が、気候、生態系、漁業、さらには文化の形成に長年にわたり大きな影響を与えてきた。近年、黒潮―親潮移行帯の変動など、これらの海流系に変化が生じていることが指摘されており、大規模な海洋循環の変動が沿岸域の環境にどのように現れるのかを理解するためには、観測データを補完する高解像度の沿岸環境アーカイブが求められている。
アワビ類(Haliotis 属)は、亜寒帯から亜熱帯にかけて広く分布する長寿命の沿岸性巻貝であり、さまざまな海洋環境に生息している。炭酸カルシウムからなるアワビ殻は連続的に成長し、季節スケールの地球化学的情報を保存することから、過去の海洋環境変動を記録する有望なアーカイブとして期待される。本研究では、安定同位体(d18O、d13C)および放射性炭素同位体(D14C)を用いて、アワビ殻の沿岸環境アーカイブとしての可能性を評価した。
解析対象として、親潮―黒潮移行域に位置する大槌湾のエゾアワビ(H. discus hannai;浅所に生息)、黒潮域に位置する徳島県沿岸のクロアワビ(H. discus discus;浅所に生息)およびマダカアワビ(H. madaka;より深所に生息)、ならびに黒潮の影響を強く受ける奄美大島のイボアナゴウ(H. varia;潮間帯下部に生息)の現生殻を分析した。本研究では、異なる海流環境の比較に加え、同一海流域内での生息水深の違いにも着目し、D14Cおよび安定同位体値の変動を海流の影響と種ごとの生息環境の両面から検討した。
貝殻のd18O記録には明瞭な季節変動が認められ、地域や種による成長様式および局所的な生息環境の違いを反映している可能性がある。一方、D14C値は地域間で系統的な差異を示し、水塊起源や海流の影響の違いを捉えている。大槌湾のエゾアワビ殻ではD14Cの大幅な変動を伴いながらも2011年から2019年にかけて減少傾向を示し、その後2019年から2022年にかけては増加に転じた。この近年の増加は黒潮や津軽暖流の影響増大による可能性がある。一方、徳島クロアワビ、マダカアワビおよび奄美のイボアナゴウでは、D14C値が相対的に高い水準で推移しており、大槌湾のエゾアワビで見られたような大幅な変動は抑制されていた。これは黒潮域における沿岸水塊の安定性が反映している可能性がある。また、徳島沿岸の比較においては、マダカアワビが同時期に採集されたクロアワビよりもD14C値が低く安定しており、生息深度の違いによる曝露水塊の差異を反映している可能性がある。
以上の結果は、アワビ殻同位体記録が、海流に関連した水塊特性と種ごとの生息環境の影響を捉えうることが示唆された。本研究は、日本周辺沿岸域における海洋循環変動と生態系変動との関連を理解するための一助となる基礎的知見を提供することが期待される。
アワビ類(Haliotis 属)は、亜寒帯から亜熱帯にかけて広く分布する長寿命の沿岸性巻貝であり、さまざまな海洋環境に生息している。炭酸カルシウムからなるアワビ殻は連続的に成長し、季節スケールの地球化学的情報を保存することから、過去の海洋環境変動を記録する有望なアーカイブとして期待される。本研究では、安定同位体(d18O、d13C)および放射性炭素同位体(D14C)を用いて、アワビ殻の沿岸環境アーカイブとしての可能性を評価した。
解析対象として、親潮―黒潮移行域に位置する大槌湾のエゾアワビ(H. discus hannai;浅所に生息)、黒潮域に位置する徳島県沿岸のクロアワビ(H. discus discus;浅所に生息)およびマダカアワビ(H. madaka;より深所に生息)、ならびに黒潮の影響を強く受ける奄美大島のイボアナゴウ(H. varia;潮間帯下部に生息)の現生殻を分析した。本研究では、異なる海流環境の比較に加え、同一海流域内での生息水深の違いにも着目し、D14Cおよび安定同位体値の変動を海流の影響と種ごとの生息環境の両面から検討した。
貝殻のd18O記録には明瞭な季節変動が認められ、地域や種による成長様式および局所的な生息環境の違いを反映している可能性がある。一方、D14C値は地域間で系統的な差異を示し、水塊起源や海流の影響の違いを捉えている。大槌湾のエゾアワビ殻ではD14Cの大幅な変動を伴いながらも2011年から2019年にかけて減少傾向を示し、その後2019年から2022年にかけては増加に転じた。この近年の増加は黒潮や津軽暖流の影響増大による可能性がある。一方、徳島クロアワビ、マダカアワビおよび奄美のイボアナゴウでは、D14C値が相対的に高い水準で推移しており、大槌湾のエゾアワビで見られたような大幅な変動は抑制されていた。これは黒潮域における沿岸水塊の安定性が反映している可能性がある。また、徳島沿岸の比較においては、マダカアワビが同時期に採集されたクロアワビよりもD14C値が低く安定しており、生息深度の違いによる曝露水塊の差異を反映している可能性がある。
以上の結果は、アワビ殻同位体記録が、海流に関連した水塊特性と種ごとの生息環境の影響を捉えうることが示唆された。本研究は、日本周辺沿岸域における海洋循環変動と生態系変動との関連を理解するための一助となる基礎的知見を提供することが期待される。
