講演情報

[U11-P26]古気候復元手法を用いた過去1000年間の穀物収量ポテンシャル復元と社会イベントとの比較分析

*松村 徳大1、増冨 祐司2、程 敬雅1、芳村 圭1 (1.東京大学、2.国立環境研究所)

キーワード:

History of Climate and Society、古気候復元、オフラインデータ同化、穀物収量

古気候観測プロキシを用いた過去気候変動の復元についての研究は進んできているが、気候変動によって社会がどういう影響を受けてきたのかは未解明であり、双方には大きなギャップがある。

本研究では、気候と社会の間に少なくとも存在する要素である穀物収量に着目した。穀物収量を復元するため、process-basedで陸面モデルと穀物成長モデルを統合したMATCROでシミュレートされた穀物収量と、古気候復元で広く使われているオフラインデータ同化のフレームワークを用いて、実際のプロキシデータ(DoD2k)から過去1000年間のコメとコムギの収量ポテンシャルの復元を試みた。また、復元された収量ポテンシャルと独立した飢饉指標とされる埋葬データや気候変数との比較も行った。

収量ポテンシャル復元の信頼度が高かった西ヨーロッパのコムギ収量と歴史文書で記された埋葬データとの比較を行った。しかし、飢饉指標とされている埋葬データと復元収量の間に明確な関係性は見出せず、収量と飢饉の間にも考慮しなければならない要素が多くあることが明確になった。また、収量復元からいくつかの不作期間をピックアップし、それらと気候変数や気候指標との関係性について分析を行い、冬季の復元気温やNAO指標との関係性が示唆された。

18世紀末期のフランス、すなわち革命期において、不作期間と飢饉期間が重なっており、この期間についてさらなる分析を行った。すると、復元収量によると1788年は豊作、1789年以降では不作ということが確認された。一方、歴史分野の先行研究によると、1787年は高収穫量ではあったものの、1788年は低収穫量であったと述べられていた。両方の結果が十分信頼できるものと仮定すると、以下のような仮説が導けた。1788年において気候状態としては豊作ではあったものの、社会混乱などの影響により、実際の収穫量が低下した。一方、1789年以降は気候状態としても不作となり、社会混乱の影響も相まって、収穫量は当然低く、市民の不満も維持され、フランス革命は持続したのではないだろうか。

これらの結果は、観測プロキシ数などに起因する不確実性が多く含まれているものの、プロキシデータ同化が過去収量の復元に十分寄与する可能性があることを示している。本研究は過去気候と社会の関係性を議論する上で重要な視点を提供し、それらの関係性のより緻密な分析を可能にする橋渡し的存在となるものである。