講演情報

[U15-P09]災害発生前DEMを用いたVision Transformerによる深層崩壊のための地すべり感受性マップ―紀伊半島を対象とした事例研究―★招待講演

*菊地 輝行1、山田 哲靖1 (1.公立諏訪東京理科大学)

キーワード:

Vision Transformer、深層崩壊、地すべり感受性マップ、重力変形地形

1 はじめに
将来の斜面崩壊を予測するためには、過去の地すべり事例を把握し、類似した環境条件下での発生を想定することが重要である。地すべりの発生は、地質条件、地形特性、降雨強度など複数の要因が相互に作用することで決定される。しかし、これらの要因は地域ごとに異なり、かつ複雑に相互作用するため、統一的な感受性評価手法はいまだ十分に確立されていない。
深層崩壊の重要な前兆現象の一つに、重力変形地形(Deep Seated Gravitational Slope Deformation, DSGSD)がある。これは岩盤が緩慢に変形する現象であり、二重山稜、小崖、不規則な微地形(凹凸)、谷頭浸食などの微細な地形的特徴を伴うことが多い。これらの特徴は大規模崩壊に先行して現れる可能性があり、近年では高解像度LiDAR由来DEMにより定量的に表現可能となっている。
本研究では、災害前DEMのみを用いて深層崩壊に共通する地形特性を抽出可能かを検証する。そのため、従来広く用いられてきたCNNと、近年注目されるVision Transformer(ViT)を比較する。

2 対象地域およびデータ
対象地域は紀伊山地である。2011年9月の台風12号は総雨量2000 mmを超える豪雨をもたらし、50箇所以上の深層崩壊を発生させた。過去研究では、48~72時間で約600 mmを超える累積降雨が深層崩壊の発生条件であることが示されている。地域は標高220 mから1915 mに及ぶ急峻な山地であり、主に四万十付加体から構成される。災害前後に実施された航空レーザ測量により、1 m解像度DEMが整備された。本研究では災害前DEMのみを入力データとして使用した。1000 m2以上の深層崩壊38箇所を崩壊クラス(y0)、2011年には崩壊しなかった63箇所のDSGSDを持つクラス(y1)、その他を地すべりにかかわりのない地形(y2)とした。入力データとして、傾斜量、固有値比、曲率、地上開度、地下開度、地形的湿潤指数、ウェーブレット係数、標高の8種の地形指標を用いた。これらは地形粗度、凹凸形状、尾根谷構造、集水特性など、重力変形に関連する地形特性を表現する。画像は50×50 mに相当する50×50ピクセルタイルに分割した。総タイル数は36985枚であり、70%を学習、30%を検証に用いた。

3 手法
2種類の深層学習アーキテクチャを比較した。CNNモデルは畳み込みおよびプーリング層により局所的な微地形特徴を抽出する構造であり、約1.6×105パラメータを有する。計算効率と汎化性能を重視した設計である。一方ViTは画像を5×5ピクセルのパッチに分割し、16層のTransformerエンコーダで処理する。自己注意機構により広域的な空間関係を学習可能であり、約1.3×108パラメータを有する。

4 結果
検証精度はViTが0.867、CNNが0.837であり、ViTがやや高い性能を示した。崩壊クラスの再現率はViTで0.95以上、CNNで0.92以上であり、高い検出能力を示した。一方DSGSDクラスは両モデルとも再現率が低く、中間的地形特性を持つことが反映された結果となった。ViTは広域的な空間文脈の把握において優位性を示した。

5 議論
15 km2のテスト領域においてモデルを検証した(Fig-1,2,3)。CNNおよびViTはいずれも二重山稜、不規則凹凸、段差地形を示す領域で連続した判定タイルを抽出した。これらは重力変形地形の特徴を適切に学習していることを示す。一部の領域ではViTがより広範囲を崩壊クラスとして判定した。これらの領域は2011年豪雨では崩壊しなかったが、学習データと類似した地形特性を有している。したがって、単なる誤判定ではなく、潜在的不安定斜面を示唆する結果と解釈できる。

6 結論
事前DEMのみを用いたViTによる感受性評価は、深層崩壊に関連する地形構造を効果的に抽出可能であることが示された。注意機構に基づくアーキテクチャは広域的地形構造の把握に有効であり、将来的な不安定斜面の抽出にも応用可能である。今後は汎化性能向上と他地域への適用検証が課題である。